三浦春馬氏ー大きな才能の喪失
- 2020.07.28 Tuesday
- 22:57
「お芝居つまみ食い」その301
2020年7月18日、三浦春馬氏が亡くなった。
青天の霹靂という言葉があるが、まさに、青く澄みわたった空がにわかに黒い雲に覆われてしまった感じがした。
私が三浦春馬氏の舞台を初めて見たのは、2015年5月、シアターコクーンの『地獄のオルフェウス』だった。(作 テネシー・ウィリアムズ、演出 フィリップ・ブリーン)
三浦春馬氏はヴァル・ゼイヴィアという役を演じた。この役は、映画ではマーロン・ブランドが演じている。そのキャスティングからも分かるように、ヴァルは野性味のあふれた男性だ。
ヴァルは30歳。それを三浦春馬氏は25歳の時に演じた。
さわやかな好青年のイメージを持つ三浦春馬氏は、5歳年上の男くさいヴァルという人物を、役者として、全神経を使って演じていた。発声の仕方、表情、立ち居振る舞い……すべてに気を配って、自分の持ち味とは違うヴァルという男を演じ切っていた。
『地獄のオルフェウス』のパンフレットに、三浦春馬氏はこんなことを書いていた。
「30歳だけど、彼は彼なりにそれまで生きてきた時間の中で、痛みというものを直視してきた。その経験から来る言動に、人としての深みを感じます。僕自身は30歳まであと5年、自分も深みのある人間になりたいなって思いますね。」
ヴァル・ゼイヴィアが、ギターを弾きながら歌をうたう場面がいくつかあった。演技力だけではなく、三浦春馬氏が、見事な歌唱力を持っていることを知らされたのも、『地獄のオルフェウス』だった。
その歌の上手さは、2016年の7~8月、新国立劇場で『キンキーブーツ』のローラを演じた際にも、いかんなく発揮された。(脚本 ハーヴェイ・ファイアスタイン、音楽・作詞 シンディ・ローバー、演出・振付 ジェリー・ミッチェル)
『キンキーブーツ』では、歌唱に加えて、ダンスの素晴らしさをも観客に見せつけ、ミュージカル俳優としての比類ない力量を顕現してみせた。
三浦春馬氏は、「シアターガイド」の2016年8月号で、こう語っていた。
「ローラはこの物語のヒーローとして現れますが、その存在の仕方がユニークな上にもう圧倒的なんです。ドラァグクイーンの頂点を目指している人だと思うので、仕草ひとつ、どの角度から見ても美しいのは最低条件として、過去の苦しみや歩んできた人生までもが垣間見えるようにしたい。」
この言葉は、舞台上で実現されていたと言える。
つぎに三浦春馬氏の舞台を見たのは、2019年1月、シアターコクーンの『罪と罰』だった。(原作 ヒョードル・ドストエフスキー、上演台本・演出 フィリップ・ブリーン)
この舞台の演出は、『地獄のオルフェウス』と同じフィリップ・ブリーンによるものだった。上演台本も含めて、演出の手法に疑問があって、私は途中で退出してしまった。
……こうして、三浦春馬氏の3つの舞台を振り返ってきて、私は、ある夢想をしている。
三浦春馬氏は30歳で亡くなってしまった。
30歳といえば、ちょうど、『地獄のオルフェウス』のヴァル・ゼイヴィアの年齢。
「僕自身は30歳まであと5年、自分も深みのある人間になりたいなって思いますね。」と言っていた、よりによってその年齢で、三浦春馬氏は死を選択してしまった。
もし、今、『地獄のオルフェウス』を再演し、30歳の三浦春馬氏が再びヴァルを演じたとしたらどうだろうか?
『キンキーブーツ』でドラァグクイーンを演じて客席を圧倒した三浦春馬氏。その演技・歌唱・ダンスは凄みさえ伴っていた。性を超えた美しさがあった。その凄みや魅力が加わって、30歳の三浦春馬氏は、より進化したヴァル・ゼイヴィア像を創出できたのではないだろうか?
こんな夢想をしていると、なおさらに、大きな才能を失ってしまったということに、うちひしがれる思いがする。
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