「米国第一」を掲げるトランプ次期米大統領がメキシコに新工場を建設中のトヨタ自動車に対し、「ありえない。高い関税を払え」とツイッターに投稿した。
米フォード・モーターやゼネラル・モーターズに続き、トランプ流の経営介入が日本を代表するトヨタにまで波及した。政治権力者が個別企業の経営に口をはさむのは尋常なことではない。先行きを危惧せざるをえない。
トランプ氏の言い分はメキシコで車をつくり、それを米国に輸出すれば、米国から製造現場と雇用が失われる。そこで高関税をかけて輸入車を締め出すことが、米国の国益にかなうという主張だ。
だが、偏狭な自国第一主義はむしろ米国経済の足かせになる。各国がそれぞれ得意とする財やサービスを生産し、相互にやりとりすることで、生産性や需要が高まり、人々の生活水準も向上する。これが正統的な考え方だ。
こうした一般論を離れても、日本の自動車産業は長年にわたって米国に投資し、米国の雇用拡大に貢献した。優れた品質管理ノウハウなどを移植することで、地場の部品メーカーの実力向上に寄与したという指摘もある。
日本自動車工業会によると、トヨタをはじめとする日本の自動車産業の対米投資額は累計454億ドルに達し、関連産業を含めた雇用創出は150万人強にのぼる。米国販売に占める北米生産車の比率は約75%に達した。かつての激しい日米自動車摩擦を経て、日本車メーカーが米国社会に根付く努力を重ねてきた成果である。
こうした全体像を見ずに、ひとつの工場の計画だけをあげつらう姿勢は著しくバランスを欠く。
トランプ次期大統領は北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しも公約に掲げてきたが、これも弊害が大きい。メキシコに新設する工場ばかりか、既に稼働済みの工場も多大な影響を受けるからだ。日本を含む世界の政治やビジネスのリーダーは、自由貿易の重要性を米新政権に強く訴えるべきだ。