アインズ様がNPCに感謝を伝えて慰労しようとする話(仮題) 作:冥﨑梓
アインズとの面談~ニューロニストの場合~
―――ナザリック地下大墳墓 アインズの私室
本日のアインズ番メイドが来訪者の名前を告げる。
「ニューロニスト・ペインキル様でございます」
「そうか。入室を許可する」
「――ニューロニスト・ペインキル、お呼びとのこと。馳せ参じました、モモンガ様」
「ふむ。よく来たな、ニューロニストよ。では面談を始める前に――これは面談を行う者全員に行っているのだが、私の許可無く私に触れたりしないと誓えるか?」
「はい。モモンガ様の許可無くモモンガ様に触れたりしないと誓います」
「よろしい」
(なるほどねん。ブスと小娘対策ということなのねん)
アインズは人払いをし、ソファ席に移動する。まずアインズが座り、向かいの席に座るように勧める。
「失礼いたしますわん」
「うむ。まずは、ニューロニストよ、改めてお前の働きに感謝する。そしてこのような時間を持てることを嬉しく思う」
「光栄にございます。また、このようにモモンガ様とのお時間をいただけること、私にとりましても僥倖にございます」
「・・・今日は支配する者とされる者ではなく、できれば親子のような対話ができればと思う。よろしく頼む」
「はい。わかりましたわん」
「さて、お前のレポートによると・・・餓食狐蟲王に新居祝いとして男性用の香水をプレゼントしたとのことだが、その香水はお前が調合したのか?」
「その通りですわん」
「男性用の香水か・・・お前からもいい花の香りがするな。それもお前が調合したのか?」
「そうですわん。お褒めいただき光栄ですわん」
「ふむ・・・私は皮膚がないせいか、香水を使用しても匂いが残らないようなのだ。それゆえ上級貴族のたしなみとされる香水を私は使うことができないのだが」
「それでしたらこういったものはいかがでしょうか?」
―――第六階層 第七階層からの転移門前
現れたニューロニストにアウラは拍子抜けしたように脱力する。
「なんだ、ニューロニストか」
「あーら、アウラちゃん久しぶりん」
「ひょっとして今日は例の?」
「そうよん。モモンガ様とふ・た・り・き・り」
語尾にハートマークをつけたような物の言い方ではあるが、男とも女ともつかないだみ声なのが残念だ。
「本当に幸せなひとときだったわん」
「いいなぁ。あたし達守護者はまだまだだと思うってこないだアルベドが言ってたからね」
「そうなのねん。・・・そうだわ、アウラちゃん。今からちょっとモモンガ様の所に行ってみなさいよ。きっと素敵な体験ができるわよん」
「え、今から?別にいいけど。アインズ様に会えるのは嬉しいし。マーレも誘った方がいいかな?」
「どうかしらん。マーレちゃんの都合がいいなら誘ってあげてもいいかもしれないわねん」
「うん、わかった。誘ってみる」
「うふふふふ~後で感想を是非聞かせて欲しいわん」
「感想?よくわかんないけどわかったよ。じゃあね」
疾風のごとく駆け出し、あっという間にアウラの姿が視界から消える。さすがは階層守護者だ。
「うふふ、アウラちゃんに合う香水も準備しておいた方がいいかしらねん。マーレちゃんにも必要かしらん」
ニューロニストはスキップをしながら第五階層への転移門に向かった。
―――一方、アウラは己の住居である巨大樹に戻り、マーレの部屋のドアをノックする。
「ん~?どうしたの、お姉ちゃん」
「マーレは今日も本を読んでたの?」
「うん、そうだよ。この本はとっても面白いんだ」
「そっか。それでさ、今からアインズ様に会いに行こうと思うんだけど一緒に行く?」
「アインズ様に?わ、わかった、行くからちょっと待ってね、お姉ちゃん」
「わかったから早くしてね」
そうして身支度をした二人はマーレの指輪で転移をし、アインズの部屋のドアをノックする。
今日のアインズの部屋つきメイドが顔を出す。
「アウラ様、マーレ様、どうされたのですか?」
「アインズ様はお部屋にいらっしゃいますか?」
「いらっしゃいます。少々お待ち下さい」
「よ、よかったね、お姉ちゃん、アインズ様お部屋にいらっしゃるって」
「うん」
マジックアイテムで話さずわざわざ直接マーレのところまで行ったのはマーレの指輪で転移した方が早いからだ。
間に合ってよかった。
ドアが開きメイドが再び顔を出す。
「アインズ様がご許可を出されました。どうぞ、お入り下さい」
「こんにちは!アインズ様」
「こ、こんにちは、アインズ様」
「ふむ、アウラ、マーレ、二人ともよく来たな」
アウラはアインズの近くまで駆けていくとVの字に両腕を広げる。
「・・・いつものか?」
「はい!」
アインズはいつもようにアウラを持ち上げて右大腿骨に座らせ、マーレを手招きする。
「お、お願いします」
駆け寄ってきたマーレをアインズは左大腿骨に座らせると、二人の頭を撫でる。
「えへへへ・・・」
「今日はどうしたのだ?」
「アインズ様にお会いしたくなったんです!」
「そうか。それはありがとう。私もお前達に会えて嬉しいぞ」
「あれ?アインズ様、何だか良い匂いがします」
「そうか?ひょっとするとこれか?」
アインズが懐から可愛らしい巾着袋を取り出した。先ほどアウラが感じた優しく落ち着く香がそこから漂ってくる。
まるでアインズ様みたいな匂いだ、とアウラは思う。むろんアインズ自身には匂いなどないのだが。イメージというやつだ。
「それです!それはどうされたんですか?」
「これはニューロニストにもらったのだ。アウラはこの匂いをどう思う?」
「とっても良い匂いです。アインズ様みたいに優しくて落ち着きます」
「ぼ、ぼくもこの匂い好きです。この匂いに包まれるとアインズ様が近くにいらっしゃるって感じがします」
「そうか。ではたまにはこういう匂い袋を使うのもいいのかもしれないな」
(ニューロニストが言ってたのはこのことか~確かに素敵な体験ができたかも。アインズ様にも会えたしね)
アインズの部屋を辞したアウラはニューロニストに会いに行く事にする。
(約束もしたしね)
「マーレ、あたしは今からニューロニストのところに行くけど、あんたはどうする?」
「あ、ぼ、ぼくも一緒に行くよ」
「じゃあ、よろしくね」
第五階層氷結牢獄内真実の部屋の前にマーレの指輪で転移する。
「あらん、アウラちゃんにマーレちゃん、いらっしゃい」
「さっきはありがとね、ニューロニスト。アインズ様の匂い袋、とってもいい香りだね」
「うふふふ、そうでしょう?私がモモンガ様をイメージして調合したのよん」
「あの、と、とってもアインズ様に似合ってました」
「うふふふ、ありがとう、マーレちゃん」
「それでさ、あたしにも同じ匂い袋って作ってもらえる?」
「あらん、アウラちゃんも同じものが欲しいの?てっきりアウラちゃんに合う香水がいるのかと思っちゃったわん」
「香水はまだあたしはいいかな。でもあの匂い袋はとってもいい香りだから、持っておきたいんだよね」
「わかったわん」
「あ、あの、ニューロニストさん、ぼ、ぼくにもいただけないでしょうか?」
「あらあら、マーレちゃんも?わかったわん、ちょっと待っててねん」
「マーレも欲しいの?」
「う、うん。だってアインズ様と一緒にいるみたいな気持ちになれるから」
「そうだね。あんたの言う通りだね」
「はい、二人とも、どうぞん」
「ありがと、じゃあまたね」
「あ、ありがとうございます、ニューロニストさん」
「どういたしましてん。もし香水が欲しいって思ったらいつでも声をかけてねん」
―――ナザリック地下大墳墓 アインズの私室
アインズは報告書を書いていた。
報告書といってもむろん誰かに見せる為のものではない。
面談はすれば終わりというものではない。
良かった点、悪かった点を洗い出し、次に生かさねばならないのだ。
アインズは今日のニューロニストとの面談を思い出す。
―――「それでしたらこういったものはいかがでしょうか?」
そう言ってニューロニストが取り出したのは可愛らしい巾着袋だった。
「それは?」
「匂い袋ですわん。モモンガ様をイメージして調合致しました」
「ふむ、どれ・・・なるほど、優しい、どこか安らぐような香だが、これが私のイメージなのか?」
「はい。モモンガ様のイメージはいくつかございますが、まず、強大な力」
(まぁニューロニストから見たら私の力が強大だというのは間違ってはいないな)
「比類無き美しさ」
(いつも思うのだがこの骸骨の体のどこに美しさがあるんだろう・・・)
「深遠なる知謀」
(うわぁ・・・あ、沈静された)
「そして慈悲深さでございますわん」
「ふむ。この香でその四つのイメージが表現されているのか?」
「はい。強大な力と深遠なる知謀をお持ちのモモンガ様はお側にいれば安らぎを感じます。優しさはもちろん、最後に美しさを表現するために、ほんの少しだけ刺激的な香を入れております。それによっていつまでも嗅いでいたいという気持ちを抱かせるものになっておりますわん」
「ふむ。確かに少々癖になる気はするな。これが私のイメージか・・・」
「はい。もちろんモモンガ様の魅力の全てを表現できたとは思っておりませんがその一部は表現できたと思っておりますわん」
「そうか、ではありがたくいただこう。必要なときにはこれを身につけてみることにするか」
「まず今日一日つけてみられて、問題ないか確認されてはいかがでしょうか?」
「そうか?ではそうするか」
今回の面談はひとまず成功、と思って良いのだろうか。とりあえず、ニューロニストが喜んでいたのは間違いない。少しは慰労になっていれば良いのだが。
だが、アインズの虚像修正という意味では全くうまくいかなかった。
拷問はさほど好きではないし、マニキュアは爪のない自分には縁の無いものだ。
その中から香水を選択したわけだが、まさか匂い袋を用意してくるとは思わなかった。
ニューロニストの方でも考えてくれていたということだ。拷問道具を用意されたりしていなくてよかった。
次回の面談の時にどうすればいいのかは現時点では思いつかない。
皆の面談を終わらせた暁にはきっと何か改善点が思い浮かぶに違いない。未来の自分に丸投げだ。
そうして「アインズ様の匂い袋」と呼ばれるようになったそれをもらうために皆がニューロニストの元へ押しかけることになった。
シャルティア―――
「アインズ様の匂いを身につけるのは当然のことでございんす」
「そ、そうか・・・」
コキュートス―――
「私モ『アインズ様ノ匂イ袋』ヲ身ニツケタカッタノデスガ、保存ノ魔法シカカケラレテイナイ為ニ身ニツケルト凍ッテシマウノデス」
「そ、そうか・・・対処法を考えよう」
アウラ―――
匂い袋を時々取り出しては見つめているらしい。
「えへへへ・・・」
マーレ―――
匂い袋はしおりにつけたり、枕元においたりして楽しんでいるらしい。
「えへへへ・・・」
デミウルゴス―――
「これを身につけるだけでアインズ様の叡智が手に入るべくもないのですが、頭が冴える気がするのです」
「そ、そうか・・・」
アルベド―――
「モモンガ様と同じ香をまといたい―――モモンガ様を愛する者であれば当然のことですわ」
「アルベド。その匂い袋も悪くはないが、私は元々お前がつけていた香水の方がお前らしくて良いと思うぞ」
「そ、そうですか。畏まりました。すぐにいつもの香水をつけて参ります、そう、今すぐに!」
「い、いや、それは後でよい。今すぐ変えろということではないのだ。まずは今日の仕事を片付けねばな」
「は。畏まりました。後で、ということでございますね?」
「ん?そうだな。香水をつけるのは明日で良いのではないか?」
「そうですか・・・畏まりました」
(なぜアルベドはちょっと落ち込んでるんだろうか。なんだか先ほどのアルベドはちょっと怖かったからな。また対応を間違えたのか?女心の勉強・・・ま、また今度だな)
最終的に紅蓮やガルガンチュアを除く全員が「アインズ様の匂い袋」を持つに至ったらしい。
一般メイドの一人に聞いてみると、その匂いを嗅ぐと癒やされるそうだ。皆の癒やしになっているようだ。
慰労をしたいという目的はある意味達成されたがそれはアインズによるものではなく、ニューロニストの働きによるものだ。
アインズによる慰労はまだまだだ。頑張らねば、と決意を新たにするのであった。
アインズ様が香水をつけない理由については私の独自設定です。
10巻でアインズ様が香水替わりにオーラを発揮とおっしゃっていたのですが、そのオーラが不死のオーラなのか、絶望のオーラなのかわかりませんけど、どっちにしろあんまりいい印象は与えそうにないですよね。黒の後光はともかくとして。
さて、次は誰との面談を書きましょうか。守護者は後って縛りが辛い。趣味が分かっていてある程度展開しやすい人ってなかなか・・・
タイトルはどうしたらいいでしょうか
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今のタイトルの(仮題)を外す
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一瞬だけ使用した「感謝と慰労」にする
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まだ(仮題)のままにしておく