コロナ下の舞台 現場目線で支援を図れ

2020年11月18日 07時32分
 コロナ禍が音楽や演劇界を直撃している。文化庁も支援策を設けたが、業界のニーズと合わず、不人気だ。二十五日から追加の募集が始まるが、現場目線からの制度見直しが必要だ。
 アニメ映画「鬼滅の刃」の大ヒットこそあったものの、コロナ禍でエンターテインメント業界は死活にかかわる事態に陥っている。
 とりわけ、音楽や演劇などの舞台や独立系の映画館運営に携わる人々の苦悩は深い。ぴあ総研は先月下旬、今年のライブ・エンターテインメント市場規模を前年比八割減の千三百六億円と試算した。
 ライブハウス関係者からは「このままでは一年もたない業者が九割」という声も上がっている。
 こうした苦境を受け、文化庁は二〇二〇年度第二次補正予算で年間予算の半額に迫る五百九億円の「文化芸術活動の継続支援事業」を設けた。小規模団体やフリーランスの実演家などが対象で標準的なフリーランスの場合、上限二十万円を援助するという内容だ。
 七月に募集を始め、当初は個人だけで十万人の応募を見込んだ。だが、九月末に締め切られた三次募集までの申請件数は約五万四千件で、全て採択されても総額で三百八十七億円分にすぎない。
 不人気の原因は事業の内容にある。公演団体などは休演への赤字補填(ほてん)や補償を求めているが、この支援策は新規事業への補助が基本で、一定の自己資金がないと申請できない。これは休業補償を渋る政府の姿勢を反映している。
 さらにプロが対象なので、事務局が認定した業界団体への所属や確定申告書などの提出が条件になっている。だが、低収入から確定申告していない人が少なくなく、音響や照明の技術者らの間では業界団体自体が知られていない。
 申請できる企画の対象期間も短い。今月二十五日から四次募集が始まるが、対象は来年二月末までの公演などだ。いずれの問題も、現場の実態や要望を十分に理解していないことから生じている。
 経済産業省にも類似の支援策があるが、新規事業が対象である点は変わらない。九月にイベント会場への入場制限が緩和されたが、新型コロナの再燃で業界の先行きには暗雲が漂っている。
 文化芸術活動を「不要不急」と切り捨てる意見もある。だが、熟練の技術や劇場経営は一度失われれば、取り戻すことは容易ではない。政府には現場のニーズに即した支援策の見直しを求めたい。

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