2020年春、新型コロナ対策で全国の自治体が給付金の業務に忙殺された。多くの自治体が人海戦術で対応する一方、RPAを駆使して自動化に挑んだ自治体も現れた。デジタル化の遅れが指摘される自治体業務を改善する、現場の奮闘を見ていこう。
10万円の特別定額給付金を市民へスムーズに支給するため、独自のオンライン申請システムを導入した。しかし受け付けの初日に2000件近くの申請が届いた。想定を上回る数の申請を効率よく処理する方策はないものか――。2020年5月1日、静岡県三島市の職員は課題に直面した。
三島市は電子申請などの機能を備える静岡県内の自治体向けシステム基盤を使い、独自のオンライン申請システムを3日で開発した。特別定額給付金はマイナンバーカードを使ったオンライン申請も利用可能になっていたが、三島市はマイナンバーカードを使わずに申請できるようにもした。
背景にあったのはマイナンバーカードの普及率が2割未満で、多くの市民がオンラインで申請するのは難しいという状況だ。「マイナンバーカードを使ったオンライン申請だけでは市民の利便性は低いと考えて、カードなしで申請できる方法も独自に用意することにした」(三島市新型コロナウイルス感染症対策室の杉山翔一朗主査)。
職員の負担が一時増した三島市
ただ、独自のオンライン申請システムで新たな課題が生まれていた。初日に2000件近くの申請を受け付けたため、審査する前準備の作業で職員の負担が増していたのだ。市民は独自のオンライン申請システムを使う際に、各種書類を撮影した写真画像データを登録する。運転免許証などの本人確認書類や、給付金の振込口座を確認する預金通帳などだ。職員は審査のため画像データをダウンロードして印刷する必要があった。印刷作業に時間がかかることから、当初は数十人規模の職員を動員。他の仕事よりも優先して、この作業を進めていた。
ロボの主要機能を職員が開発
職員の作業負荷を軽減する切り札として投入したのがRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)だった。杉山主査は給付金申請業務を効率化するRPAのソフトロボ(ソフトウエアのロボット)をほぼ独力で開発した。開発を外部委託すると時間がかかるからだ。杉山主査が2020年度に庁内業務の試験適用で開発を担当していたことも大きかった。この経験が生きた。
「独自のオンライン申請システムから画像をダウンロードして印刷する」といったメインの機能を杉山主査が開発した。開発期間はおよそ4日。その後、エラーが発生したときなどの例外処理をITベンダーに開発してもらった。こちらの期間は3日ほどだった。5月下旬にソフトロボを稼働させた。
効果はてきめんだった。ダウンロードや印刷の作業時間を60~80%程度、給付金管理システムへのデータ入力作業時間を60~70%ほど、人手による作業と比べて短縮できた。
開発したソフトロボは3種類。「独自のオンライン申請システム」「マイナンバーカードを使ったシステム」のそれぞれで印刷などをするものと、給付金の管理システムへデータを入力するものだ。「印刷やデータ入力を繰り返す作業から多くの職員を解放できた。他の業務に取り組んでもらえるようにもなった」と杉山主査は話す。