劇場版『鬼滅の刃』の“異常ヒット”に、どうしても「不気味さ」を感じてしまうワケ

みんなが必死で消費をしている
堀井 憲一郎 プロフィール

2017年から2018年にかけて、たまに“キメツ”の話をすると、反応があるのは女子大生だけで、おもいだせば、アニメが始まる前から“キメツ”は女子のものだった。

私は2017年途中からとても引き込まれて、熱心なファンだったのだが、でもあまり『鬼滅の刃』が好きとはおおっぴらに言う雰囲気でもなかった。言ってもいいし、べつにバカにはされないが、ふーん、あれが好きなんですねえ、と熱くも冷たくもない反応をされるだけで、つまり広げられる話題ではなかったのだ。わざわざ話題にするほどのものではない。秘かに勝手に好きになっていればいい漫画であり、必ず反応してくれる二、三人とときどき話題にするタイプの漫画だった。

それがアニメ化されるまえ2017年、2018年の、私の周辺のジャンプ読者の風景である。

 

「何でもいいから消費したい」気分

今回のブームは、正直、ちょっと不気味である。

ブームに先んじてこの漫画の良さを知っていた、という自慢をしたい気持ちにはまったくならない。ブームが異様すぎるからだ。

みんなで何でもいいから消費したいときに、たまたまこの作品が選ばれただけ、という感じがする。なにも鬼滅でなくてもよかったのに、とおもう。

物語の最後までアニメ化されるのはこのままのペースだと数年先になるとおもうが(作品周辺のすべての大人は急ごうと考えてるはずだからどうなるかわからないけど)、そのころには、「え、鬼滅の刃ってまだやってるの? なつかしー!」と言われそうで、それぐらいに落ち着いていてくれればいいな、と願っている。

いま、わたしたちは妙なところに迷い込んでいるのではないだろうか。なぜか世の娯楽の映画部門には、『劇場版 鬼滅の刃』しかないようにおもいこんで、必死でみんなで消費して、その消費を共有しようとしている。何かを間違えて、あせっているようにしか見えない。