白石隼也の映画コラム

『ゲーテの恋』~白石隼也・映画コラム~(AG)

2011/10/25


BUTAKOME

リンリンリンリン、虫は一晩中鳴き続け

ガツガツガツガツ、鹿は命を懸けて闘い

チュンチュン、鳥は歌って踊り

ムンムンムンムン、ゴキブリはフェロモンを出す。

1772年、ドイツのある田舎町で23歳の青年もまた恋に落ちました。

今回、紹介する作品は10月29日公開の映画
『ゲーテの恋』

そう、その青年の名前は、後にドイツが世界に誇る文豪となったヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
この物語は、ゲーテが23歳で恋に落ち、彼を一躍有名にした『若きウェルテルの悩み』を書き上げるまでを描いた「若きゲーテの悩み」
小難しい文学的な映画ではありません。
今からたった240年前の恋のお話です。

詩人になることを夢見ていたゲーテであったが、その才能は認められず父親の強い勧めで田舎町の裁判所で働くことになった。
刺激のない田舎町で飽き飽きするゲーテは、ある晩の舞踊会で酔っ払いの女、シャルロッテとぶつかりワインをかけられてしまう。
じゃじゃ馬と罵るゲーテだったが、明くる朝、礼拝堂のミサで歌う美人で気品のあるまるで別人の彼女に心を奪われる。

すっかりシャルロッテに恋に落ちたゲーテは、様々なアプローチを仕掛け彼女を落としにかかるわけだが、そこは他の家族が出ないことを願う家の電話もなければ、赤外線通信で連絡先が交換できるケータイもない、Facebookでキーワードを検索するだけで繋がるなんてことは有り得ない時代なのだ。
当時の男女が唯一繋がる方法は二つ。
直接家に出向くか手紙を書くか。

BUTAKOME

もし、この時代の男が皆“草食系男子”だったら僕は生まれてこなかったかもしれないとちょっと思った。
が、それはないだろう。何故なら彼らにとって恋に落ちるということは、それ以外の何物でもなかったからだ(と思う)。
虫が一晩中鳴き続け、鹿が命を懸けて雄同士で闘うのと同じように、人間の雄も知恵を酷使して雌を落とす。
それがごくごく普通の行動であり、それが自然の摂理だからだ。

では何故、“草食系男子”が誕生してしまったのか。
僕の見解を述べさせて頂くと、我々人類による環境破壊で生態系がおかしくなり自然の摂理が保てなくなっているのと同様にこの240年間の科学の進歩により、人間の恋愛に関する価値観、考え方が変わってしまっただけのことのように思う。
かつては、自ら貪欲に直接アプローチするしか恋愛する方法がなかったわけだけど、今ではインターネット上で疑似恋愛をし、それで満たされる人がいるのだ。
だから昨今、日本で囁かれている“草食系男子”達が一方的に悪いわけではなく、必然的にそういう社会になってしまったのだろうと思う。
しかし、だからと言ってその社会の流れに何の抵抗もせず流されてしまうのはあんまりカッコイイことでないし、環境問題だって見直されているんだから“草食系男子”問題も少しは見直されてもいい気がするのだが・・・。

詩人らしいゲーテの小洒落たアプローチが見事に功を奏す。

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ゲーテとシャルロッテは互いに愛し合い、順調に愛を育んでいくと思われた矢先。またもや時代が彼らの邪魔をする。

絶望するゲーテ。

自害寸前まで追いやった彼の悲しみを理解するのは難しいが、
この失恋こそが後の“ゲーテ”を創り出していったことは間違いない。

「僕は、生まれてこの方アルバイトをしたことがない」と言ったらある方からこんなことを言われたことがある。
「アルバイトすらしたことないガキに役者なんて名乗られたくないね」と。
本当にそうだと思う。そりゃ自分なりには、嫌なことも辛いことも結構あったつもりだが、働く大人からしてみればそんなもん新しく下ろしたばかりのスーツで出勤中、鳥に糞をかけられたくらいの事だろう(そのくらいは言わせて欲しい)。
さらに「君よりサラリーマンを辞めて役者になった人のほうがよっぽど魅力的だ」とも。本当にそうだと思う。

そんな僕が言うのも説得力がなさ過ぎるが、いい思いばかりでなく、ゲーテのように死すらも厭わないほどの辛い思いを乗り越えてきたっていう人は、どういうわけか挙って魅力的な人ばかりだ。
だから、その法則に従うと、僕ら若い衆は失敗して辛い思いをすることから避けるのではなく、どんどん高い壁にぶち当たりに行ってどんどん失敗していいんだ。
と、10回くらいこの映画を観ている最中に思った。

全国の高校と大学で上映したら、日本の青年達は全国的にちょっとカッコ良くなるんじゃないかなぁ。全国の学校の先生、どうか検討してみてください。

と、青臭い持論をかましてしまいました。

23歳のゲーテと今の自分をどこかで重ねて観ていた所もあると思うんだけど、それ以外にもこの映画にのめり込んでしまう要素はたくさん。

まず、注目してほしいのが忠実に再現された(であろう)18世紀のドイツが描かれていること
実際に18世紀を生きたわけじゃないので真実は誰にも分からないけど、細かい細かい所までセットや衣装にこだわりが感じられて。
驚いたのが、エキストラの通行人の女性たちがスカートを泥だらけにして道を普通に歩いてるシーン。
きっとそうなんだよね。
18世紀のドイツの田舎町なんだから、ちゃんと舗装されていない道だってあるわけで、そういう道は雨が降った後は泥泥になるのが普通なんだよね。
ああ、そうだったんだろうなぁ、って。
そういう演出の積み重ねがあるからこそ余計なことを考えずに彼らに恋バナに集中させてくれるんでしょうね。

他にも、男子が被るカツラの裏事情や恋文のちょっとしたルールなど、興味深いシーンが随所に散りばめてあるので、その辺もちょっと注目してみると面白いかもしれませんよ。

実は他にも色々書きたいことがあったんですけど、そろそろくどいかと思いますので終わりにしておきます。

遅ればせながらこれから『若きウェルテルの悩み』を読もうとしているので、読み終えたら追記で何か書こうと思ってます。

ので、是非とも皆さんも劇場で若きゲーテの悩みを覗いてみては如何でしょうか。

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BUTAKOME
『ゲーテの恋』

10月29日よりTOHOシネマズ シャンテ他
全国順次ロードショー

※公式HPはコチラから

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【プロフィール】白石隼也

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