一方で、このようなリストラ策は日本経済のための施策として妥当なものだろうか。ある企業を解雇されたとしても、その当事者が日本国民でなくなるわけではない。彼らが生活をする費用は、本人による貯蓄の取り崩しであれ、政府による社会保障であれ、日本国内の誰かがなんらかの形で負担することになる。小野善康氏(大阪大学名誉教授)の言葉を借りるならば「日本国民をリストラすることはできない」のだ。
このように、「外部」がないために「特定要因を組織の外に出す」ことができない(少なくとも困難)な問題をクローズド・システム問題という。
例にも挙げたように、企業経営は典型的なオープン・システム問題である。その意味で、著名な経営者はオープン・システム問題に関するスペシャリストといってもよい。しかし、それをもってクローズド・システム問題についても有益な提言を行いうると考えることは難しいだろう。
オープン・システム問題とクローズド・システム問題は全く性質が異なる。むしろ対極的ということさえできる問題である。現在の日本で財政支出の額を減じたならば、それによる需要低下によって景気は大幅に悪化する。景気の悪化は税収減を通じて、むしろ財政収支を悪化させる可能性さえある。
加えて、公務員数の削減によって雇用が失われ、賃金に低下圧力が加わった場合もまた同様である。ボクシングのチャンピオンにカーリングの必勝法を指南してもらうことは、面白いかもしれないが、有益とはいいがたいのではないか。
経営者が問題解決の提言を行うというとき、自身の経験に根差した発言を行おうとすればするほど、問題をオープン・システムとしてとらえる傾向がある。人はだれしも自身の経験から影響されずに思考することはできない。