種苗法改正 不安の種を取り除け

2020年11月17日 06時54分
 品種登録された農作物の“種取り”を禁ずる種苗法改正案が、衆院委員会で早々と採決される見通しだ。審議入りから一週間足らず。農家や消費者を置き去りにしたままの強行は許されない。
 現行の種苗法などでは、登録品種であっても、国内に限り稲などの種を自家採取したり、芋などの苗を自家増殖させて増やしていくことが認められている。ところが審議中の改正案では一律禁止され、違反すれば、個人には十年以下の懲役、または一千万円以下の罰金、農業生産法人には三億円以下の罰金が科されることになる。
 目的は開発者(育成者権者)の保護である。農林水産省の研究機関が開発した高級ブドウ、シャインマスカットが中国や韓国に流出し、安い値段で流通していることが契機になった。
 自家採取、自家増殖が禁止になれば、農家は毎年、大量の種や苗を買うか、開発者に許諾料を支払わなければならなくなる。
 「登録品種は農産物全体の一割程度。都道府県の農業試験場など公的機関で作出された安価な種子などが多く、農家の経済的負担は限定的だ」という見方もある。
 しかし、農林水産省が五年前、全国の農業経営体を対象に実施した「自家増殖に関するアンケート」によると、登録品種の自家増殖をしていると答えた農家は52%に上る。また、北海道や青森県で作付けされる米の七割以上を登録品種が占めるという。
 農業競争力強化支援法は、民間の参入意欲を高めるためとして、自治体が持つ種苗生産のノウハウを民間に開放するよう求めており、それに基づいて、都道府県に米などの優良品種の開発を義務付けた主要農作物種子法を廃止した。公共の安価な種子がいつまでも手に入るという保証はない。
 現行の種苗法は既に、収穫物を許可なく海外に持ち出すことを禁じているが、法改正によって出元が特定しやすくなり、国外への流出防止効果は高まるだろう。ただ仮に、今より持ち出しにくくなるにしても、国内農業に与える影響を考えれば、妥当な方策か。意見が分かれるところだ。
 種子の購入量が増えることで、海外の種子メジャーによる市場支配が進み、農家が痛手を受けるのではという不安の声も多くある。
 農家を守るという法改正が、多くの農家にとって不安の種になっているという現状を直視して、さらに議論を尽くしてほしい。

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