[PR]

 国際社会から半ば忘れられていた民族の対立が再燃した。カスピ海と黒海に挟まれた旧ソ連の2国、アゼルバイジャンとアルメニアの紛争である。

 1カ月以上の戦闘で、アルメニアの実効支配する要衝をアゼルバイジャンが奪還した。そこで停戦に応じ、アルメニアは事実上の敗北を受け入れた。

 戦場となったのは、ナゴルノ・カラバフ周辺だ。アゼルバイジャン内だが、アルメニア系の住民が多い地域である。

 80年代後半、ソ連の指導者ゴルバチョフ氏による言論の自由化を受けて、住民がアルメニアへの帰属替えや独立を求め、武力衝突への背景となった。

 当時の戦闘はアルメニア優位で進み、ソ連崩壊後の94年に停戦合意が成立した時点で、アゼルバイジャン領の約2割を実効支配していた。そのまま固定化され、多くの国内避難民を抱えたアゼルバイジャンの不満が、今回の火だねとなった。

 今年9月に戦闘が始まると、90年代の国連安保理決議にもとづく和平プロセスを担ってきたロシア、米国、フランスが繰り返し即時停戦を求めた。

 それに応じず攻勢を続けたアゼルバイジャンの姿勢は非難されるべきだ。友好国として一貫して支持したトルコも、無責任というほかない。

 一方、94年の停戦以降、きちんと監視態勢を取らず、和平努力が不十分だった国際社会も反省せねばなるまい。結果的に多くの犠牲者を出し、武力による現状変更という、あしき前例を残してしまった。

 今後の停戦監視はロシア軍が担うが、永続的な和平の枠組みを整える責任は、米国やフランスなども負っている。

 当事国では、国民感情のしこりがくすぶり続けるだろう。両国の指導者と米ロ仏など関係国は、次世代を視野に国民間の和解を促す地道な施策に息長く取り組まねばならない。

 停戦が成立しても抜本的な解決が先送りされた紛争は、世界各地にある。戦火の再燃を防ぐためにも世界的な「自国第一」の広がりを防ぎ、平和構築への多国間主義を再建すべきだ。