議員の資格剥奪 香港の一国二制消すな
2020年11月13日 08時21分
中国が香港立法会(議会)議員に国への忠誠を義務付けた新決定を受け、香港政府は民主派議員四人の資格を剥奪した。抗議した同派議員十五人も辞表を提出しており、「一国二制度」は風前の灯(ともしび)だ。
中国の全国人民代表大会(全人代=国会)常務委員会が十一日、立法会議員の資格を剥奪する権限を香港政府に与える決定をした。
四議員は香港国家安全維持法(国安法)制定に反対した言動が問題視され、九月に予定されていた立法会選(一年延期)の立候補を禁止されていた。林鄭月娥長官は「立候補要件を満たさないなら、議員の条件も満たさない」と述べ、剥奪を正当化した。
しかし、今回の決定で見逃せないのは、中央政府が意に沿わない議員を香港政府を通じて随意に辞めさせるシステムをつくり上げたということである。
全人代は資格剥奪要件として、議員が、中国の安全に危害を及ぼす行動を取る▽海外勢力に香港への干渉を求める−などを挙げた。しかし、実際にどんな行為が対象になるかの権限は香港や中央の政府が握り、明確ではない。
中国政府は二〇一四年の「香港白書」で、一国二制度に基づく高度な自治は「固有の権利ではなく、最高指導部の承認による」と明言。林鄭氏は九月の記者会見で「香港には全面的な自治はなく、行政、立法、司法権は中国政府から与えられたもの」と述べ、三権分立の存在も否定した。
このように、中国は香港返還時の国際公約であった「高度な自治」を骨抜きにしてきたが、今回の全人代決定は「香港の大陸化」の総仕上げともいえよう。
資格を剥奪された民主派議員は十一日、記者団に「一国二制度が完全に消えた。暗黒の日だ」と述べた。確かに、民主派へのダメージは大きいが、「逃亡犯条例」反対デモが頻発した昨年の区議選で民主派が八割余の議席を占めたように、選挙を通じた市民の戦いが中国による香港抑圧への強い抵抗力となってきたことも事実だ。
その意味で、十五人全員が辞表を出したのは賢明な戦略とは言えないのではないか。一斉辞職となれば立法会はほぼ親中派一色となり、中央や香港政府の思いのままの民意を演出できることになる。
さらなる弾圧も予想されるが、議員らは国際社会の目が届く議場に踏みとどまり、一国二制度が完全に消えてしまわないよう戦い続けてほしい。
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