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演劇・ミュージカル
ミュージカル『ハムレット』開幕レポート
2012/02/07
井上芳雄さん主演のミュージカル『ハムレット』
がシアタークリエで開幕しました!
チェコの人気ミュージシャン、ヤネック・レデツキーによるチェコ発のミュージカルということで、昨年から話題にあがっていたこの舞台。
以前にブタコメでご紹介したように(詳しくはコチラ)、韓国では2007年から上演が繰り返されている大ヒット・ミュージカルなんですよね。
そのザッツ・エンターテインメントなインパクトが脳裏に刻み込まれている筆者としては、どうしても両者を比較せずに観ることはできません。
そんな横道な視線も紛れ込ませつつ、日本版『ハムレット』の舞台を振り返ってみたいと思います。
上演前から舞台前面には大きなデンマーク国旗が垂れ下がり、不穏なドラマの始まりを予感させる重厚な空気を醸し出しています。
舞台奥は石壁、上手に天へと上る鉄階段が配された硬質でクールな美術は、せわしなくも賑やかだった韓国の回転舞台とは真反対のイメージ。
先王の葬儀が厳かに行われるなか、鉄階段の最上部から井上ハムレットがひっそりと姿を現わします。
韓国レポートには「筆者が見た歴代ハムレットの中でナンバー1のナルシスト」と書いたハムレット像ですが、静かな怒りを内に込めてたたずむ井上ハムレットに、甘き憂いなどは見られません。
その歌声も、苦悩や憤怒をストレートに声に乗せた、まるで血を吐くような痛みを伝えてくる力強さ。
「美しく歌う」ことを要求しない栗山民也さんの演出が、悲劇をしっかりと私たちに突きつけてくる気がしました。
それでもやはり、井上さんの魂の歌声は哀しい美しさに満ちているのですが…。
シンデレラガール昆夏美さんが純粋無垢なオフィーリアを可憐に体現していて、井上さんとのシルエットバランスもピッタリ。
澄んだ歌声で恋するときめきから嘆き、絶望、狂気までを幅広く表現し、小さな体で見事に人間オフィーリアを描き出して観客の涙を誘います。
伊礼彼方さんはハイトーンボイスにレアティーズの苛立ちを込め、自尊心をあらわにした端正な立ち姿が印象的。
ポローニアス役の山路和弘さんは重厚な空気にふわっと笑いを差し込ませて、さすが巧者の味わい。
気高い意志の強さと女性としてのか弱さ、迷いを絶妙に交差させる涼風真世ガートルードと、威厳のふるまいから徐々に悪の顔を濃くしていく村井國夫クローディアス。
ベテランのお二方の風格が作品の軸を支えます。
ホレーショー役の成河さんは最も現代的な装いで立ち回り、物語の登場人物でいながらもどこか舞台と客席をつなぐ役割を匂わせる、不思議な存在感を放っていました。
ザッツ・エンターテインメントな韓国バージョンに比べるととても演劇的で骨太な舞台に仕上がっている日本バージョン。
それでもやはりレデツキーのポップでロックな音楽が物語を軽やかに、スピーディーに転がしていきます。
一幕の一時間があっという間に過ぎ去ったような感覚で、「あんなに早く“尼寺へ行け”のフレーズが出てくるとは!」と驚く友人に、ごもっとも!と思わず笑ってしまいました。
二幕に入ると緊張と衝撃のシーンがたたみかけるように訪れて、あれよあれよとハムレットとレアティーズの決闘のクライマックスへ。
激しいアクションシーンの後、「終わった…」とつぶやく井上ハムレット。
その安堵の微笑みがあまりにもせつなく胸に染み渡る幕引きでした。
この舞台で初めてシェイクスピアの「ハムレット」を知る人には、ちょっと慌ただしくて頭が混乱するかもしれませんね。
でもこのグルーブ感はなかなかに中毒性のある、新感覚のシェイクスピア!
観劇後、「いや~エンターテインメントだったね!」と感想を漏らしていた方がいましたが、日本版でそう感じたならぜひとも韓国版も味わってみてほしいっ!
いつかまた韓国で再演された時には、多くの人に国による情緒の違いを楽しく見比べていただきたいと思います。
文/上野紀子
写真提供/東宝演劇部
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ミュージカル「ハムレット」
◆2012年2月1日(水)~22日(水)
シアタークリエ(東京)
◆2012年2月25日(土)~28日(火)
梅田芸術劇場シアタードラマシティ(大阪)
◆2012年3月3日(土)~4日(日)
中日劇場(名古屋)
※公式HPはコチラから
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