「自転車愛」色鮮やかに 佐賀平野の若者「自己表現」 専用道路 市が整備 佐賀県
●大学生の修理団体も活躍
水色、黄色、ピンク色…。佐賀市近郊では多彩な色の自転車を目にする。他県ではあまりなじみのない光景に、転勤族が驚く声も耳にする。平たんな道が延々と続く佐賀平野は、実にペダルをこぎやすい土地柄だ。この街の「自転車愛」の深さを探った。
早朝の佐賀市多布施2丁目は見ていて面白い。国道264号の自転車道を紫、緑、オレンジなど、派手な色の自転車にまたがった高校生が列をなす。
「特に若者はカラフルな色を好みますね」。少し離れた自転車販売店「セキモトサイクル」の関本憲二店長(54)によると、鮮やかな色が流行し始めたのは約15年前。やんちゃそうな男子高校生から「他人と違う色を」という注文が増え、試しにメーカーに製造を依頼したところ、普通の生徒たちにも広がったという。
今では約30色を扱う。他店も色にこだわり、佐賀市独特の市場ができた。
「ずっと憧れでした」。セキモトサイクルで小城市の中学3年生、小副川晃太さん(14)は緑色の自転車に目を輝かせていた。中学では校則で、派手な色の自転車では通学できなかったという。この春、自由に色を選べる高校に進学する。心待ちにしていたという。
この心理-。九州産業大の北島己佐吉教授(ソーシャルデザイン学)は「多彩な色を好むのは、自転車が服装と同じように自己表現の手段として、佐賀平野で暮らす若者の生活に根ざしている証しでは」とみる。
∞ ∞
佐賀大本庄キャンパスの一角に、壊れた自転車や車輪がずらりと並んでいる。学生たちが手にしているのは工具。「直ると湧くんですよ、愛情が」。放置自転車の再利用団体「チャリさがさいせい」副代表で理工学部2年の伊藤海到さん(20)が目を細めて車体をさする。
2009年に発足し、メンバーは現在約50人。週2回、壊れた自転車を回収しては、まだ使えそうなタイヤやチェーンを取り出して組み直し、1台4千円ほどで販売している。その数、年間400台。修理の技術は当初のメンバーが自転車店などで学んで受け継いできた。1人当たり1日2、3台を修理可能という。
伊藤さんは奈良県出身。佐賀市内の多くの飲食店やスーパーの駐輪場に自転車の空気入れが常備されているのに驚いたという。「とても便利で助かってます」
∞ ∞
ただ、この街にも課題はある。歩行者や車との接触事故を防ぐ自転車専用道路や通行帯の整備だ。佐賀市は01年から市中心部の4キロ四方を重点範囲に整備してきたが、総延長はまだ約10キロ。26年度までに2倍の約20キロに延伸する計画だ。
市は、公共交通網が手薄な郊外観光地への有用な移動手段としても自転車に注目している。有明海の干潟や川副地区の麦畑、大和地区の川上峡など、自然を体感するにはもってこいとみて、県サイクリング協会とサイクリングコースの設定を検討している。
旅行会社「JTB九州」から佐賀市観光・コンベンション推進室に出向中の宮津哲郎室長は「水田や水路に史跡…。何げない景色も、自転車で移動しながら眺めれば立派な観光資源になる」と話す。
佐賀の平野や山間の魅力を発信できれば、初心者から上級者まで幅広い層のサイクリストの聖地になるのも夢ではなさそうだ。
この記事は2017年03月16日付で、内容は当時のものです。