悟率いるバルブロ討伐軍は、陣幕を張り進軍を一時停止している。悟にとって義兄となる第二王子ザナックを迎えるためだ。
「無事で何よりでした」
「ナザリック候、義弟に保護されるとは義兄失格だな·····」
逃亡生活でかなりスリムになったザナックがくたびれた笑みを浮かべる。準備もなく慌てて逃げ出したことがありありとわかるボロボロ加減だった。いつも整っていた衣服はシワがより、汚れが目立つ。
「·····失礼」
悟はザナックに向けて右手を翳すと魔法を発動させる。
「えっ?」
ザナックが驚く間に、ザナックの服の汚れが消えさる。
「ご苦労されたようで」
「魔法とは便利なものだな。久しぶりにすっきりしたぞ。すまないな」
「このような乱では仕方ありませんよ。だいたい基本クーデターは不意打ちですから。準備する方が難しいですからね。なにせ、わざわざ今から反乱します、謀反しますとは教えてくれませんから」
悟の言うことはもっともである。そんなバカ正直なクーデターはまずないだろう。もしかしたら、悟が知らないだけで世界のどこかではあったかもしれないが、仮にバカ正直なクーデターに敗れるような政権があったのなら余程力がないと思われる。
「はは·····確かにな。ただ、バカ兄貴なら事前に情報漏らしてもおかしくはなかったが·····」
「ボウロロープが上手くコントロールしていたと思いますわ、お兄様」
「そうなのか·····」
「それでもバルブロが何かを企んでいるような噂は流れていましたし、ちと無警戒すぎたのかもしれませんね」
チクリとザナックを批判する。
「·····たしかに迂闊であったな。ただ、俺はバカとは違って支援者が少ないからな·····武力には弱い部分がある·····」
長男として生まれたバルブロは早くから次期国王として擦り寄ってくる貴族は多かった。本人の資質には疑問符がつくが、第一王子の看板は効果が高い。
ザナックは愚鈍そうな見た目と第二王子という点で損していると言えるだろう。人柄はかなりマシだし、見た目と違って頭もよいのだから。
「それで、この後はどうするつもりだ?」
「そうですね。すでに、ザナック王子を捕らえたという伝令を走らせています」
これを聞きザナックは苦笑する。
「捕まるのか? 俺は」
「そうなっていただきます。情報上では」
「なるほど、油断を誘うか」
「まあそうですね。すでに油断はしているでしょうが、念入りに」
悟はニヤリとする。
「その上で、義父上を救い出します。気付かれずに連れ出すことなど簡単にできますので」
「まあ、城には抜け道があるものだからな。俺も知らない道もあるだろう。ラナーしか知らないものもあるだろうしな」
「でも、お兄様。サトルは正面から入るつもりですよ」
「なにっ! 正面だとっ? 馬鹿なそんな事が出来るはずがない。歩いてくる姿は見えるしスグ見つかる·····ってまさかっ?」
ザナックは気づいたことがあり、思わず声が裏返る。
「見えなくなれる·····のか?」
「答えはいいませんが、まあやり方は色々あるので。楽しみにしていてください」
その後あっさりとランポッサ三世は救出されることになる。