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2013年に関東カメラサービスのブログで「酷い塗装」なるタイトルのブログを書きました。
「カメラ 塗装」で検索すると、わりと上位に先のブログが出てきます。この記事には今でも価値があるのだなと漫然と思っていたのですが、どうせならこちらのブログに書き直しておこうと思いまして今回書くことにしました。ネタ不足ゆえの自分パクリとも言います。加筆修正というか、本筋は同じでも新規に書こうと思います。



さて本題。

うちは塗装(ペイント)を得意としておりまして、カメラやレンズの塗装を請け負っております。オーバーホールして塗装まで行うと、いわゆるレストアということになります。最近ではレストアの依頼が大変多く、一台にかかる時間はかなり長いので、ありがたいことに大忙し。その代わり申しわけないことに納期が長くなってしまっております。クオリティを追求するとどうしても時間が必要でして、社員は皆必死に作業しておりますから、現在納品待ちのお客様は何卒気長にお待ちください。

うちの納期が長いことがいけないのかもしれませんが、最近某オークションやらネット上でライカなどの塗装を安く行う(または塗装したライカなどを販売する)業者がおります。たいていの場合納期も短く、うちと比べて安いし納期は短いとなれば、そこに塗装をお願いしてしまうお客様がいても全くおかしくありません。ただこれらの業者には多くの場合問題があることがありまして、それはとにかく品質があまりにもひどい。なぜそれがわかるかというと、うちでやり直しを希望されるお客様が結構いらっしゃるからなのです。

その一例として今回ご紹介するのは、とあるお客様が某オークションに出ていた業者に頼んだライカM3とズミクロンをブラックペイント(塗装)をしたのですが、届いたカメラとレンズを見てあまりの品質の悪さ、塗装のひどさに落胆されてしまい、うちに塗装のやり直しをご依頼されたものです。
これから紹介していく画像を見ていただければわかりますが、塗装の質や仕上げはあまりにひどく、塗装の世界で言う柚肌とかそういったレベルにも達していません。おもちゃでもここまでひどい塗装ではないだろうと言うレベル。持ち歩くのが恥ずかしいと思います。

さて実際に画像を交えて見ていきたいと思います。

とりあえず塗装の状態を見てください。
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デコボコの表面、ゴミなども多数付着してしまっています。小学生がプラモデルに塗装しても、もう少しキレイに塗りそうなものですけどね。


そして上カバーの裏はこんな感じ。

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後述しますがメッキがそのままになっています。なにやら裏面はサビの対策でそのままにしているとか逃げ口上書いてる場合がありますが、ただ単に無茶なメッキの剥がし方を正当化しているにすぎません。


塗装を剥がしてみるとこんな感じ。

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これね、紙ヤスリで無理やりメッキを剥がしてます。なので裏面や細かい隙間の部分などはメッキが取りきれてなかったりしてます。
いやむしろ取れないなら取れないで、メッキの上から塗った方が、剥がれたときに真鍮が出ないというだけで問題は少ないのです。紙ヤスリでゴシゴシと削ってしまっているので、場合によってはカバーの厚み自体が薄くなってしまい、強度も無ければ触ったときに金属特有の感じが薄れてしまいます。今回のカバーは何とか大丈夫でしたが、実際に薄くなり過ぎていて再塗装をお断りしたケースもままあるのです。

こんな処置で塗装されると知っていたら「お、関東より安いし早くできるからこっちに頼もう」とはならないと思うのです。

もし自分のカメラだったらと思うと悲しくなります。こんなひどい処理をされてボロボロになってしまうなんて。想像するのも嫌です。
お金払って壊されてるのと一緒ですから。
業者選びは慎重にする必要があります。





さて、それではうちの塗装の一例を見て比較してください。

同じくライカM3のオーバーホールとブラックペイント。

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画像では分かりにくですが、多少のキズがあります。塗装するので小キズはあまり関係ありません。凹んでいても板金します。


シャッター幕もゴム引きの面は劣化してしまっています。このままでも使えなくはないのかもしれませんが、光線漏れするかもしれませんし、ゴムが劣化して硬化してますので、ボロボロとゴムが剥がれてカメラ内部に入り込み、ギヤなどに噛んでしまうなどのトラブルの原因になりかねません。やはり交換必須でしょう。

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分解は沢山のライカ純正工具を使用します。

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もちろん今回は塗装しますので、カバーや小物類のメッキを剥離します。

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上の2枚の画像は剥離をして下地処理も完了した状態。素晴らしくキレイです。真鍮の輝きに惚れ惚れします。


そして塗装

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先程のひどい塗装と比較するとよく分かると思いますが、素晴らしい塗装肌ですよね。
もちろん塗料は専用の焼き付け塗料。クリーンルームの塗装室、塗装ブースにて塗ります。
その後細かな温度設定が出来る電機焼き付け釜で、塗料やツヤの出し方などの条件に合わせた温度と時間で焼きます。(一口に焼き付けと称しても家庭用オーブンみたいなもので焼いてたりする業者もありますからご注意を)

これに文字の色入れです。

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彫刻の部分に色を入れます。「ここはこの色で」とかのオーダーも可能です。


小物類も仕上げていきます。

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そして今回はユーズド仕上げというオーダー。
使い込んだ雰囲気に仕上げます。
角の塗料は剥がれるところがありますから、きちんとした剥離をしていないとキレイに真鍮が出てきません。

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完成後に、やはりユーズド仕上げとか言われてしまうと困ってしまうので、オーダーの際にコンセプトは決めてくださいね。


そして機械部分のオーバーホール。

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オーバーホールとは基本的には分解清掃ですから、カバー類を外してちょちょいと注油することではありません。きちんと分解して清掃し、注油し、調整しながら組み上げます。


シャッター幕は交換。

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組み上げられたボディ内部がキレイになっていることがわかりますよね。内部は見えませんが、きちんとした修理を心がけています。

シャッター幕も新品は気持ちいいですね。

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シャッター幕を取り付けて遮光も取り付けたところです。

シャッター幕は先幕後幕の平行がとても大事です。多少ズレていても動いてしまいますが、そういった部分のクオリティを徹底しないと、どうしても仕上がりが残念な感じになります。

ちなみに遮光もつや消しの焼き付け塗装を施しましたので大変キレイで丈夫です。市販の缶スプレーで塗るのとでは質が違います。


そして各部調整をし

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さらにさらに今回は、レンジファインダーのバルサム切れを直します。
この個体はブラックアウト(見えなくなって)していたわけではなく、黄色い縁取りのようになってしまっていた状態でしたのでとりあえず普通に使えていたのですが、多少のショックなどで一気に外れてしまうことがあることを考慮して、お客様のオーダーにて修理することになりました。

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この作業はかなりのノウハウがあります。


そしてファインダーもライカ純正調整機器にて調整。

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ピントやパララックスを調整します。


全ての調整が完了したらカバー類を組み上げて完成です。

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かなり端折った説明ですが、雰囲気は伝わったかと思います。

塗装は極端に言えば誰にでもできる技術です。
分解して缶スプレーで塗っても黒くなりますからね。
こんな仕事をしてるのでたまに遭遇するのですが、ひどい塗装をしたライカを「私も塗装したライカを使っているのですよ」と見せられることがあるのです。正直言葉に詰まります。
できたら皆さんが塗装の質を見極める目を持ってもらいたくて長々と書いてみました。
参考になったら嬉しいなぁ。