アインズ様がNPCに感謝を伝えて慰労しようとする話(仮題) 作:冥﨑梓
ゴキブリがちょっと出てきます。
あまり露骨な描写はしておりませんが単語を目にするだけでもダメな方はUターンをお勧め致します。
また、私にしてはかなり長くなりました。
―――ナザリック地下大墳墓 アインズの私室
本日のアインズ番メイドが来訪者の名前を告げる。
「き、恐怖公様でございます」
(うわ、震えてる。そりゃそうだな。早めに人払いをしよう)
「そうか。入室を許可する」
「――アインズ様、忠義の士、恐怖公でございます。お呼びとのこと、馳せ参じましたぞ」
「ふむ。よく来たな、恐怖公よ。では面談を始める前に――これは面談を行う者全員に行っているのだが、私の許可無く私に触れたりしないと誓えるか?」
「畏まりました。アインズ様の許可無くアインズ様に触れたりしないと誓いましょうぞ」
「よろしい」
アインズは人払いをし、ソファ席に移動する。まずアインズが座り、向かいの席に座るように勧める。
「失礼いたします」
「うむ。まずは恐怖公よ、改めてお前の働きに感謝する。そしてこのような時間を持てることを嬉しく思う」
「光栄にございますぞ。また、このようにアインズ様とのお時間をいただけること、我が輩にとりましても僥倖にございますぞ」
「・・・今日は支配する者とされる者ではなく、できれば親子のような対話ができればと思う。よろしく頼む」
「畏まりました、アインズ様」
「さて、お前はゴキブリの社交界についてのレポートを書いてくれたが、正直なところ、私は社交界についての知識が少ないのだ。考えて見て欲しい。私も仲間達も皆異形種であり、私は一応まとめ役ではあったが、基本的には合議制を取っていた。私たちの間に身分の差といったものは存在しなかったのだ。社交界についての知識を高めるために仲間達が残してくれた本を読んで勉強してはいるが、やはり実際の社交界を知っている者に教えを請うべきではないかとお前のレポートを読んで思ったのだがな」
「さようでございましたか。しかしながら我が輩の知識はあくまでユグドラシルのゴキブリ社交界の知識であり、この世界の人間の社交界とは異なる可能性はございますぞ」
「うむ。それは分かっている。だが、基本がそう変わることはないであろう。実際本で得た知識であってもある程度は役に立っているのでな」
「では、最近ナザリックに加入した元人間はどうですかな?」
「
(正直
「いや、
「畏まりました。考えが足りず申し訳ありませぬ」
「いや、せっかく提案してくれたのに済まないな」
「滅相もございませんぞ。アインズ様のお考えに間違いなどあるはずはありませんからな」
「そのようなことはないぞ。社交界についてはお前の方が知識があるのだからな。ふむ、
「なるほど、帝国の皇帝であれば、この世界の王たる者のありようについてはかの者よりも良いやも知れませぬな。さすがはアインズ様」
「とはいえ、基本の知識は持っていないといけないからな。済まないがこれから暫く私の教育係になってもらえないだろうか」
「我が輩に務まるか不安はございますが、精一杯努めさせていただきますぞ」
「うむ。よろしく頼む」
(本当のところは、一度帝王教育について考えた時に恐怖公から教わるのはちょっとな、って却下したんだけど、本当に王になってしまったからにはもう逃げられないからな。なに、見た目に目をつぶれば問題はないはず・・・だよな)
―――ナザリック地下大墳墓 アインズの私室
アインズは報告書を書いていた。
報告書といってもむろん誰かに見せる為のものではない。
面談はすれば終わりというものではない。
良かった点、悪かった点を洗い出し、次に生かさねばならないのだ。
アインズは今日の恐怖公との面談を思い出す。
今回の面談の目的の一つである、アインズに出来ないことがあるという事を伝えるのには成功したと言えるだろう。本当は無能であることを伝えなければならないが、いきなりというわけにはいかない。徐々に伝えていく必要がある。そういう意味では最初の一歩と言って良いかもしれない。
だが、主目的である慰労についてはどうだろうか。仕事を増やしてしまっただけで全く慰労は出来ていない。
(失敗だ・・・やはり目的をいくつも設定しているのが問題なのかもしれない。だが、今更変更することはできない。暫く恐怖公に色々教わる事になるわけだからその中でなんとか慰労できないか努力をしていくしかないか。だが、正直苦手な事を学ぶのにそのような余裕があるだろうか。いや、あきらめてはならない。頑張れ、俺)
それから暫くアインズは恐怖公に社交界についての基礎知識を教わった。無様な姿を見せるのは最小限にしたかったのでまず人払いをし、指輪で恐怖公を迎えに行き、自室で教わる、という形だ。
―――暫く後、帝国、ジルクニフの執務室
執務を行っていたジルクニフはふと何かの予感のような物を感じ顔を上げると、目の前の空間が歪み―――
(げぇ!?)
慌てて転げ落ちるように膝をつく。
「こ、これは魔導王陛下」
深く頭を下げた。魔導王は――おそらく魔法で創り出したのであろう――黒曜石と思しき煌めく玉座に腰掛ける。
「ふむ、邪魔をして済まないな。ジルクニフ殿。顔を上げて楽にしてくれ」
「魔導王陛下、私に敬称は不要でございます。どうぞお呼び捨て下さい」
「そうか?では、ジルクニフ。今日は私用なのでな、お前も『アインズ』と呼んで構わないぞ」
(これはどうするべきなのだ!?)
「お戯れを・・・私の立場でそのようにお呼びする事などできようはずがございません」
「そうか。残念だ。だがお前の立場もあるな、仕方が無い、か。お前は仕事中だな。では一段落するまで待たせてもらって良いか?」
「陛下をお待たせするわけには参りません。暫しお待ちを」
ジルクニフは人払いする。本当は魔導王と二人きりになどなりたくないが、仕方が無い。
「済まないな。手短に済ませるとしよう。先ほども言った通り今日はお忍びで来ているのでな。余計な気遣いは無用だ」
「畏まりました。では、私にどのようなご用件でしょうか。おっしゃっていただければ馳せ参じましたものを」
「繰り返すようだが、今回はごく私的な用事でな。お前に来てもらうとなると少々時間がかかるだろう。私ならば転移の魔法ですぐだからな」
「わざわざのお越し、痛み入ります」
「それで用件に入る前にまずジルクニフ、何か困っていることはないか?」
「と、おっしゃいますと?」
「うむ、属国となって暫く経つが、基本的にアルベドに任せているのでな。属国となったことを良い選択であったと思えるように、と指示はしているが、私たちは人間ではない故に行き届かないところがあるやもしれぬと思ってな」
「お気遣い痛み入ります。ですが、何も困っている事はございません。私自身あの時の決断は間違ってはいなかったと日々実感しているところでございます」
「そうか。それはよかった。だがもし困ったことがあればいつでも遠慮無く言うのだぞ」
「畏まりました。度重なる温情溢れるお言葉、誠にありがとうございます」
「このくらい当然の事だ。さて、ここに来た用件だが・・・先ほども言った通り私たちは人間ではない。それ故に人間特有の習わしなどには少々疎いところがあってな。今のところは問題ないのだが、場合によっては力になってもらいたいと思ってな」
「そういうことでございましたか。畏まりました。私ごときで良ければ如何様にもお役立てください」
「助かるよ。それから――」
(確か――)
「アインズ様、ダンスについても知識を高めることをお勧め致しますぞ。男性側については私が教えることも可能ですが出来ればパートナーがおられた方が習熟の度合いも上がります故、件の者に依頼される際には女性パートのダンス講師についても心当たりを尋ねられるのがよろしいのではないかと思いますぞ」
(――って言ってたな)
「ふむ、女性のパートを教えることができるダンス講師がいれば紹介してもらいたいのだが」
「それは・・・どなたにお教えするのでしょうか」
「ふむ、アルベドをはじめとした人に近い容姿の者達にだ」
「ということは、居城にお伺いしてと言うことでしょうか」
「そうなるな」
「畏まりました。心当たりが数人ございますが、しかし、陛下の居城はいささか通常の精神の者には刺激が強すぎます故厳選したいと思います」
「そうか、お前に任せよう。ただ・・・」
「なんでございましょう?」
「我々とお前達人間とのダンスの違いについてすりあわせを行う為に、こちら側の指導者と共に指導してもらいたいのだが、その者の容姿がな、お前達には・・・いや、女性達にはちょっと厳しいかもしれん」
「女性にとって、ですか?」
「通常女性は虫が苦手であろう?その者は体躯30センチほどの虫の姿をしているのだ」
「それは確かに人を選ぶかもしれませんね」
「どうしても難しいようであれば、その者に説明をして幻術をかけることにしよう」
「畏まりました。一応虫の容姿であっても平気な者を探す事と致します。いつまでにお伺いすればよろしいでしょうか」
「これは今後のためである故急ぎではない。そちらの都合に合わせよう」
「ご配慮痛み入ります。しかしダンスのマスターにはそれなりに時間を要しますのでできるだけ早くご用意できるように致します」
「うむ、助かる。――あぁ、そうだ。ダンス講師となってもらえる者には何か褒美を与えよう。考えておいてくれ」
「褒美――でございますか。――なるほど、そういうことでしたか。ご配慮ありがとうございます。早速心当たりの者に当たってみますと致しましょう」
(そういうことってどういうことだよ!?)
「うむ。よろしく頼む。私の話はこれで終わりだ。ではまたな」
魔導王が――恐らく転移の魔法で――消える。ジルクニフはため息をついた。
(またこれは大変だぞ・・・だが、色々問題はあったがそれなりに貢献してはくれていた者に報いることにもなるのかもしれないな)
「”重爆”を呼べ」
「畏まりました」
属国となる前は”重爆”が重要情報に触れないようにしていたが、属国となった今では問題がないので通常通り勤務してもらっている。ただ、逆に言えば”重爆”が自分を魔導国に売り込むのがより難しくなったとも言える。うまくいくといいのだが。
「陛下、お呼びと伺いましたが」
「あぁ、よく来たな。お前はダンスの女性パートを人に教える事はできるか?」
「一通りできるとは思いますが」
「虫は苦手か?」
「虫の種類によると思いますわ」
「まぁそうだな。単刀直入に言う。魔導王陛下からの依頼だ。陛下の居城に赴き、30センチほどの虫の姿をした男性側講師と共にダンスを教えるように、とのことだ。無事任務を終えたら陛下から報酬があるそうだぞ」
「そうですか。では私が参りますわ。どんな容姿の者が相手でも見事に成し遂げてみせますわ」
「そうか。助かる。では魔導国から派遣されている、
数日後
―――ナザリック地下大墳墓 第九階層 謁見室
やや遅れて到着したシャルティアはここに呼び出された面々を見渡し心の中で眉をひそめる。
(どういう人選なのでありんしょう?守護者全員でもないし、一般メイドもプレアデスも男性使用人まで集まっているのはいったい?それにあれはパンドラズ・アクター?モモンの格好をしているようだけんど・・・それでナーベラルが横にいんすということは今は『ナーベ』ということでありんすね)
そしてどうしても目をやりたくない箇所が一つ。恐怖公だ。
「シャルティア、疑問はあるでしょうけれどもこれからアインズ様からお話があるわ。早く並びなさい」
「わかっておりんす」
コキュートスだけがいないのが気になるし、何故かデミウルゴスは半悪魔形態だ。とはいえこれ以上アルベドに言われるのも癪なので所定の位置につき跪く。
アルベドが一度外に出て行き、再び扉が開く。この御方の為に今日は何かお役に立てるだろうか。
主が玉座に腰掛けると頭を上げる許可が下りご尊顔を拝する。
「皆、忙しい中よく集まってくれたな。この人選について疑問もあるだろう。単刀直入に言おう。今日から暫くお前達にはダンスをマスターすべく学んでもらう」
「ダンス、でございますか?」
「この中でダンスが出来る者は恐怖公以外にいないと聞いているが」
「その通りでございます。お役に立てず申し訳ございません」
「謝ることはないぞ。私もできなかったのでな。恐怖公に習ったのだ。皆もこれから学んで貰う。ただし恐怖公は男性側しか教えられないそうなのでな、帝国のジルクニフに頼んで女性側の講師を用意してもらった。それで、シャルティア」
「はっ」
「済まないが帝国のジルクニフの所にいって、講師を連れてきてもらえないか?我々は教わる立場だ。それをわきまえて丁重に迎えるように。しばらく客室に寝泊まりしてもらうこととする」
「畏まりんした。早速行って参りんす」
「うむ」
シャルティアが謁見室を出て行ったところで、ペストーニャが発言を求める。
「恐れながらアインズ様、私たちメイドもダンスを学ぶのでしょうか。あ、わん」
「うむ。お前達メイドは人間に見える容姿を持っているであろう。また、人間社会においてメイドとは通常貴族の子女がなるもの故皆教養の一つとしてダンスはできて当然だそうだ。それならばお前達が侮られない為にもダンスを身につけている必要はあるだろう」
「そういうことでしたら畏まりましたわん。アインズ様が侮られない為にもすぐにでもダンスを身につけてみせますわん」
「意気込みは買うがそこまで必死にやらなくともよいぞ。どちらかというと楽しんでやってもらいたいのだ。普段の仕事もあるだろうからシモベを使い支障がないように。また十分休憩を取りながら行うのだぞ」
「ご配慮ありがとうございます。あ、わん。アインズ様にご心配をおかけしないように致しますわん」
「うむ、頼むぞ。そういうわけでセバス、お前も疑問に思っていたかもしれぬが、執事も貴族の三男などがなる場合が多いのでな。お前達にも学んでもらうぞ」
「畏まりました」
「他に疑問がある者はいるか?」
「はい!」
「どうした、アウラ」
「あの、パンドラズ・アクターはどうしてモモン様の格好をしているんですか?」
「それはだな、パンドラズ・アクターにはモモンとしてダンスを学んでもらいたいからだ。ただし、私に変身したままだと実際に触れた時に人間ではない事がばれてしまう故、高位の幻術を使って人間体のモモンとなってもらっている」
「それでナーベラルはナーベの格好をしているんですね。わかりました!」
「うむ。パンドラズ・アクターはモモンとしてナーベと、アウラはマーレと組んでもらうからな」
「それで今日は私にスカートを、マーレにズボンを履くようにとおっしゃったんですね」
「そうだ。ちゃんと茶釜さんは用意してくれていただろう?」
「はい!ちょっと動きにくいですけど頑張ります」
「うむ。アウラはとても可愛いしマーレもりりしくてかっこいいぞ。マーレも気負わずに頑張るのだぞ」
「は、はい!ありがとうございます!」
「えへへ、可愛いだって・・・」
「よ、よかったね、お姉ちゃん」
「うん、あんたもかっこいいって」
「えへへ、嬉しいな」
一方ジルクニフの元では―――
薄っぺらな、ただ、どこまで行っても終わりが無さそうな深みのある漆黒―――それが下半分を切り取った楕円の形で、床から浮かび上がり、そこから少女が出てくる。
「こなたがわらわ達にダンスを教えるといわす者でありんすかぇ?」
「左様でございます」
「レイナース・ロックブルズと申します」
「ついてきなんし」
「では陛下、行って参ります」
「頼んだぞ。ではよろしくお願い致します」
闇をくぐるとそこは以前に来たナザリックなる魔導王の居城の側にあるログハウスの前だった。
「ちょっとそこで待っているでありんす」
「畏まりましたわ」
ログハウスに一度入った少女はすぐに出てくる。
「今から転移をするのでこっちにきなんし」
「はい」
一瞬で視界が変わり荘厳な廊下に降り立つ。
「こっちでありんすぇ」
少女について行くと一つの扉の前に立つ。
「ここが謁見室でありんす。ここでアインズ様にお目通りをしてもらいんす」
「畏まりました」
少女がノックをするとメイドと思しき女性が顔を出し、一度引っ込んだあと再びドアが開かれる。
「入室の許可が降りました。どうぞお入り下さいませ」
「ついてきなんし。けして失礼のないようにしんせんよ」
「もちろんでございますわ」
扉の中は廊下にも増して荘厳な雰囲気が漂っている。
大勢の使用人だろうか、皆こちらに注目している。
(絶対にお役に立って呪いを解いていただきますわ!)
失礼にならない程度に周りを見ながら中央の通路を歩む。
「私はあちらにいきんすによりて、そなたはそこで待つでありんすぇ」
「畏まりましたわ」
玉座の前に跪く。
「アインズ様、遅くなりんした。お連れしんしたぇ」
「うむ、ご苦労。アルベド」
「はい。魔導王陛下に名前を申し上げなさい」
「はい。レイナース・ロックブルズと申します。精一杯勤めることを誓います」
「うむ、よろしく頼む。ではこちらの男性側の講師を紹介しよう。ジルクニフから聞いていると思うが彼の容姿は・・・」
「は。虫の見た目をしていると伺っております」
「そうだ。虫は虫でも・・・まぁ実際に会って貰ったほうが早いな。もしどうしても無理ならば幻術をかける故そのように言ってくれ」
「大丈夫でございますわ。たとえどのような容姿の方であってもけして驚かず勤めを果たして見せますわ」
「そうか。では恐怖公」
「はっ」
そういって歩み出たのは・・・虫は虫でもあれはどう見てもゴキブリだ。直立するゴキブリが立派なマントと王冠、王杓まで持っている。
(え。陛下!これは普通の虫と称するのには語弊があるのではないですか!?いやでもたとえどのような容姿であっても、と誓ったばかりですし撤回しては呪いを解いていただける可能性がなくなりますわね。覚悟を決めますわよ)
「ご紹介にあずかりました、我が輩恐怖公と申します。以後お見知りおきを」
(あの体でどうやってお辞儀をしたの?しかも驚くほど優雅に)
「ご丁寧にありがとうございます。レイナース・ロックブルズと申します。よろしくお願い申し上げます」
「さて、当初の予定よりも教わる人数が増えたのでな、場所を移動することとしよう」
移動した先は巨大な広間になっていた。
「ここは多目的ホールという」
「さようでございますか」
「控え室もあるし、小ホール、ロビーなどもあるぞ。ここならばダンスを教わるのに十分な広さがあると思うのだが」
「そうですね。十分かと」
「さて、レイナース・ロックブルズ殿」
「呼び捨てで結構ですわ」
「ふむ、ロックブルズ。ここで君に教えてもらう者達を紹介しておこう。アルベド」
「はい。まず私のことは知っていると思うけど改めて自己紹介します。私はアルベド。魔導国の宰相よ。これから紹介する守護者を統括する者でもあるわ」
「は。お噂はかねがね」
「まぁ。どういう噂かは聞かないでおくわ。それでは順番に紹介致します。まず貴女をこちらに連れてきたのがシャルティア・ブラッドフォールン」
「改めてよろしくお願いしんすぇ」
「先ほどはお連れ下さりありがとうございました」
「アインズ様のご命令故礼は不要でありんすぇ」
「次にアウラ・ベラ・フィオーラ」
「よろしくね」
「ここまでが階層守護者と呼ばれています。男性側は後ほど紹介致します」
「畏まりました」
「次にプレアデスの皆、彼女たちには一度来られた時にお目にかかったと聞いていますが念のため再度ご紹介致します。向かって右からユリ・アルファ、ルプスレギナ・ベータ、ソリュシャン・イプシロン、シズ・デルタ、エントマ・ヴァシリッサ・ゼータ」
「代表として私ユリ・アルファがご挨拶申し上げます。どうぞよろしくお願い致します」
「こちらこそご丁寧によろしくお願い致します」
「それからメイド長であるペストーニャ・ショートケーキ・ワンコ。それから彼女が率いるメイドが41人いるわ」
「どうぞペストーニャと及びくださいませわん。メイド達を紹介いたしますわん」
「メイド達は全員が一度に教えてもらうのは難しいので交代で来ることになるがな」
「畏まりました」
「こちらから順に、フォス、フィース、インクリメント、デクリメント、シクスス、リュミエール、フォアイル・・・」
(これだけの人数を一度に紹介されても動じないなんてさすがは貴族だなぁ。俺はモモンの時に冒険者達のチーム名とリーダー名を覚えるの大変だったもんなぁ。名札をつけてほしいと何度思ったか)
「以上41名でございますわん」
「「「よろしくお願い致します」」」
「こちらこそよろしくお願いしますわ」
「最後にエ・ランテルの統治に協力してくれているアダマンタイト冒険者漆黒の一員、ナーベ」
「・・・・よろしく」
「彼女にはモモンとペアでダンスを覚えてもらうつもりよ。そういうわけでモモンも紹介しておくわね」
「モモンだ。ナーベともどもよろしくお願いする」
「こちらこそ噂に名高いアダマンタイト冒険者の方々にダンスを教える機会に恵まれるなんて光栄ですわ。モモン殿はそのようなお顔をなさっていたのですね」
「私の容貌については他言無用でお願いする。あまり騒がれたくはないのでね」
「了解致しました。噂通り黒髪黒目であった、という以外は話さないように致しますわ」
「助かる」
「では他の男性陣を紹介します。まずは守護者からデミウルゴス」
「よろしくお願いするよ」
「次にマーレ・ベロ・フィオーレ。彼はアウラとペアを組んでもらいます」
「よ、よろしくお願いします」
「畏まりました」
「守護者はもう一人いるのですが彼は大きすぎるし人間とかけ離れているので今回はダンスには参加しませんので割愛いたします。次に執事長であるセバス・チャン」
「宜しくお願い致します」
「こちらこそよろしくお願い致します」
「それからセバスが率いる男性使用人達よ。彼らの覆面については気にしないでいただけるかしら」
「畏まりました」
「大勢で済まないな。それからロックブルズがダンスを教える時間だが、必ず間に休憩を最低1時間はとること。1日に最大でも8時間までにすること。1週間で最大40時間までとすること。1週間の内1日は完全な休日とすること。以上を守るように」
「畏まりました」
「それからこれを貸しておこう」
「これは?」
「
「このような貴重な宝をありがとうございます。では早速始めますか?まずは基本姿勢と基本のステップからになりますので男女分かれてがよろしいかと」
「ふむ、そうだな。では分かれるとしよう」
「ではまず基本の姿勢から・・・と申し上げたいところですが、皆様さすがと申しますか基本姿勢は出来ていらっしゃいますね。ウォーク・・・も問題なさそうです。
では基本のステップからお教え致します。代表的なワルツが踊れるように致しましょう。
ワルツは3拍子の音楽に合わせ回転するように踊ります。回転の方向が左回転なのを『ナチュラル』右回転なのを『リバース』と言います。このような感じです。
そして回転だけではなくステップには上下運動を用います。『ライズ』でこのように伸び上がり『フォール』もしくは『ロアー』とも呼ばれますがこのように沈み込みます。このライズとフォールの組み合わせで美しい上下の動きが作られます。
123の最初は大きく踏みだし、次にライズし、次にライズからフォールとする。一番低いのは一歩目の膝を曲げたところで、一番高いのは3歩目の最初です。では皆様やってみてください」
さすがはジルクニフが推薦しただけのことはある。感心しながらアインズが女性陣の様子を見ていると恐怖公に声をかけられる
「アインズ様。女性陣が気になるのはわかりますが我が輩達も始めませんと」
「そうだな。すまない。女性陣の方が多いから基本のステップの後は女性陣は交代制にしておくか」
「さようでございますな。では始めますぞ」
「「「よろしくお願い致します」」」
そうして皆で基本のステップを練習していると女性陣の方で「あ」という小さな声とざわめきが聞こえてきた。
見ると皆の中央でロックブルズがうずくまっている。いや、あれは土下座か?いったい何があったというのだろうか。
「どうした?」
「も、申し訳ございません。床を汚してしまいました」
「ん?床?」
「アインズ様、こなたのロックブルズはどうやら呪いを受けているようでありんす」
「ロックブルズ、そうなのか?」
「も、申し訳ございません」
「ふむ・・・それでは教えるのに支障があるだろう。ペストーニャ」
「はっ」
「できるか?」
「畏まりましたわん。<
「これで問題ないな?」
「え?」
「お前の呪いとやらはこれで解除されたはずだ。これでダンスを教えるのに支障はないと思うがどうだ?」
「あ、ありがとうございます。ありがとうございます!!」
ロックブルズが床に頭を擦りつけている。頭部をどこまで低くできるか、その限界に挑戦しているようでもあった。
「床については掃除すれば問題はないだろう。どうだ?」
「はいですわん。すぐに掃除いたしますわん」
「お、お待ちください。汚したのは私ですから私が掃除致しますわ」
「ふむ。まぁお前がそれで気が済むのならそれでも良いが、お前達に任せる」
「多大なるお慈悲を賜り誠にありがとうございます。今後も精一杯勤めますことを誓います」
一悶着はあったが問題なく解決してよかった。
ステップについては小一時間ほどで全員がマスターできた。
あらかじめ恐怖公に教わっておいてよかった、と心からアインズは思った。
「ではここからはペアで練習致しましょう。恐怖公様」
「我が輩もそれがよろしいかと思いますぞ」
「私と恐怖公様で組めればいいのですが少々難しいですわね」
「そのようですな」
「では簡単に説明致しますわ。向かい合って互いに左に半身ずらして立ちます。肘を体の横――胸の高さくらいまで上げます。
男性側の左手と女性側の右手を軽く握り合わせるようにします。その際に親指の付け根のふくらみをお互いつけるようにし少し手首をひねるようにします。お互いの手の平の間に小さな卵くらいの隙間があるようにするのがポイントです。
男性の右手は女性の肩甲骨のあたりに沿わせるようにします。女性の左手は男性の右上腕に乗せるようにします。
お互いに顔は左を向くようにし、女性は頭を左後ろに男性から離れるようにします。
これが基本の組み方、『ホールド』です。ポイントとしては肩が上がらないようにすること。肘を後ろに引かずやや前にすること。そして肘が下がらないようにすることです」
「では一つここは代表してアインズ様に、、、と申し上げたいところですがお相手が殺到しそうでございますな。そうですな、モモン殿とナーベ殿にやっていただきましょうぞ」
「それがいいですわね」
「わかった」
「・・・わかりました」
二人が並ぶと絵になる。姿勢も綺麗だ。しかしあのモモンの顔はどうにかならなかったのだろうか。モモンの顔を見せなければならない場面に備えて以前アインズがパンドラズ・アクターに幻術で作った顔を見せたときの事を思い出す。
基本的には幻術を見破るかもしれない
「おい、この顔は私が作ったものと違うように思うのだが?」
「そうでしょうか。そっくりに作ったつもりなのですが・・・ただ父上がお作りになった幻影ですと、体の立派さに比してやややせすぎのように思われましたゆえ、少しだけ肉付きを良く致しましたがいけませんでしょうか?」
「うむ・・・まぁこの程度ならば差異には気付かれないか?良かろう」
「ありがとうございます!」
その時はこの微妙に肉付きが良くなった顔に今後はすればいいと思っていた。だが今回のモモンの顔はその時よりも更に美化されている気がする。まさに美男美女だ。しかも鈴木悟を元にしているということがわかるので見ているといたたまれない気持ちになる。
だがまぁ仕方が無い。先に確認しなかったアインズが悪いのだ。それにそのような事に意識を逸らしている場合ではない。これからアインズもペアを組んで練習せねばらないのだ。一応アインズは事前にペアの組み方についても恐怖公に教わり練習はしてきた。だが己が一時的に生み出したアンデッド相手であった為生身の相手に対し上手くいくか不安はある。だがやらねばなるまい。
「では皆様ペアを組んでいただきましょう。アルベド様は、フィオーラ様とフィオーレ様、モモン殿とナーベ殿をペアでとおっしゃっていましたが、そうしますと少々男性陣への負担が大きいように思われますが」
「そうだな。では女性陣には何グループかに別れてもらって、1グループだけ残して残りはいったん解散とするか?」
「お待ち下さい、アインズ様」
「ん?どうした?」
「今日はせめて全員で指導を受けさせていただけませんか?明日からはグループごとの練習に致しますので」
「どう思う、恐怖公、ロックブルズ」
「そうですな。この程度であれば負担と言えるほどではありません故今日はそのままになさいますか」
「ではこう致しませんか?先ほどアルベド様がおっしゃっていた二つのペアについては、音楽に合わせて練習するようになってからということで、暫くは全員含めてペアを組んで練習をするというのはいかがでしょうか?」
「うむ、お前達がそれでいいというならばそうするがいい」
「では、魔導王陛下とペアを組んでいただくのは――」
そうロックブルズが言った途端アインズの前に長い行列ができた。しかも男性陣まで並んでいる。これはいったいどういうことだ?セバスやデミウルゴスまで並んでいることにアインズはショックを受ける。しかもパンドラズ・アクターとナーベラルまでいる。おい、お前達は今「モモンとナーベ」だぞ。俺の前に並んでどうするんだ。さらに良く見ればなんと恐怖公までいた。恐怖公の前後が妙に空いているので気付いたのだ。アインズは頭を抱えたくなった。だがそうすることはできない。
「まぁ、魔導王陛下は皆様に愛されていらっしゃるのですね」
「いや、これはだな・・・」
「しかし男女ペアでは踊っていただかないといけません。ここは公平にくじ引きに致しましょう。公正を期するために男性側にもくじを引いていただきます。1から15までの数字が書かれた紙をご用意致しました。
男性陣はこちらの箱から。女性陣はこちらの箱から引いてください」
いつの間に用意したのだろうか。アインズが素直にくじを引くと後の者も続く。
「では番号順にこちらから並んでいただけますか?同じ番号の方がペアとなります。明日からも同じようにくじと致しましょう」
さすがはジルクニフが推薦しただけの事はある。素晴らしい差配だった。
「あまり長くても良くありませんので1ペアあたり15分と致しましょう。その後10分休憩を致しまして次の方と交代という形でいかがでしょうか」
人間の集中力はだいたい15分と言われているらしい。もちろんナザリックの皆は15分どころか何時間でも集中力が切れることはないようだが―――夜番メイドを見ているとまさにそうだ―――そのくらいが適切だろう。
「それが良いのではないか?恐怖公はどう思う?」
「は。我が輩もロックブルズ殿のご提案通りでよろしいかと存じますぞ」
「ではそのようにしよう。では始めるか」
こうして皆でダンスの練習をしていると昔皆でフォークダンスをしたのを思い出す。
「ふふ」
「どうなさいましたか?」
「あぁ、済まない。昔仲間達とフォークダンスをしたことがあってな。それを思い出したのだ」
「フォークダンス、でございますか?」
「あぁ、今習っているようなダンスはソシアルダンスというそうだが、フォークダンスはもっと庶民的なものだな。皆で輪になって踊るのだが、簡単なステップを組み合わせて、二人ずつペアで行いながらどんどんパートナーを変えていくものや、皆で手をつないで行うものなどあったな。今度皆でやってみてもよいな」
「それは素晴らしいですね。このダンスが一通りできるようになったらフォークダンスをアインズ様に教えていただきましょう」
「それならばアインズ様とペアを組む事が出来ない我々男性側にもアインズ様と踊るチャンスがあるということですね。素晴らしい。さすがはアインズ様です」
そうして2週間、皆はみっちりと練習をして恐怖公からもロックブルズからもどこの舞踏会に出ても大丈夫とお墨付きを全員が貰えるまでになった。
その後の1週間は今度はアインズが皆にフォークダンスを教える番だ。ダンス講習に参加できなかったコキュートスやニューロニスト、エクレアなども参加を希望した。あまりに多すぎた為午前、お昼、午後、夜と1日に4回ずつ行われた。全員がアインズと手を繋ぐ事を希望したので輪は頻繁に組み替えて行われた。
そしてロックブルズが帝国に戻る日――――
「この3週間、ご苦労だった。褒美を与えよう。何か望みのものはあるか?」
「無事勤めを終えられたこと、恐悦至極に存じます。褒美については不要でございます」
(え。ジルクニフの部下教育はどうなってるんだ?NPCじゃあるまいし、報酬不要だなんて)
「そういう訳にはいかぬ。私はジルクニフにダンス講師を無事務めた者には褒美を渡すと約束したのだ。その約束を違えるわけにはいかぬ。何かないか?」
「言葉が足らずに申し訳ございません。褒美は既にいただいておりますわ」
「む?そうか?」
「実は私は褒美として呪いを解いていただくつもりだったのでございます。あの呪いを解くために私はありとあらゆるつてを頼ってきましたがかないませんでした。それを陛下はいとも簡単になされました。しかも褒美としてではなく、ただダンスの指導に支障があるだろうという理由によって。私は陛下のなさりように感銘を受けました。いくら感謝してもしたりないくらいでございますわ。この感謝の思いをお伝えする為にも今後人間の貴族の習わしについてお困りのことがございましたら、いつでも私にお声がけくださいませ」
「そうか、わかった。ジルクニフにもよろしく伝えてくれ」
「ジルクニフ様であれば私のこの顔を見ればすぐおわかりになりますわ」
「ふふ、そうかもしれぬな。では名残惜しいがそろそろ」
「はい、おいとま致します。お借りしていた指輪をお返し致しますわ」
「うむ、アルベド」
「はい。確かに受け取りました」
「シャルティア」
「はっ」
「頼んだぞ」
「畏まりんした。そなたにはずいぶん世話になりんしたぇ。こっちにきなんし」
「はい。ブラッドフォールン様、よろしくお願いしますわ」
シャルティアがロックブルズを連れ、指輪の力を起動させる。あれで地表部へ転移し、その後、<
「アインズ様のなさりよう、まさに大変勉強になりました。私たちもいっそう精進致しますわ」
アルベドが言うとデミウルゴスも幻術と変身を解いたパンドラズ・アクターも頷く。
「まさに端倪すべからざるというべきでしょう」
「まさにまさに」
(え?俺何かしたか?ただ皆でダンスの練習をしただけだよな?)
「ふむ。何のことだ?我々はダンスを教わった、それだけだろう?」
「畏まりました。そういう事に致しましょう」
(何を言っているんだろう)
「そうだ。他意は無い。良いな?」
「は。畏まりました」
未来の自分に丸投げだ。今は難しいことを考えずにダンスの余韻を楽しもう。
そうしてダンスに明け暮れた3週間は終わった。だが皆時間があればフォークダンスを練習した。いつアインズに誘われてもできるようにだ。
このフォークダンスを皆で踊るというのは確実に皆の慰労に繋がったと思われた。
定期的に皆でダンスするというのもいいかもしれない。
恐怖公を個人的に慰労する事はできなかったがナザリックのNPC全体の慰労にはなったと言える。
紅蓮など参加できない者がいたのが今後の課題だな。
アインズは今日も皆の慰労の為に頭を働かせるのだった。
フォークダンスとか多目的ホールとか帝国にエルダーリッチが派遣されているかとかはねつ造設定です。
ダンスのステップとか出てきますがにわか知識なので間違っているかもしれません。男性側ではなく女性側を書いたので余計にややこしく。読み流してください。
今回結構苦戦していたのですが、大先輩であるジッキンゲン男爵様とのメッセージのやりとりでお話が膨らみました。感謝致します。
次からはリクエストをいただいたキャラ2人を書きます。うまく話が書けるといいのですが。
タイトルはどうしたらいいでしょうか
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今のタイトルの(仮題)を外す
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一瞬だけ使用した「感謝と慰労」にする
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まだ(仮題)のままにしておく