不妊治療に保険 選択の幅広げる一助に
2020年11月16日 07時39分
菅義偉首相の看板政策である不妊治療への公的医療保険の適用拡大について、厚生労働省内で具体化論議が始まった。出産の障害が減れば、夫婦の生き方の選択肢も広がる。支援の充実が望ましい。
厚労省社会保障審議会医療保険部会などの議論では、保険適用する治療法の範囲をはじめ、その治療法の診療報酬(公定価格)、保険適用の治療法と適用外の治療法を併用する場合の対応−などが論点となる見込みだ。
不妊治療は現在、卵管癒着や精管閉塞(へいそく)などの治療を除いて保険が適用されず、一回数十万円かかる体外受精や顕微授精に適用を望む声は多い。ただ治療法は日々進歩し、数ある技術や薬剤使用のどこまでを対象とするかの線引きは難しい。
保険財政上、どんな高額の治療でも保険対象とするのは無理があり、範囲を絞れば個々の患者に適した治療が進まなくなる懸念も生じる。まずは厚労省が治療現場の実態を詳しく調査し、効果的な治療を提示することが肝要だ。
保険診療と自由診療を組み合わせて同時に受ける「混合診療」は今は、原則全治療が保険外として扱われる。不妊治療を例外と認めるか否かの検討も必要だろう。
医師への診療報酬は抑制すると治療の質の低下を招きかねず、適正な水準を探らねばならない。
これらの議論を経て、不妊治療への保険適用が拡大されるのは二〇二二年度の見込みだ。国は先行して体外受精などに一回十五万〜三十万円を支給する公的助成について、金額の引き上げや夫婦の所得制限緩和を図る方針。与党側も額の大幅増などを提言しており、政府と連携して進めてほしい。
日本産科婦人科学会によると一八年の体外受精、顕微授精の実施は約四十五万五千件。全出生数の6%余に当たる約五万七千人が生まれた。誕生数は増加傾向だ。半面、支援団体の調べでは治療費が二百万円を超える例も目立ち、約半数が経済的理由で治療を諦めたり延期したりしている。
年間出生数が九十万人を切り、コロナ禍で妊娠をためらう空気も生まれる中、子どもがほしい夫婦の希望にはでき得る限り、公助で応えたい。
ただ、不妊治療の拡充を少子化対策として位置付けることには、慎重でありたい。少子化は、結婚や子育てがしやすい環境を整えたり、事実婚など多様な男女の在り方を認めたりすることで打開すべきであり、女性に出産を強いる風潮を生んではならない。
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