GDP速報値 格差の再拡大が心配だ
2020年11月17日 06時54分
今年七〜九月期の国内総生産(GDP)がプラス成長に転じた。だが、これは経済活動が極端に停滞した前期からの反動にすぎない。今こそ、経済格差の一層の広がりに強く配慮すべき時だ。
内閣府が公表したGDP速報値は前期比5・0%増、年率換算で21・4%増と大幅なプラス成長に転じた。しかし、緊急事態宣言の実施により記録的な落ち込みとなった前期(四〜六月期)との比較で増えただけで、コロナ禍前の水準には戻っていない。
七〜九月期はGDPの半分を占める個人消費も数字上持ち直した。ただこれも十万円の特別定額給付金(現金給付)や、Go To事業といった国の対策が下支えした影響が強く、「消費が戻った」とは判断し難い。
今後、不安なのは感染の再拡大を背景とした消費意欲の低下だ。冬のボーナスも多くの業種で減少は確実で、来年の春闘でも賃金アップは見込めない。これに雇用情勢のさらなる悪化が加われば、年内から来年初めにかけ、GDPが再びマイナスに逆戻りするシナリオは現実味を帯びる。
負の連鎖の中でも特に留意したいのは経済格差が一段と広がる気配が出ていることだ。コロナ禍の影響による失職は今月累計で七万人(見込み含む)を超えた。このうち半数近くは非正規労働者だ。
各企業が経費節減に努める中、解雇や雇い止めの対象になりやすい非正規労働者は人件費削減の標的になりつつある。この結果、すでに多くの非正規労働者が生活苦に直面しているはずだ。
格差は企業間でも目立ち始めている。コロナ禍で新たに生まれた需要を取り込んだ一部外食産業や宅配事業者、リモートの活用で効率化を進めたIT企業などでは決算が好転した例も出ている。
しかし、観光や衣料関連、小規模な飲食店では経営破綻や解雇が激増している。Go To事業でも一部の予約サイトや高級宿泊施設は潤ったが、民宿やビジネスホテルは恩恵が少なかったとの指摘もある。
平均株価が上がったりGDPの見かけ上の数値が好転しても、一部を除く大半の人々の暮らしは日々悪化の道をたどっているとみていいだろう。
政府は追加の経済対策を検討中だ。巨額予算を投じるのであれば、最も苦境にあえいでいる人々にこそ光を当て、支援が隅々まで行き渡る包摂型の対策を実施すべきである。
関連キーワード
PR情報