もっとも、経営者が財政規模の縮小や公務員の削減といったいわゆる「小さな政府」志向に向かいがちな理由はこれだけではないかもしれない。人の思考は自身の利害から絶えず影響を受けている。企業の経営者が、税負担が小さくなる「小さな政府」に魅力を覚えるのもその意味では当然なのかもしれない。
加えて、自身のこれまでの活動を高く評価する言説には点が甘くなるのも人情だろう。有名な例であるが、「高所得者になるために必要なものは何か」と問われたとき、高所得者は「才能」「努力」、低所得者は「運」と答える傾向がある 。税負担を最小化し、公的支出を減らし、民間の活動の重要性を説く主張は、経営者にとって直接的な利害にかかわる以上に、その活動・人生を称揚する意味でも惹かれがちになる。
経済人のマクロ経済学への提言は、その人のこれまでの活躍や実績とは切り離して吟味する必要がある。
今の日本に足りないのは、自身の経験・利害・感情に左右されることなく、有益な社会提言を行うことのできる経済人なのかもしれない。