演劇・ミュージカル

『ダディ・ロング・レッグズ~足ながおじさんより~』ゲネプロ鑑賞レポート

2012/09/06


BUTAKOME
写真提供/東宝演劇部

 9月2日、シアタークリエにて
ミュージカル『ダディ・ロング・レッグズ~足ながおじさんより~』
が開幕しました。

この作品の原作はタイトルにあるとおり、アメリカの女性小説家ジーン・ウェブスターの名作『足ながおじさん』です。きっと小学校高学年~中学の時期にかけて、この小説を愛読した女子は多いのではないでしょうか。はい、筆者も例にもれず何度も繰り返して読みましたよ! 小説のみならずウェブスター自身が手掛けた挿絵もキュートなんですよね~♪ 

 そんなわけで、とかく日本女性には思い入れの深い作品ではないかと思いますが、製作発表で脚本・演出のジョン・ケアードさんが「この『足ながおじさん』が愛読されている国はフランスと日本で、アメリカではとくに知られていない」とおっしゃっていたことには驚きましたね。
ジャーヴィス(足ながおじさん)役を演じる井上芳雄さんも、「周囲の女性からのプレッシャーが…(汗)」と苦笑されていました。そう、前フリが長くなっちゃいましたが、おそらく2009年のアメリカ初演よりも熱い期待が集中した、待望の日本初演というわけですっ!(鼻息)

 舞台に登場するのは井上さんと、ジルーシャ役坂本真綾さんの二人だけ。坂本さんは最初に登場するや、最後まで徹底しての出ずっぱり! 芝居を続けながら衣裳を着替えたり、舞台上に置かれたいくつものスーツケースやボックスを動かして場面転換をしたりと、大忙しです。足ながおじさんの援助によって大学に進学できることになった孤児のジルーシャは、援助の条件としてその日常を手紙で定期的に報告することに。舞台はそのジルーシャが綴った手紙の文面によって進行していくのですが…。

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 つまり台詞や歌が手紙の語りになっているので、よもすれば淡々と流れてしまうところですが、坂本さんがキビキビとした爽やかな仕種、聡明な美しさのあふれる豊かな表情ではっきりと言葉を届けてくれるので、そのユニーク&シニカルなジルーシャの生活にどんどん引き込まれてしまいます。台詞から歌への移行もナチュラルで、ジルーシャの前向きな明るさが伝わるナンバーの数々が、劇場に心地良く響き渡ります。

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 舞台上手奥は足ながおじさん、実はジルーシャの同級生の叔父であるジャーヴィスの書斎になっています。幕が開き、舞台前面ではジルーシャの一人語りが進行しているなかで、井上さんはいつの間にか書斎にひっそりと登場しているのですが、ずっと後ろ向きのままでなかなか前を向いてその姿をしっかりとは見せてくれません。「アナタは年寄り? 髪は白髪? それともハゲてる?」と好奇心いっぱいのジルーシャの手紙に沿うように、観客の私たちも「一体どんな人?」と(わかっていながらも!)ドキドキしてそのシルエットを追ってしまう、そんな心憎い演出ではないでしょうか。

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 キャストが発表された時、井上芳雄さんが“おじさん”だなんて~!と思った方もいらしたかもしれませんが、この役は絶対にハンサムで当然ながら足が長くて、少々意固地な幼稚さが抜けない、そんな少年っぽさを持ち合わせた人でなくてはダメなんです! ゆえに井上さんは申し分のないベストキャスト!(あ…意固地な幼稚さだなんて…原作への愛ゆえご容赦を。褒め言葉ですからっ) 最初は自分についてしつこく質問してくるジルーシャの手紙を邪見に扱いながらも、その機知に富んだ表現力に惹かれていく様を繊細に表現。自分が足ながおじさんであることを隠して、ジルーシャの前にジャーヴィスとして現れる時のイタズラっ子のような表情や、彼女の手紙の中にほかの男性の影が見えてくるや、大人げない嫉妬心をむきだしにする可愛らしさなど魅力満点で、乙女心を見事にくすぐってくれます。
終盤、ジルーシャとジャーヴィスがお互いの気持ちを探る“駆け引き合戦”のような掛け合いは見もの。そうしてラストは……、思わずため息の漏れるハッピーエンディング。孤児であるジルーシャのシンデレラ・ストーリーと、ジャーヴィスが彼女の愛を得て真の成長を遂げるロマンチックな幕切れに、客席の女性陣がウットリと瞳をうるませているのが感じ取れました。

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 原作に忠実に、その魅力を優しく丁寧に拡大して作り上げたジョンさんを始めとするスタッフの皆さん、そして確かな歌唱力、演技力で届けてくれたキャストのお二人に、愛読者の一人として感謝したいほど。
慎ましい感動がいつまでも心に温かく留まる、真心のこもった愛らしい佳品でした。

取材・文 上野紀子

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『ダディ・ロング・レッグズ~足ながおじさんより~』

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日比谷 シアタークリエ
2012/9/19(水)まで

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