野党は学問の自由が侵されていると言うのだが・・・(写真は東京大学)


 米中の動きは日本の安全保障や安定にも直結する。

 中国では10月29日に第19期5中総会を終え、習近平主席の独裁色を滲ませた。米国では11月3日の大統領選挙の結果、ジョー・バイデン氏が勝利宣言したが、裁判で混乱が続くことも予想される。

 覇権を目指し強硬姿勢をとっている隣国と同盟国の混乱という日本にとっては看過できない状況が起きている。

 しかし、菅義偉首相の所信表明に対する本会議での代表質問やその後の衆参両院における予算委員会でも、野党は首相が日本学術会議会員に6人を任命しなかった理由ばかりを質している。

 米中をはじめとした国際情勢や日本の在り方はおろか、学術会議自体についても問い質さなかった。

 日本共産党と立憲民主党は、6人排除の経緯を首相に質して食言を引き出して爾後の攻撃材料にしたいようであるが、国民がこんなことを許すはずがない。

 NHKの世論調査(11月9日、ニュースウォッチ9)でも6人排除の首相説明は不十分としながらも、学術会議の在り方検討は肯定(45%)が否定(28%)を大きく上回った。

 6人の非任命を共産党機関紙が報道(10月1日)した直後のマスコミや国会では語られなかった学術会議の「真実」が徐々に国民の前に明かされるようになってきた。

 以下、分かってきた学術会議の素性である。

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非任命の6人と専門分野

 まずは任命されなかった6人の概要を新聞報道などから纏めてみた。

 A、B・・・Fとあるが、AからEまでは集団的自衛権や特定秘密保護法制定などを目指した安倍晋三政権に対抗する目的で活動した組織である。

 Fの「民主主義科学者協会法律部会」はウィキペディアによると、1946年創立の民主主義科学者協会(民科)を母体とする日本共産党系法学者による、今日も活動している唯一の全国部会で、会員数は約530人。

 なお、「しんぶん赤旗」は共産党機関紙、『前衛』は共産党機関誌であることは言うまでもない。

芦名定道:京都大教授、哲学、宗教倫理学会会長、Aの賛同者
宇野重規:東京大教授、政治学、東大社会科学研究所副所長、A、Bの呼び掛け人

岡田正則:早稲田大教授、行政法学、早大比較法研究所長、Fの元理事 Cの呼び掛け人

小沢隆一:慈恵医大教授、憲法学、Fの元副理事長、『前衛』に寄稿 Dの呼び掛け人、「安保法案は9条違反」と発言

加藤陽子:東京大教授、日本近代史、東大人文社会系研究科教授、Bの呼び掛け人

松宮孝明:立命館大教授、刑事法学、Fの元理事、9条の会賛同者、E参考人で「戦後最悪の治安立法」と発言

備考:A;「安保関連法に反対する学者の会」、B;「立憲デモクラシーの会」、C;「安保関連法の廃止を求める早稲田大学有志の会)、D;特定秘密保護法、E;改正組織犯罪処罰法、F;「民主主義科学者協会法律部会」(日本共産党系)

 加藤陽子教授について、11月4日の衆院予算委員会で辻元清美委員は内閣府公文書管理委員会委員や原子力基本法の勧告などで政府に重用されてきたこと、また著書『それでも日本人は「戦争」を選んだ』は広く読まれているなどと称揚した。

 しかし、ウィキペディアでの人物評からは全く違った一面が伺える。

 大学院で指導した伊藤隆・東大名誉教授(歴史学者)が南京事件について山川出版社『詳説日本史』で「日本軍は非戦闘員をふくむ多数の中国人を殺害」と一行ですませていたのを、(見本本において) 加藤氏は分量を三倍近くふくらませ、「日本軍は南京市内で略奪・暴行をくり返したうえ、多数の中国人一般住民 (婦女子を含む) 及び捕虜を殺害した。犠牲者数は、数万~40万人に及ぶ説がある」と書き直したという。

 そして「彼女は元新左翼でしたが、私の指導で非常に実証的ないい仕事をしました。私と関りがなくなった途端に元の新左翼に復帰しました」と述懐する。

 秦郁彦氏(歴史家)は「加藤氏は地域や期間を“勝手に”広げて40万人を死守しようとした。しかし山川は譲らないため40万人は泣く泣く落とした」「単純かつ非政治的なミスは素直に直すものの、左翼歴史家の証ともいうべき自虐的記述は、正誤にかかわらず死守する姿勢が読み取れる。つける薬はないというのが私の率直な見立て」と述べている。

 岡田正則教授が10月26日のBSフジプライムニュースで語った言葉「相手が軍備を持っているから、こちらもそれに向かって武器を持たなければいけない、こういう技術を動員しようというのはもはや時代遅れだと思う」「中国でも北朝鮮でも、国際社会で変な武器を持たないようにしましょう、使わないようにしましょうとするのが自衛の在り方」と語ったことがネットでは話題になっている。

 小沢隆一教授は日本共産党の「しんぶん赤旗」や『前衛』に数多く寄稿している。

 また、松宮孝明教授はメディアに頻出し、「ここ(学術会議)に手を出すと内閣が倒れる危険がありますよ。なので、政権は撤回するなり早く手を打った方がいいですよ。これは政権のために申し上げておきます」と、恫喝紛いの言辞を弄している。

 松宮氏と机を並べて大学院受験の勉強をした島田洋一福井県立大学教授は「真面目な学徒だったはずの君が、愚かなメディアと愚かな野党に猿回しの猿よろしく踊らされ、『学問の自由』侵害の被害者を演じているさまは、はやりの言葉で言えば『痛い』」(「日本学術会議は即刻、解散せよ!」、『Hanada』2020年12月号所収)

 ネット情報によると、岡田・小沢・松宮の3教授は共産党関連団体の「民主主義科学者協会法律部会」の元副理事長や元理事。

 学術会議204人中の法学者は11人で、うち4人は上記法律部会の在籍者だという。

 今回さらに3人が任命されると法学者は14人となり、また共産党の法律部会関係者が7人となり、法学者自体が多いうえに、その半分が共産党関係者で占めることになる。

 以上から分かるように、6名の主張や行動は共産党や立憲民主党にオーバーラップするように見受けられる。

学術会議の発足と直後の状況

 学術会議は今回の6人排除の結果、首相官邸前などで「学問の自由」の侵害だと叫びながら「取り消し」の運動をしている。

 左派系新聞や野党が「安保法案に反対」してきた人物ばかりだと喧伝するように、確かにそうした政治活動に主導的に参加した人士たちである。

 櫻井よしこ氏(「産経新聞」11月2日付コラム「美しき勁き国へ」によると、この会議はGHQ(連合国軍最高司令部)の科学技術部が日本のあるべき科学研究体制を東大の茅誠司氏らに作るよう指示したものだという。

 当時は憲法で軍隊は禁止され、核や原子力研究ばかりか、日本の工業力の徹底破壊が目標であった。

 また米国のニューディール政策に呼応するように、政治指導者や知識人20万人が追放された空白を共産主義者や社会主義者をはじめ、GHQの意向に従う二流三流の人材が埋めた。

 こうした状況下の昭和23年12月に行われた学術会議会員選挙に共産党は候補者61人を立て26人が当選。同時に40人ほどの同調者も当選する。

 こうして210人の会員中66人、3分の1弱の勢力を占めた。

 すなわち、GHQに入り込んだ共産主義者の後ろ盾を得て昭和24年1月に発足したのが日本学術会議である。

 早速、翌昭和25年には「戦争を目的とする科学の研究には絶対に従わない決意」を声明した。

 戦前には多くの軍人研究者を受け入れていた東京帝国大学であったが、学術会議の決意声明と同会議結成を茅氏らが進めたことからか、東大は自衛官を研究科学生として一切受け入れなかった。

 その他の京都大学をはじめとする旧帝大系は昭和30年代前半から防大卒を研究科学生として受け入れてきた。

 筆者の同僚は昭和38年4月に修士課程に入学し、40年4月から博士に進んでいた。筆者は3年間部隊勤務をした後、受験して41年4月入学した。

 この頃になると、各帝大系大学に自衛官数人ずつが在籍するようになっていた。当時は安保改定問題で多くの大学で全学連などの抗争も頻発していた。

 構内には自衛官の勉学に反対するビラがあちこちに張られていた。筆者がいた大学では総長のつるし上げが連日のように行われていた。

 そうした結果「自衛官排除」の総長決定がなされた(「毎日新聞よ、自衛官『入学差別』はあった!」、『正論』令和2年12月号所収)。

 そうした大学内の動きが刺激したのかもしれないが、4か月後の1967年10月に学術会議が「軍事研究をしない」という2回目の声明を出した。

 在籍していたどの大学にも安全保障講座や軍事に関する研究室などなかったので自衛官の誰一人として「軍事研究」をしていたわけではなかったので、大学によって対応は違いがあった。

 筆者はこの声明が出たとき修士課程2年目後半で論文作成中の筆者の博士課程への進学は許可されないことになり、課程の修了までは保証されたが、終了と同時に大学を去ることになった。

 当然のことながら新規の受験などは不可となり、防衛白書(昭和51年版)は「自衛官を理由に大学院への受験辞退の要求、願書受付拒否」などが、39年からの7年間に延べ50人に上ったと記している。

分野ごとの会員と学会成員

 下表は現在の学術会議の分野ごとの学術会議会員数や学会成員数を伊東乾東大准教授が2020年10月20日のJBpressで公開した「日本学術会議のガン、『一票の重み』を是正せよ」から作成したもので、出典は若林秀樹・東京理科大学大学院技術経営専攻教授による。

 分野ごとの関係学会の成員数と学術会議で認められている会員数から割り出される倍率は下記の通りである。

 表中の最多倍率である電気電子系では2万1944人が1人の会員を選んでいるが、最小の基礎医学では73人で1人である。基礎医学系の会員は電気電子系の会員の300倍の力を与えられていることになる。

 政治学・社会学などの文系は単純比較で理工系の100倍前後の力を有していると言える。

 成員数は約87万人で、平均的には約4000人に会員1人である。政治学と経済学を合わせても会員1人に満たないところに既に10人で多過ぎる。

 しかも、文系には共産党やその同調者が相当いることから、護憲は言うまでもなく、必然的に反日・反政府行動に関わることになるに違いない。

 伊東氏は「任命拒否された人たちはすべて文系で、最も高倍率の政治学でも190倍に過ぎず、高々200人の意見で学術会議の1議席をもって発言することができる。・・・こんな体制が民主主義であるわけがない」と述べる。

日本学術会議の特性

(注:毎日新聞〈2020年11月2日付〉による)


 日本の学術会議は政府機関で国費10億5000万円が投じられているが、米欧諸国は政府から独立した民間組織(非政府組織)で、財源は助言に対する対価・政府からの交付金と寄付によるところが多い。

科研費の異常な偏り

 日本の自然科学研究者が中国の「千人計画」に参加していることが明かになっている。

 それは研究環境や研究費・給料をはじめとした待遇の良さからである。逆に言えば日本の自然科学研究の資金不足が大きな要因となっている。

 ところが、社会科学系では書籍や研究会などへの参加が主で高価な実験装置や器具などは必要としない。それにもかかわらず、多大の研究費が配分されていることが判明している。このことを杉田水脈議員が2018年5月に指摘した。

 杉田氏の調査成果を敷衍して、櫻井よしこ氏が「週刊新潮」(2018年4月26日発売)で、「科研費の闇 税金は誰に流れたか」の掲題の記事を寄稿した。

 概要は山口二郎・法政大学教授の「グローバリゼーション時代におけるガバナンスの変容に関する比較研究」(平成14年~18年)に4億4577万円、「市民社会民主主義の理念と政策に関する総合的考察」(19年~23年)に9854万円、「政権交代の比較研究と民主政治の可能性に関する考察」(24年~29年)に4498万円、計6億円近くが日本学術振興会や文部科学省から交付されていたというものであった。

 他方で、自然科学研究について奈良林教授は「かつては教授一人につき1200万円」であったが、2004年の国立大学法人化以降は「約200万円で、研究に加わる学生1人につき約10万円増えて、大体10人集まるので計300万円」(櫻井よしこ・門田隆将・奈良林直「学術会議の暗部 共産党に牛耳られた『赤い巨党』 驚くべきその正体とは―」、『Hanada』2020年12月号所収)だという。

 中国は先進諸国から人材を集める「千人計画」で金に糸目を付けないことが分かっている。ノーベル賞クラスの研究者には1億円ほどを提示している。

 ナノテクノロジー界で世界一ともいわれたハーバード大学チャールズ・リーバー学部長の逮捕が「千人計画」を明るみに出すきっかけにもなったが、リーバー教授は研究所設立資金150万ドル(約1億6000万円)を与えられ、月給は5万ドル(約550万円)と報じられた。

「週刊新潮」が4週連続(2020年10月22日号~11月12日号)で報道した記事でも、定年後の大学教授が教え子の中国人の誘いで渡海し、研究室3部屋、研究費年間2000万~3000万円(5年間1億5000万円)、月給50万円、中国滞在は数カ月、『ネイチャー』などへの論文が掲載されると1500万円のボーナスも出るなどと述べている(参照:JBpress「『学問の自由』掲げ、中国に魂売る能天気な科学者」)。

 テーマや成果、待遇面で月給などにばらつきも大きいが、日本とは雲泥の差で、「楽園」気分であることは確かで、倫理観を考慮外におけば研究願望者が惹かれるのは確かであろう。

おわりに

 任命されなかった6人の学者について左派系マスコミや野党は、安倍政権時代に安保法制等に反対したことが理由ではないかと問い質しているが、そればかりでないことが分かる。

 日本学術会議は日本学術会議法が定めた義務をほとんど遂行することなく、逸脱して日本の安全に資する大学等の研究機関やテーマに制約をかけ、また異常に偏った予算配分に関わっているなどが判明してきた。

 しかも会員ばかりか何人もの会長がその職に在ったときや会長を退いた後に、共産党や機関紙誌「赤旗」『前衛』からインタビューを受け、また寄稿したばかりでなく、選挙運動で共産党の応援演説を行い、また改憲や安全保障関係の法制整備に反対する運動やデモ等への参加なども行ってきた。

 日本学術会議は「わが国の科学者の内外に対する代表機関」で、「科学者の総意の下に人類社会の福祉に貢献し、世界の学界と提携して学術の進歩に寄与」するという使命はすっかり忘れ、共産主義者らの影響を強く受けて日本の「学問の自由」を排斥し、他方で中国の軍事力増強に貢献する反日組織で、反政府の政治運動団体と化していたのだ。

 3代前の学術会議会長で2011年秋から6年間「会員」選考委員を務めた広渡清吾・東大名誉教授(法社会学)は、日本共産党の「しんぶん赤旗」に何度も登場する人物である。

 昨年の参院選における言説の一部を見ると「安倍政権を倒して新しい政権をつくるために、国民に対して、市民と立憲野党の共同こそが新しい選択肢であることを、国民に信頼してもらえる形で示さなければならない」「9条改憲の具体案が出ている中で、選挙に敗けたらどうなるか。戦後の平和の岐路だ。・・・安倍政権に鉄槌をくだすための取組みに参加して欲しい」

 昨年の大阪補選では共産党の宮本たけし氏の応援に立ち「市民連合の目的は、市民と野党の共同の旗を掲げて安倍政治を倒すことにあります。・・・活動の中で最も誠実に、私たちと一緒にたたかって下さったのは日本共産党です」と演説していることが、学術会議の隠された本性を示している何よりの証拠であろう。

 山極壽一前会長(京大総長)のインタビュー記事「資本主義の限界」も2020年6月20日付「しんぶん赤旗」に掲載された。

 現行会員にも共産党寄りが沢山いるとされるし、今回任命された99人のうちの20数人も共産党に非常に近い、同党の政策に親和性を抱いているという評価がある。

 日本学術会議は「科学者の総意」を反映しているわけでも、「日本の科学者の代表機関」でもなく、共産党やその同調者の巣窟でしかなかったのだ。改廃も含めて論議しなければならない。

筆者:森 清勇