大原薫の観劇コラム

【大原薫の観劇コラム】Vol.1 ミュージカル『グレート・ギャツビー』

2017/05/19


 

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ジェイ・ギャッツビー/井上芳雄、デイジー・ブキャナン/夢咲ねね
写真提供:東宝/梅田芸術劇場

 
「1920年代、ニューヨークで夜な夜な豪華絢爛なパーティを開く謎の大富豪ジェイ・ギャツビーの豪邸の隣に作家志望の青年、ニックが引っ越してきた。パーティに招かれたニックはギャツビーと出会う。実はギャツビーはかつて、ニックのまたいとこのデイジーと恋仲であった。今は上流階級の青年トムの妻となっているデイジーとギャツビーは、ニックの計らいにより再会する……」というストーリー。

 

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ニック・キャラウェイ/田代万里生、ジェイ・ギャッツビー/井上芳雄
写真提供:東宝/梅田芸術劇場

 
何より、井上芳雄さんギャツビーが出色だ。デイジーとの恋を取り戻すためにすべてを賭ける青年の純粋な思いが際立った。邸宅の大階段から「私がギャツビーです」と登場するシーンやアイス・キャッスルで歌い踊るシーンなどは息をのむカッコよさ。指先まで神経が行き届いたエレガントな美しさは、しかし、単純にカッコよく見せるだけのものではなく、成り上がった青年が上流を装うための仮面でもある。

アイス・キャッスルでニックからデイジーの話を聞いて、エレガントな振る舞いから一転、真情がついほとばしってしまうという演技の振幅に目を見張った。胸に秘めたデイジーへの思いを「グリーン・ライト」そして「夜明けの約束」の歌で体現。舞台で見せる背中にギャツビーの万感がこもる。ギャツビーは井上さんの新たな代表作となるだろう。

 

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デイジー・ブキャナン/夢咲ねね、ジェイ・ギャッツビー/井上芳雄、トム・ブキャナン/広瀬友祐(右)
写真提供:東宝/梅田芸術劇場

 
デイジー・ブキャナン役は夢咲ねねさん。元宝塚娘役トップスターらしい華やかさを生かして「薔薇より美しい」ヒロイン像を描く(ちなみに、ギャツビー邸で飾られているデイジーの写真は、夢咲さんの宝塚時代のスチールだった)。デイジーの揺れ動く内面も繊細に描いて、原作とは違うラストの行動にも説得力を持たせた。

 

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ジョーダン・ベイカー/AKANE LIV、ニック・キャラウェイ/田代万里生
写真提供:東宝/梅田芸術劇場

 
語り手として物語の外枠を築く存在でもあるニック・キャラウェイを演じるのは田代万里生さん。あたたかみのある演技が快く、ギャツビーとの友情を感じさせて好演。終幕近くのギャツビーと対決するデュエットに迫力があった。

生まれながらの上流階級の品の良さと裏腹の高慢さを見せたトム・ブキャナン役の広瀬友祐さん。ミュージカルにおいて一段の進化を感じさせた。ジョーダン・ベイカー役のAKANE LIVさんは華やかな容姿と確かな歌唱力でモダン・ウーマンを鮮やかに演じ、フラッパースタイルが似合うマートル・ウィルソン役の蒼乃夕妃さんは現状に満足できない女性の苦悩をにじませた。

そして、作品中に色濃く存在したのが畠中洋さんジョージ・ウィルソンだ。労働者階級が集う「灰の谷」の住人ジョージは、トムと不倫をしている妻マートル(蒼乃夕妃さん)をひたむきに思う。彼の愛情が切ない。悲劇的な展開を迎えるジョージの小刻みに震える手が印象に残る。畠中さんの奥深い演技から、ジョージとギャツビーが対照的な存在であることを思わせた。
 

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ジョージ・ウィルソン/畠中 洋(左)、マートル・ウィルソン/蒼乃夕妃
写真提供:東宝/梅田芸術劇場

 
『グレート・ギャツビー』が描かれている時代「ジャズ・エイジ」は、アメリカが消費社会に変わったときだった。華やかな時代だったが、そこには第一次大戦終結によっても安定しない世界への喪失感があった。そんな中で、物質的に満たされることを求めるのでなく、デイジーへの愛のみをすべてとして生きるギャツビー。

一方、現在の日本はジャズ・エイジと同じように消費主義が目立つ時代。当時のような好況ではないにしろ、言い知れぬ不安感があるところも同様だ。

不器用なほどまっすぐに、ただ愛のために生きる男のロマンは、今の日本の私たちにもいろいろなことを気づかせてくれる。

 

大原 薫(おおはら・かおる)■
プロフィール
演劇ライターとして雑誌(BEST STAGE、Sparkle、STAGE NAVI、ミュージカルなど)や公演パンフレットなどで執筆。ラミン・カリムルー、レア・サロンガ、シンディ・ローパー、ハーヴェイ・ファイアスタインなど海外ミュージカルスター・クリエイターにも精力的に取材する。ブロードウェイミュージカルの魅力に惹かれて毎年ニューヨークを訪れ、現地の熱気を日本に伝える。テレビ番組『アカデミーナイトG』に「4000本以上を観劇したカリスマ演劇ライター」として出演、ミュージカル『ビリー・エリオット』の魅力を熱弁した。心を震わせる作品との出会いを多くの方と共有できることが、何よりの喜び!
 

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