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 追加経済対策の策定を菅首相が指示した。

 新型コロナウイルスの感染は依然として収束のめどが立たない。経済活動は再開してきているものの、民間調査会社の予想では、来年度の国内総生産(GDP)も19年度の水準には届きそうにない。

 国民の命や暮らしを守るためには、追加の対策が必要であろう。とりわけ重要なのは、医療や介護の現場を崩壊させないことだ。低所得の子育て世帯など社会的な弱者への支援も、継続する必要がある。

 一方で、本来経済を動かす主役は企業であり、政府はあくまで、サポート役に過ぎないことも忘れてはならない。感染拡大に対する当面の対策をとりつつ、ポストコロナ時代のあるべき社会の実現も視野に入れて、政策をつくるべきだ。

 政府は、雇用調整助成金の特例や観光支援策「Go To トラベル」の延長を検討中だ。

 雇調金の特例は、失業を防ぐ上で大きな効果を発揮したが、成長分野への労働移動を阻害する副作用がある。観光支援策にも、自己負担分を払える富裕層に恩恵が偏る問題点がある。

 日本経済の生産性の低さは、既存の働き手や企業を守ることを優先した結果、デジタル化などの世界の潮流に乗り遅れたことが一因とも指摘される。転職に向けた教育訓練や、企業の異業種転換への助成を手厚くしたうえで、雇調金の特例などは縮小を検討すべきだろう。

 今年度の2回の大型補正予算では、持続化給付金や旅行支援策などで、不透明な業者への事務委託や不正受給などの問題が続発した。原因を検証し、再発防止に知恵を絞ることも欠かせない。

 気になるのは、経済対策の検討がようやく本格化したところなのに、早くも「10兆円から15兆円」(下村博文自民党政調会長)などと、大型の補正予算編成を求める発言が、与党内から相次いでいることだ。

 まずは不可欠な政策を積み上げることが求められる。菅首相は経済対策の柱の一つに、防災などの国土強靱(きょうじん)化を掲げているが、次期衆院選のために、総額ありきで予算をばらまくことは、到底許されない。国の財政は戦後最悪の状況に陥っていることを、肝に銘じるべきだ。

 冬を迎える今後、感染の状況は予断を許さない。コロナ禍の長期化で、直撃を受けた人や企業の手元資金は枯渇している。再び全国的に営業や外出の自粛を要請する事態になれば、それに応じた対策が必要になる。感染動向を踏まえて柔軟に対応できるよう、政府は対策の中身を考えておかねばならない。

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