ユニクロ柳井氏「日本は公務員を半減せよ」発言の「大きな間違い」

すでに日本は「小さな政府」です
飯田 泰之 プロフィール

もっとも、経営者が財政規模の縮小や公務員の削減といったいわゆる「小さな政府」志向に向かいがちな理由はこれだけではないかもしれない。人の思考は自身の利害から絶えず影響を受けている。企業の経営者が、税負担が小さくなる「小さな政府」に魅力を覚えるのもその意味では当然なのかもしれない。

 

加えて、自身のこれまでの活動を高く評価する言説には点が甘くなるのも人情だろう。有名な例であるが、「高所得者になるために必要なものは何か」と問われたとき、高所得者は「才能」「努力」、低所得者は「運」と答える傾向がある 。税負担を最小化し、公的支出を減らし、民間の活動の重要性を説く主張は、経営者にとって直接的な利害にかかわる以上に、その活動・人生を称揚する意味でも惹かれがちになる。

経済人のマクロ経済学への提言は、その人のこれまでの活躍や実績とは切り離して吟味する必要がある。

今の日本に足りないのは、自身の経験・利害・感情に左右されることなく、有益な社会提言を行うことのできる経済人なのかもしれない。

*1 以下『日本の財政関係資料』(令和元年6月、財務省)による。国際比較データは2015年度(一部2014年度)のもの。
*2 ガベージ・ニュース(2019.2.14)「公務員数の多い少ないの実情をグラフ化してみる(最新)」
*3 舞田敏彦「日本の公務員は先進国で最も少なく、収入レベルは突出して高い」,Newsweek Japan
*4 詳しくは『クルーグマンの視座―「ハーバード・ビジネス・レビュー」論考集』(ポール・クルーグマン著・北村行伸訳,ダイヤモンド社)参照
*5 ちなみに、Pluchino A., A. E. Biondo and A. Rapisarda, "Talent vs Luck:the role of randomness in success and failure" では、シミュレーションモデルによって「運」の重要性が指摘されている。同論文では、研究等における運の持つ重要さから、均等割りの研究費支給が効率的であることが示されており、「全国民必読! 政府による「集中と選択」はこんなにも不合理だ」の理論的根拠にもなるだろう。