問題のある人物
ある人物(A氏と呼ぶ)としばらく働いた事があるのだが、A氏には以下の問題があった。
- 頼んだ仕事をしてくれない。
- 頼んだ仕事をしていない事に対して、罪悪感がない。
A氏を採用した上司は次の問題に困っていた。
- 採用時点でスキルが足りなかったため、「大丈夫か?」と確認したところ、「一生懸命やって追い付くから大丈夫だ」と言ったので採用した。しかし一向に勉強せず、スキルも追い付いてこない。
A氏と親しくなり、色々と話すと、こんな事があったらしい。
- 公共料金の支払いが遅れたことがある。
- クレジットカードを止められたことがある。
また、こんな事もあった。あるシステムが問題を起こし、止まってしまった。A氏は上司である僕に報告するところまではしたのだが、その後は何もしないで上司を待っていた。可能な限り調査したり、どうしたらいいか考えるものだが、そういう事をしていなかった。その時は「なぜシステムログを調査しないのか」などと言ったのだが、恬然としており、システムが止まっているのにそれを何とかしようと真剣に焦っている様子がない。
これ以外にも様々な事が重なり、「なぜこの人はちゃんとやってくれないのか」という事がずっと問題になっていた。
まとめるとこうなる。
- 当事者意識がない。
- 責任感がない。
- 自分に問題がある事を理解していない。
僕は色々と考えた挙句、彼の問題の根源は以下であると結論するに至った。
契約上の義務を履行する事が苦手
クレジットカードの料金を払うのも、雇用契約に従って労務を提供するのも、契約上の義務である。人にもよるだろうが、うっかり忘れた場合を除いて、料金の支払いを遅滞した事がない人は多いだろう。彼はそういう生真面目な人物ではない。どちらかというと、本当に問題になるまでほっておくのである。
仕事に就く際に「がんばります」と言って、実際には頑張らないというのも、彼からすればいつもの生活であり、それを悪いとも思っていない。普通はやるべきことをやっていないということになれば、多少の後ろめたさはあるものだ。しかし、義務の観念そのものが薄いから、申し訳ないとか、悪い事をしたとも思わないのではないか。
つまり、彼はこの問題で責められているとき、「罪悪感を感じる」のではなく「災難である」と考えるのではないかと思う。自分の義務とは関わりのない事で問題が起きたとき、人は「悪い事をした」と思わず、「災難に遭った」と思うものだからである。
A氏は現代社会を生きられるのか
現在の社会は経済活動が社会のすみずみにまで行き渡っており、そういう意味で取引の連続でいえる。買い物、家賃の支払い、就職など、すべて取引であり、大きな取引は契約と呼ばれ、契約書が交わされる。
そういう取引に満ちた社会の中で、契約を履行できないA氏は暮らせるのだろうか。
これは当初解決策として実行された社員教育で解決できない問題である。社会人1年目ならまだしも、A氏はもう10年選手なのだ。A氏の抱える問題は、A氏の社会生活に危機を招くものである。この問題の解決は、一般的な社員教育で図れるものではない。1企業でどうするというより、おそらく社会全体で、A氏の社会生活上の困難を支える事になるのではないかと思う。つまり、社員教育ではなく、社会福祉行政の中で、解決を図るべきではないか。
会社はどうしたら良いか
A氏が正社員である以上、雇用契約に従って精勤するように求めるのが第一である。
しかし、どうしても責任をもって仕事をできないということであれば、しっかりした面談を複数回行い、A氏の今後について、お互い腹を割って話し合うべきであろう。
A氏は「約束を守らない」という点を除けば、能力的に劣っているわけではない。普通に勤務する能力があるのだが、ただ責任感が非常に薄いために、勤務に支障をきたしている状態である。
自分の意見では、会社が一方的にA氏を解雇すべきでないと思う。法的にできるできないの話もあるが、それより自分が思うのは、A氏が毎日会社で働いている事実である。A氏に責任感はない。しかし、単に仕事に責任を持たないだけで「何もせず席に座っている」訳ではないのだから、ある程度は雇用契約を守っているのであり、この点を見落とすべきではない。
しかし、会社が困っているのも事実であって、A氏にも非はあると自分は思う。A氏に責任感がない以上、会社はA氏に仕事を任せる事がずっとできない。現にA氏は入社1年半を過ぎ、他の従業員ならそろそろ仕事を任せたい時期だが、ずっと部下のポジションにいる。それは責任者のポジションがないからではなく、A氏には仕事を任せられないから、そうなっているのである。
こういう状況であるから、まずは両者が話し合い、その中で、落としどころを探るべきだ。その結果、A氏が他の部署に異動になったり、会社を辞めたりする可能性はある。しかし、そういう変化をネガティブに捉えるべきではないと自分は思う。
これは事実上、雇用契約を見直す事である。A氏に責任感がない事が明らかになったうえで、会社がA氏と雇用契約を結びたいか、A氏側に立てば、自分を評価しない会社で働きたいか、両者が話し合って決める事である。
話し合いの結果は、実際やってみないと分からないが、A氏がたとえ今の会社を辞めたとしても、A氏は社会の一員なのだから、なんらかの形で、世の中が面倒をみるしかない。何か、A氏にちょうど良い仕事が見つかるのが、一番の解決だと自分は思う。責任感がなくてもできる仕事がないだろうか。それでひとまず暮らせるような。