ミャンマー 民主化の初心に戻れ

2020年11月12日 07時51分
 ミャンマー総選挙で、アウン・サン・スー・チー氏の与党の過半数維持が伝えられ、スー・チー政権の継続が確実になった。国軍との相克を乗り越えて、停滞する民主化プロセスを軌道に乗せてほしい。
 前回総選挙で、スー・チー氏の国民民主連盟(NLD)が大勝し国軍系の連邦団結発展党(USDP)から歴史的な政権交代を果たして五年。民主化指導者が「国家顧問」として政権の事実上のトップに立ってきた。
 NLDは「国軍に有利な憲法の改正」「国軍と少数民族との和平」を二大公約に挙げてきたが、どちらも実現していない。
 軍事政権下で制定された現憲法では、上下両院の各25%が初めから無選挙の軍人枠で、公正さを妨げている。一方、憲法改正には75%を超す賛成が必要と定められている。つまり、仮にNLDが軍人枠以外の全議席を占めても、国軍に不利な条項は、軍人枠から“造反”が出ない限り改正できない。
 現に、NLDは軍人枠規定の段階的削減を提案したものの、三月に国会で否決された。国軍は軍人枠に加えUSDPも擁し、民政移管後も国政に強い影響力を持つ状態は変わらない。この上は、粘り強い対話で軍側の譲歩を引き出すほか、事態打開の道はあるまい。
 少数民族との和平も難題。ミャンマーは百三十五もの多民族からなる。「少数民族尊重」を訴える二十ほどの武装勢力があり、国軍としばしば軍事衝突している。
 約半数が停戦協定を結んでいるとはいえ、今回の総選挙でも、治安の悪さを理由に、少数民族の多い一部の選挙区で投票が中止された。民族融和には、NLDと国軍の協力が不可欠といえる。
 そして、この「少数民族問題」には、治安部隊に徹底的に弾圧され、隣国バングラデシュのキャンプに逃げ出した百万人近いロヒンギャの問題は含まれていない。NLDをはじめ各党は、この問題に触れることなく選挙を戦った。
 根底には「バングラからの不法移民が戻っただけ」とのミャンマー人の差別意識がある。他の少数民族もロヒンギャには冷たい。スー・チー氏はこうした国内世論を優先し、救済には無策だ。
 外見は民主国家でも内面は軍政時代と大差ない。軍の弾圧を耐え抜いたスー・チー氏も七十五歳。いま一度、初心に立ち返ることを望みたい。経済的なつながりが深い日本や、政権交代で人権外交にかじを切る米国なども、ミャンマーの民主化に力を貸してほしい。

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