「経済は好調だ」「パンデミック対策はうまくいっているし、ワクチンはもうすぐできる」「コロナ感染はそのうち消える」という演出に、支持者たちはトランプ大統領の言葉を鵜呑みにし、再選を期待していた。
かろうじてスイングステート(激戦州)のミネソタ州、ウイスコンシン州、ミシガン州、ペンシルベニア州などで勝てたことが民主党勝利につながり、奇跡的な勝利となった。
また、1980年代から共和党の強い支持基盤があったアリゾナ州を民主党支持にみごと変えたことは快挙であったといわれるものの、民主党の支持者が増えていると思われていたフロリダ州(29人)とテキサス州(38人)でトランプ大統領がいとも簡単に勝利したことは民主党にとってショッキングなことでもあった。
この2州では黒人とキューバ人移民を中心としたラティーノ系でトランプに投票した有権者が少なくなかったことは予想外であった。トランプは移民への憎悪、また、黒人に対する無関心、白人主義者のグループを勇気づけるような発言を繰り返しているにもかかわらず、なぜ黒人やラティーノ系移民の心をつかむことができたのか。
理由は決して一枚岩ではないようだ。しかし、最大の理由は、「バイデン大統領になると社会主義になる」「ラディカルな民主党が政権につけば暴動が激しくなり、法と秩序が保てない」などのメッセージが発信され続けたことで人々の不安が増したとみられている。
特に「社会主義」という言葉のために、「共和党に投票する以外にない」と思い込む有権者は多かったようだ。社会主義を体験したことがない有権者にとって、一党独裁を伴うような社会主義の姿は見えてこない。
たとえば東ドイツにみられたように一党独裁政治で移動や言論の自由が奪われ、計画経済のために物資は慢性的に不足したりすることがどういう日常をもたらすのか、アメリカ人が想像もできないのも無理はない。
「社会主義への恐怖」をあおることは、第二次世界大戦後の「共産主義への恐怖」を拡散したマッカーシー旋風を彷彿させる。