8年の交渉を経て、東アジアの地域的包括的経済連携(RCEP)協定が合意に至った。
署名した15カ国の人口と国内総生産(GDP)の合計は、ともに世界の3割を占める。日本が、最大の貿易相手国である中国、第3位の韓国と、自由貿易協定を結ぶのは初めてだ。
成長市場であるアジアでの巨大経済圏の誕生により、コロナ禍で縮小した世界貿易が再び活性化することを期待したい。
ただ、発展段階が違う国々の合意を優先した結果、協定は手放しでは歓迎できない内容にとどまったと言わざるを得ない。
日本産工業製品に各国がかける関税の撤廃率は91・5%で、ほぼ100%だった環太平洋経済連携協定(TPP)や欧州連合との経済連携協定(EPA)からは見劣りする。日本の輸出の代表格である完成車は、中韓ともに関税撤廃が見送られた。協定発効から関税撤廃まで20年ほどかかるものも目に付く。
日本が参加を呼びかけていたインドは交渉から離脱した。人口13億人を超える大国インドが不在のままでは、RCEPに傷を残してしまう。インドが合意をためらった最大の理由は、巨額の対中貿易赤字が更に膨らむことにある。日本はインドの産業育成に協力し、粘り強く参加を促していくべきだ。
課題は残ったが、それでもTPP、日欧EPAに続く大型の自由貿易協定に、日本が加わる意味合いは大きい。
世界の自由貿易秩序はいま、大きな危機に直面している。その最大の原因は、中国との対立に象徴される米国の通商政策だ。バイデン次期大統領は、「ラストベルト(さびついた工業地帯)」での支持が当選の決め手になっただけに当面、トランプ現大統領が敷いた保護主義の路線を大きく変えることは難しいとの見方が多い。
しかしRCEPは、米中対立を緩和し、米国を国際協調に引き戻す呼び水になりうる。
今回の協定には、進出した企業への技術移転要求を禁止することが共通ルールに盛り込まれた。ソフトウェアの設計図である「ソースコード」の開示要求の禁止は合意できなかったものの、対話を続けることにした。ともに米国が中国に注文を突きつけてきた課題だ。中国に変化が見えれば、米国の姿勢も変わる可能性がある。
通商は本来、世界貿易機関(WTO)のルールに沿って運営されなければならない。多国間の枠組みに戻るよう米国の背中を押し、国際的なルールづくりの機能回復に尽力することが、日本には求められる。米中に続く経済大国として、国際社会で果たすべき役割である。
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