新発見が続くティラノ研究、「殺戮モンスター」と名付けられた新種も

超肉食恐竜ティラノサウルス徹底研究!
好評連載中の「ダイナソー小林の超肉食恐竜ティラノサウルス徹底研究!」。知名度も抜群でファンも多いティラノサウルスですが、じつはまだまだ謎がたくさんあります。今回は、2011年に発表された2つの新発見について解説していただきました。
 

この10年で目覚ましく発展したティラノサウルス研究

恐竜の中でも断トツの人気を誇っているティラノサウルス。前回はそのティラノサウルスがまだまだ謎だらけの存在であることにくわえて、その仲間が世界中に分布していることを、進化の度合いから一軍、二軍、三軍に分けて解説しました。みなさんがよく知っているティラノサウルスはもちろん一軍、それもスター中のスター選手です。

そんなティラノサウルスに関する研究は、現在も日進月歩で進んでいます。とくにここ10年は、それまで想定されていたセオリーにいくつもの変化がありました。今回はその研究の変遷をご紹介しましょう。

まず2011年には、中国山東省でズケンティラヌス・マグヌス(Zhuchengtyrannus magnus)という恐竜が発見されました。見つかったのは約7350万年前(白亜紀カンパニアン期の終わり)よりも古い地層で、頭の骨のみ(右の上顎骨と左の歯骨)が出土しています。どちらも非常に大きい骨です。

ズケンティラヌス・マグヌス

ズケンティラヌスの上あごの骨の長さは64センチ。これに対して、ティラノサウルスが64~79センチ、同じくティラノ軍団の代表選手であるタルボサウルスが49~69センチなので、サイズ的には一軍メンバーにひけをとりません。全長は最低でも10~12メートルはあったでしょう。

しかし、見つかった骨が少なかったためか、この研究ではズケンティラヌスがティラノ軍団のどこに属する存在であるのかは、結論づけられていません。ただし、発見者は論文の中で、ズケンティラヌスが一軍メンバーに属することはまちがいないと明言しています。いわば、“中国の大型スター“といった位置づけです。

同年にはさらに、アメリカのユタ州の南部、アリゾナ州との州境近くにある7610万年~7400万年前(白亜紀カンパニアン期の後半)の地層から、テラトフォネウス・クリエイ(Teratophoneus curriei)が出土しました。ティラノサウルスよりも、やや早い時代に登場した種ということになります。

テラトフォネウス・クリエイ

発見された化石は完全な全身骨格には程遠いものの、多くの部分が確認されています。頭の一部や背骨、腰、後ろ足……などなど、これはティラノ軍団の化石としては悪くない成果といえます。おかげでテラトフォネウスはすぐにティラノ軍団の正規メンバー、つまり一軍として発表されました。

ちなみに名前の由来は「teratos」がモンスター、「phoneus」が殺戮者という意味で、つまりは「殺戮モンスター」。ずいぶんと物騒な名前です(ちなみにその後のcurrieiは、カナダの研究者フィリップ・カリーのCurrieから取ったもの)。