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2018.10.30 スイッチングノイズ-EMC
前回は、インダクタの基本特性について説明しました。今回は、実際のノイズ対策について説明しますが、インダクタの仲間で同様にノイズ対策によく利用されるフェライトビーズと比較しながら話を進めます。
インダクタによるノイズ対策
コンデンサだけで十分にノイズを除去できない場合、インダクタの利用を検討します。ノイズ対策で使用するインダクタは大きくわけると2つになります。
①巻線タイプのインダクタ:フィルタを構成する
②フェライトビーズ:ノイズを熱に変換する。
インダクタとフェライトビーズのインピーダンス特性
インダクタとフェライトビーズによるノイズ対策に入る前に、それぞれの基本特性を確認しておきます。フェライトビーズはインダクタに分類されますが、一般的なインダクタとは周波数-インピーダンス特性が異なります。
フェライトビーズは、一般的なインダクタに対して抵抗成分Rが大きくQが低い特性を持っています。この特性を利用したノイズ除去が可能です。
また、直流電流特性も異なります。
一般のインダクタは比較的大きな直流重畳電流を許容でき、その範囲内であればインピーダンスは直流電流の影響をあまり受けることはなく、共振点もほとんど変わりません。対してフェライトビーズは直流電流に飽和しやすく、飽和によりインダクタンスが低下して共振点が高域に移動します。これによって、フィルタ特性が変動するので注意が必要です。
それでは、インダクタとフェライトビーズを使ったノイズ対策に入ります。
①巻線タイプのインダクタ:フィルタを構成する
インダクタを使用したπ型フィルタについての説明になります。低周波領域ではインダクタとコンデンサによるローパスフィルタとして働きます。高周波になるとインダクタは容量として、コンデンサはインダクタとして振る舞うようになり、ハイパスフィルタとして機能するため、ノイズ除去効果は得られません。
②フェライトビーズ:ノイズを熱に変換する
フェライトビーズも低周波領域では基本的にローパスフィルタとして機能します。ただし、この領域では前述したとおり直流電流に対して飽和しやすく、インダクタンスが低下するフェライトビーズでは狙った帯域のノイズを除去することは困難です。
次に右側のグラフを見てください。リアクタンスが低下し抵抗成分とクロスするポイントがあります。このクロスポイントと呼ばれる帯域を超えるとフェライトビーズは抵抗として機能し、ノイズを熱に変換する役割を果たします。ここが巻線タイプのインダクタを使用したフィルタとの大きな違いです。なお、さらに高い帯域では巻線タイプのインダクタ同様にハイパスフィルタとして機能します。
フェライトビーズを使用したフィルタは、ノイズをバイパスするだけでなく熱に変換するため、高いノイズ除去性能を期待できます。ただし、直流バイアス電流特性には注意が必要です。
・ノイズ対策に使うインダクタは、大別すると巻線タイプのインダクタによるフィルタと、フェライトビーズによる熱変換。
・フェライトビーズは、一般的なインダクタに対して抵抗成分Rが大きくQが低い。
・一般のインダクタは比較的大きな直流重畳電流を許容でき、その範囲内であればインピーダンスは直流電流の影響をあまり受けることない。
・フェライトビーズは直流電流に飽和しやすく、飽和によりインダクタンスが低下して共振点が高域に移動する。
・一般的なインダクタによるフィルタは、広いインダクタンス値の選択が可能。
・フェライトビーズはQが低いので比較的広い周波数での対策に効果的。