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トランプ大統領退任後に待ち受ける訴訟の数々。一族ビジネス巡り有罪の可能性も

11月14日、ホワイトハウス周辺に集まったトランプ支持者たち。

11月14日、ホワイトハウス周辺には多くのトランプ支持者たちが集まった。

REUTERS/Tom Brenner TPX IMAGES OF THE DAY

アメリカ大統領選は11月13日、全ての州での勝敗が判明した。

民主党のバイデン前副大統領が選挙人の過半数270人を大きく超える306人を獲得し、共和党のトランプ大統領の232人に大差をつけた。敗北をいまだに認めていないトランプ氏だが、逆転勝利の道はいよいよ狭まりつつある。

トランプ氏が失うのは、再選のチャンスだけではない。現職大統領は、刑事訴追できないという司法省の指針に基づき「特別に」保護される。だが、再選できず、“一般人”となれば当然この特別扱いは適用されない。

トランプ氏が敗北し、大統領を退任した後には、数多くの訴訟や司法当局による捜査が待ち受けている。過去に明るみに出てきた数々のスキャンダルをめぐる長い係争が始まり、それがトランプ一家を苦しめるだろう。

「刑務所入り」という可能性も

トランプタワー

世界中でホテルやゴルフ場などを経営するトランプ・オーガニゼーション。その組織とその幹部らについては数々の“疑惑”が指摘されてきた。

Shutterstock/nyker

中でも最大の注目を集めるのが、トランプ一族のビジネスを担う「トランプ・オーガニゼーション」に関する捜査だ。現在は2人の息子が経営を引き継いでいる。

注目されるのは、ニューヨーク・マンハッタン地区のサイラス・バンス・ジュニア検事長(民主党)が進めている捜査。世界中でホテルやゴルフ場などを経営するトランプ・オーガニゼーションとその幹部らにについて、バンス氏が内偵していることが、数少ない司法文書から明らかになっている。

しかし2019年秋、バンス氏のチームがトランプ氏の過去8年間の納税申告書と財務諸表の提出を命じた際、トランプ氏側は連邦最高裁に対し召喚状の差し止めを求めた。現在、連邦最高裁の判断がまだ出ておらず、バンス氏の捜査は進んでいない。

連邦最高裁が今後、バンス氏に数々の記録文書を取得する権限を与えれば、「前大統領にとっては刑事上の有罪判決、あるいは刑務所入りといった驚くべき怪物さえ出現しかねない」(米ニューヨーク・タイムズ)という。

トランプファミリー

トランプ大統領の「敗北」を認めるかどうか、一家の中でも意見が分かれていると報じられている。

J. Scott Applewhite/Getty Images

この不名誉を避けるため、トランプ氏は、バンス氏の捜査を受けるトランプ氏自身や側近、家族を「恩赦」するという見方もある。

トランプ氏は大統領に就任して以来、有罪判決が下された側近や友人をたびたび恩赦してきた。しかし、ニューヨーク・タイムズによると、大統領の恩赦は、州レベルの独立した捜査当局であるバンス氏のマンハッタン地区検事局には及ばないという。

それではバンス氏のチームは何を捜査しているのか。ニューヨーク・タイムズやウォールストリート・ジャーナルによると、トランプ・オーガニゼーションによる以下の重大な金融犯罪が上がっている。

  • 税の優遇措置の不正利用
  • 保険金詐欺
  • 財務不正による窃盗

さらにバンス氏の指揮の下、元アダルト女優に対する口止め料に絡む捜査が終了しており、トランプ氏の側近がすでに有罪判決を受けている。

トランプ氏の元顧問弁護士でフィクサー役だったマイケル・コーエン氏は、2016年大統領選挙の直前、トランプ氏と関係があった元アダルト女優ストーミー・ダニエルズ氏に「秘密保持契約」と引き換えに13万ドルを支払ったとして、脱税と選挙資金法違反で有罪となった。

コーエン氏は公判中、口止め料について「連邦の職位のために立候補したある人物に依頼された」と証言した。

トランプ氏は、バンス氏の捜査をたびたび「アメリカ史上、最悪の魔女狩り」と批判。ダニエルズ氏との不倫や、コーエン氏に選挙資金法違反の行為を指示したことを否定している。

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何度もピンチを切り抜けてきた

ロバート・ムラ―特別検察官

トランプ大統領のロシア疑惑の捜査を担当したロバート・ムラー特別検察官。訴追を求めなかったのは、現職大統領を刑事訴追できないという司法省の指針がひとつの理由だった。

Alex Wong/Getty Images

トランプ氏は、選挙前に発覚した女性に対するセクハラや性的暴行証言に始まり、トランプ・オーガニゼーションや納税をめぐる疑惑など、歴代大統領の中でも最もスキャンダルまみれの大統領だ。

大統領就任直後は、トランプ陣営が当選のためにロシアが介入するのと共謀したとする「ロシア疑惑」をめぐり、ロバート・ムラー特別検察官が任命され、捜査を担当した。ムラー氏は、トランプ氏の訴追を要求しなかったが、その理由のひとつとして、現職大統領を訴追できないという前述の司法省指針をあげていた。

さらに2019年には、大統領選挙でライバルとなるバイデン氏について、ウクライナ大統領に捜査を依頼したとする「ウクライナ疑惑」で、民主党多数派の下院によって、職権乱用とする弾劾捜査が行われ、採決でトランプ氏の訴追が可決された。しかし上院の弾劾裁判では、共和党が多数派であるため、有罪票がまとまらず無罪評決に終わった。

トランプ氏がスキャンダルでピンチに陥るたび、反トランプ派の国民は決定的なダメージにつながらないかと固唾(かたず)を飲んでいたが、トランプ氏は見事に毎回ピンチを切り抜けてきた。

今後、現職大統領を保護する司法省の指針から外れて“一般人”になっても、司法当局が訴追できなければ、反トランプ派を再度落胆させることになる。

また別件だが、1990年代半ばにトランプ氏から性的暴行を受けたとして告発したコラムニストのE・ジーン・キャロル氏は、トランプ氏を名誉毀損で訴えている。

11月7日のペンシルバニアの投票所の様子

ペンシルベニア州の開票所周辺にはバイデン・トランプ両氏の支持者が詰め掛けた。

REUTERS/Eduardo Muñoz

それではトランプ氏が現在進めている、選挙の投開票をめぐる法廷闘争で、再選する逆転のシナリオはあるのか。

トランプ陣営は、今回の選挙に「不正」があったとして、激戦州だったペンシルベニア、ミシガン、ジョージアなどで訴訟を起こしてきた。開票を差し止めるものもあれば、死亡者の票が発見された、投票所で共和党の立会人が十分に監視できなかったなどの訴えもあるが、米メディアによると、いずれも証拠が示されていないという。

選挙結果を覆す可能性があるのは、ペンシルベニア州のケースだ。

同州最高裁は、郵便投票の受付期限を投開票日から3日以内に到着したものとする判断を示している。トランプ陣営は(投開票日より後に到着した郵便票を集計すべきではないと主張し)この判断の差し止めを連邦最高裁に求めたが、判断は持ち越しになっている。連邦最高裁が今後トランプ陣営を支持する判断を示す可能性はある。

ただし、連邦最高裁が上訴を審理するのは、投開票日後の3日間に集計された郵便票数が、バイデン氏とトランプ氏の得票差を超える票数に達した場合のみで、その可能性は薄いとされる。

一方で、トランプ氏が2024年大統領選に再出馬を表明すると側近に伝えたと、米ニューヨーク・タイムズが伝えている

津山恵子: ジャーナリスト、元共同通信社記者。ニューヨーク在住。2007年から独立し、主にアエラに、米社会、政治、ビジネスについて執筆。近著は『教育超格差大国アメリカ』『現代アメリカ政治とメディア』(共著)。メディアだけでなく、ご近所や友人との話を行間に、アメリカの空気を伝えるスタイルを好む。

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