【シゴトを知ろう】華道教授 ~番外編~

【シゴトを知ろう】華道教授 ~番外編~

2016.11.04

提供:マイナビ進学編集部

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【シゴトを知ろう】華道教授 ~番外編~

優雅で華やかで芸術的なイメージの「いけばな」。実は意外にも庶民的で親しみやすい世界なのだそう。いけばな草月流で家元代理をつとめる資格も持つ講師・隅出美泉(すみで・びせん)さんに、業界の秘密や裏側をお聞きしました!

この記事をまとめると

  • 現代のいけばなは堅苦しさゼロ!?
  • 一流の男こそ、いけばなを極めている!?
  • 樹木を伐採するのもいけばな修行のひとつ!?

いけばなに「ドリル」?「ノコギリ」?

――一般の方に言うと驚かれる業界の常識はありますか?

私が「いけばなの講師をしています」と言うと毎日、お着物を着て正座していらっしゃるんでしょう? と反応される方が多いので、いつも苦笑してしまいます。もちろん、そういった場面もありますが、現代では立ってテーブルの上に花器を置いて花をいけるスタイルが増えていますし、特にダイナミックで自由な作風を大切にする草月流では、テーブルどころか脚立を使ったりもします。今日もブルゾンにパンツのようなカジュアルな格好ですが、これが私のいつもの服装です。生徒のみなさんも普段着で教室に通っていますよ。いけばなは立ってできること、普段着でもかまわないことを、もっと多くの方に知っていただきたいですね」


――いけばなの世界での特殊な業界用語はありますか?

花を“いける”の反対、いけた花を片付けることを“あげる”、もしくは“あげ花”と言います。引きあげる、みたいな意味合いですね。また、“電気ドリル”や“ノコギリ”も会話の中で時々出てきますが、これは用語ではなく、本当に使うから言っているだけ。ただ、聞いた方は大抵びっくりしますね。
いけばなは花だけでなく、木や枝、場合によっては大きな樹木を使うこともあります。特に店頭ディスプレイなど特大いけばなの依頼を受けることも多い私達講師陣は、ほぼ全員愛用の“マイドリル”を持っていると思います。新作のドリルは使いやすいだろうか、新しい工具は出ていないか……と、ホームセンターをウロウロすることもあります。もしみなさんがホームセンターで真剣にノコギリの品定めをしている人を見かけたら、その方はもしかしたらいけばな関係者かもしれませんよ(笑)。

赤坂の夜、大人の男がいけばなを習う!

――いけばな教室で指導していて、驚かれたことはありますか?

いけばな指導の夜の部には、大人の男性の参加者が多いことです。開催場所の草月流本部が赤坂というビジネスの中心地にあるのも一因だとは思いますが、皆さん本当に熱心です。
会社員の方が中心ですが、中には建築デザイナーやレストランのシェフなどもいらっしゃいます。デザイナーの方は“建築に通じる美しさのセンスを磨きたい”と志しているようですし、シェフの方も “いけばなのように目で見て心も楽しませる料理を作りたい”とお考えだそうです。ビジネスマンの方は、趣味を深めることはもちろん、心が落ち着くとおっしゃる方もいます。
また、男性がいける花はとてもデリケートで優しい作品が多く、こだわりや追求心も素晴らしいです。男子高校生のいけばなデビューも大歓迎ですよ。どうですか?


――いけばなの世界は先生や先輩との間柄は厳しいんでしょうか?

基本の挨拶、花や道具を大切に扱うこと、いけた後の花材の後始末はきちんとすることなど、人としての礼儀、思いやりを欠かさないことはきちんと指導します。しかし、教室で共に習っている方々の姿を見て、皆さん自然と身についていくようですね。
また、段階を踏んだレベル試験はありますが、目的は自分を高めることが主になります。ですから競い合うというより、教室の先輩方は優しいお姉さん、お兄さんのようなもの。自分の教室を開くようになってからも、どうしたら生徒さんにもっと興味を持ってもらえるかなど、相談をしたこともあります。人生の先輩として尊敬できる方々にも多く出会えました。

いけばな用の樹木も器も、自分でゲット?

――いけばなを学ばれた過程でユニークなエピソードはありますか?

いけばなを習い始めて数カ月程の頃に、いきなり『野外制作』があって驚きました。山に行ってチェーンソーで木を伐り、ブルドーザーで運び、丸太にドリルで穴をあけて、そこに花をいけるんです。他にも陶房で自ら器を作る『作陶』の実習もありました。一生懸命やりましたが、その合間に“あれ? 私は何を習ってるんだっけ?”と首をかしげていました(笑)。
器や木の伐採を科目にするかは流派や先生の方針によりだとは思うのですが、器の美、植物や樹木を見る目を養うのは大切なことです。今思えば、その教室では花をいけるだけでなく、いけばなに関する多くのことを広く学ばせていただいていたんですね。

――隅出さんご自身は“いけばな講師”というお仕事をどうとらえていらっしゃいますか?

日本文化を伝える指導者、アートとしての華道を極める芸術家、どちらの側面もあると思いますが、ベースにあるのは“いけばなによって、心地よく豊かな生活を提案する人”ではないかと思います。
大家族でも、一人暮らしでも、いけばなの存在を上手に使うことで生活に輝きや活力をプラスできます。また会合などでも、相手がどんな方か、どのような目的を持った方なのかを踏まえて心地よい空間を作ることで“楽しい時間だった”と思ってもらえる手助けができます。
そんな風にさまざまな方の、多彩な人生の場面をお手伝いしつつ、自分も美しい花や、素晴らしい先輩方と触れ合える。 いけばなは人生の全てに通じる世界です。意外と裏方で地味だったり、体力を使ったりもしますが(笑)、とても心豊かな職業だと私は思っています。

上品な印象の隅出さん。いけばなの面白さや奥深さなどを語る時、瞳が力強くキラキラと輝くのが印象的でした。美しい世界であることは知られていても“古くて堅苦しい習い事”と思われがちな「いけばな」。しかし意外な身近さや、さまざまな活用ポイントがあり、どうやら情報アンテナの鋭い人々は、すでに積極的に触れているようですね。「老若男女も始める時期の早い遅いも関係なく、いつでもいけばなの世界の門は開いていて、皆さんをお待ちしています」と最後に隅出さんはニッコリ。華道に興味がある人は、まず体験してみることから始めてみてはいかがでしょうか。


【profile】華道家 隅出 美泉(すみで・びせん)
草月流師範会理事
草月流本部講師
草月流HPはこちら
隅出 美泉さんのHPはこちら

この記事のテーマ
動物・植物」を解説

ペットなど動物や観賞用の植物に関わり暮らしに潤いを提供する分野、食の供給や環境保全を担う農業・林業・水産業などの分野があります。動物や植物の生態や生育に関する専門知識を身につけ、飼育や栽培など希望する職種に必要な技術を磨きます。盲導犬や警察犬、競走馬、サーカスの猛獣などの調教・訓練や水族館や動物園で働く選択肢もあります。

「動物・植物」について詳しく見る

この記事で取り上げた
「華道教授」
はこんな仕事です

花を生けて美しさを競う日本の伝統芸術である華道。その教授となるためには、特定の流派の師範について修業する必要がある。まずは、その流派の型をしっかりと覚えて、完全にものにできれば、おのずと個性も生まれてくる。そして、晴れて実力が認められれば、自らが師範となって人に教授できるようになる。師範となればカルチャーセンターや地域の公民館、自宅開業などで、教える機会がある。また、さまざまな施設のショーケースを飾る生け花を担当することもある。

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