アインズ様がNPCに感謝を伝えて慰労しようとする話(仮題)   作:冥﨑梓

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3.アインズと子供たち

アインズはあらためて玉座の間を見渡す。

NPC達の絶対の忠誠心に溢れた視線が一心に注がれている。

アインズが今から話す言葉によってこの視線の意味が変わってくるかもしれない。

緊張感が高まり――沈静される。

深呼吸のまねごとをする。

 

(本当はあと2ヶ月欲しかったけど、2ヶ月後に何が起きているかわからないからな。せっかくアルベドやNPC(子供)達が頑張って調整してくれたのだしな。賽は投げられた。覚悟を決めるんだ、アインズ・ウール・ゴウン!)

 

「さて、皆、忙しい中よく集まってくれた。アルベドもよく調整してくれた。皆、感謝する」

 

軽く頭を下げると動揺が広がる。それを手の平を掲げて鎮める。

 

「皆の気持ちは分かっている。お前達はナザリックと私の為に働くことは当然であり、感謝の必要は無いと思っている事も。だが、私は当たり前のことを当たり前にする事が如何に困難で有り難い事かをよく知っている。ゆえにお前達にはいつも感謝しているのだ。そしてこの私の気持ちを受け取ってもらいたい。それも忠義だと思ってもらいたいのだ」

 

(おお・・・)

 

声にならないどよめきが広がる。我らが王はなんと慈悲深くすばらしい方であることか。まさに希有な存在である。この方にお仕えできる我々は幸福である。

 

「以前に話したこともある者もいるが、私はお前達を創造してくれた仲間に深い感謝を抱いている。そしてお前達全員が健在であることにも感謝している。もちろんさきほども言ったが、お前達が私やナザリックのために働いてくれていることも本当に感謝している。本当にありがとう。心から感謝する」

 

玉座から立ち上がり、あの時のガゼフのように頭を下げる。さすがに皆と同じところまで降りる事はできなかった。

こらえきれなかった者達から涙が溢れ、嗚咽が漏れる。

十分に間をあけてから頭を上げ、玉座に座る。

 

(これで感謝の気持ちは伝わった、と考えていいんだよな?なんとか「ありがとう」って言葉を言えたな。やはり「感謝する」とか「ご苦労」ではどうも落ち着かないしな。さて次だ。がんばれ、俺)

 

「私の気持ちを受け取ってもらえたこと、感謝する。私は創造した側、お前達は創造された側という立場の違いはあるが、しかし私にとってお前達は仲間が創り残した子供のようなもの。私にとっても子供のように思っている。何度も言うが、私はお前達皆を愛しているのだ。

今、皆は世界征服に向けて動いてくれているが、これは手段であって目的ではないという事を理解してもらいたい。私の目的は私とお前達が永遠に幸福であり続けることだ。世界征服が成ってもお前達が損なわれては本末転倒だ。最も大切なものはお前達である。ゆえに必要であれば私は喜んで世界征服を取りやめよう。このことを心に留めおいて欲しい」

 

玉座の間は号泣する者、泣き崩れる者であふれた。

涙を流す機能の無い者もなんらかの方法でその感動を表している。

なんという、なんという慈悲深いお言葉であることか!

我々のために世界征服をやめることも厭わないという。

元々溢れんばかりであった絶対の忠誠心が天元突破しさらにぐんぐん上昇していき、どこまで上昇するかわからないほどだ。

 

その中にあって眼鏡を外し涙をぬぐったデミウルゴスが手を上げて発言を求める。

 

「僭越ながらアインズ様、一つお伺いしてもよろしいでしょうか」

「構わない」

「感謝致します。アインズ様は先ほど世界征服は手段であって目的ではないとおっしゃられました。今進行中の計画も修正した方がよろしいでしょうか」

「それには及ばない。デミウルゴスはじめ皆私が言葉にせずとも私の気持ち、目的を分かって行動してくれていたのではないか?ただ、今後の状況によっては世界征服を取りやめる必要がある可能性もある。その場合でも私はお前達を責めたりはしない。安心して目的のために行動してくれ」

「畏まりました。愚かな質問にお答え下さりありがとうございます」

「何を言うのだ。お前の質問が愚かな物であるはずがないだろう。全ては私の言葉が足りないことが原因だ。すまないな」

「何をおっしゃるのですか!アインズ様のお言葉をすぐに察することの出来ない愚かな私どもをお許しください」

「デミウルゴス。良いか、お前はウルベルトさんがナザリック最高の智者として創ったのだ。もっと己に自信を持て。お前自身とウルベルトさんを信じるのだ。

アルベドやパンドラズ・アクターもそうだが、お前達3人は我々を超える智者として創られたのだ。ゆえにお前達の頭脳が私を超えているのは確かだ。もし私の方が優れているように思えるとしたら、それは経験の差ゆえだ。

私はお前達が愚かと感じる多くの者達と長い時間接してきた。それゆえにわかることもあるのだ。お前達も経験を積めば私を軽く超えるのは容易だ」

「ありがとうございます。アインズ様のご期待に応えられるようさらなる研鑽を積みたいと思います」

「うむ」

 

(あ~焦った。デミウルゴスが何を言うかと思った。なんとか応えられたかな?これでちょっとは自分たちの方が賢いって思ってくれたらいいんだけど)

 

「さて、今日お前達に集まってもらったのは、お前達に私の感謝を伝えることと、そしてその労苦をいたわる為に褒美を与えたいと思ったのだが、残念ながら私はお前達に喜んでもらえるものが思いつけなかった。至らぬ主人ですまない」

「何をおっしゃるのですか!」

「そうですよアインズ様!先ほどのお言葉だけで十分です!」

「そうでありんす!ご褒美は十分いただいておりんす!」

「そういうな。私としてはお前達の働きに十分報いられているとは思えないのだ。そこでよりお前達の事を理解するために、今後お前達全員と一対一の面談を行いたい」

「一対一の面談、でございますか」

「そうだ。堅苦しく考える事はない。お前達一人一人のことをもっと深く理解するためにじっくりと話をしてみたいのだ。そのために基本的にはナザリックの私の部屋で行う。完全に一対一とする為に人払いをし、心置きなく話してもらうために盗聴や覗き見は禁止だ。私との面談の内容を聞き出そうとする事も禁止とする。ただし、本人が自発的に話す事までは止めない。私の部屋に来る事が難しい者には私の方からその者の所まで出向く事とする。今日ここに来られなかった者達には私の方から話しておく」

「アインズ様がわざわざそのような事をなされずとも、統括たる私が致しますが」

「それには及ばない。私は感謝を伝えたいのだ。それは直接行うべきだろう」

「畏まりました」

「面談に当たって、簡単なレポートを提出してもらう。そんなに難しい事ではない。私に関する事以外で、幸せだと感じたこと、ものについて書いてもらいたい。また、休日や休憩時間をどのように過ごしているかも書いてもらおう。面談ではそれを元に話をしようと思う」

「アインズ様ニ関スル事以外トハドウシテナノデショウカ」

「ふむ。お前達が私に仕える事に幸せを感じている事は知っているが、私はそうではなく、もっと個人的な幸せに感じることを知りたいのだ。たとえば美味しいものを食べたとか、面白い本を読んだとか、そういったことだ」

「畏マリマシタ」

「あ、あの」

「どうした、マーレ」

「その、レポートはいつまでに書けばいいでしょうか?そ、それと、どなたに、その、お持ちすれば・・・」

「それをまだ伝えていなかったな、ありがとう、マーレ」

「そ、そんな・・・」

「いつまで・・・そうだな、1ヶ月とするか。レポートは封をし、直接私に渡してくれても構わないが、基本的にはアルベド、頼めるか?」

「は。畏まりました」

「先に提出した者から面談を始めるということはない。皆と私の都合もあるのでな。ゆえに急いで書く必要はない。じっくりと考えて書いてくれ。もし1ヶ月考えても幸せと感じたことが思いつかない場合は正直にそのように書いて良い。ただし、すぐにありませんと書いてはならぬ。1ヶ月しっかり幸せについて考えるのだ。よいな?」

「はっ」

「他に質問はあるか?」

「―――ないようでございます」

 

代表としてアルベドが全員を見渡し答える。

 

「よし。もし後で何か疑問を感じた場合は遠慮無く私に直接もしくはアルベドを通して質問するように」

「畏まりました」

「最後に、私の呼び名についてだが・・・私が改名したのは2つの理由があった。

一つはこの『アインズ・ウール・ゴウン』という名前を広める事によって、仲間がこの世界に転移してきた時にすぐに戻ってこられるように目印とする、という事。もう一つは最後まで残った者としてお前達皆を守る責任を負う者としての覚悟の意味があった。

一つ目に関してはお前達の働きにより私自身が名乗らずとも『アインズ・ウール・ゴウン魔導国』という名前が広まる事によって目的は達成されるであろう。故にこのナザリックにおいて私がこの名前を使い続ける事には私の個人的な想い以外には理由がないことになる。よってもし個人的に私を以前の名『モモンガ』で呼びたい者がいれば内輪においては許可する。私の話は以上だ」

「はっ。アインズ様のお言葉、承りました。」

「では私はナザリックの自室に戻るが、お前達は滅多に会えない者と交流を深めるのも良いだろう。時間の許す限りこの場を使用することを許可する」

「ご厚情を賜り厚く御礼を申し上げます」

「ではな」

 

指輪を使って転移する。

転移先はソロモンの小さな鍵(レメゲトン)だ。

自室に戻ってもいいのだが、自室には八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)達がいる。

ほんの少し一息を入れるには人目のない方が良い。ここならばいるのはゴーレムとモンスターのみ。

本格的な反省は自室のベッドで行うにしてもワンクッションを置きたかったのだ。

その時――うぉんという感じで分厚い扉の向こうからどよめきだろうか、何か聞こえた。

玉座の間で何が起こっているのかを知りたい所だが、扉一つ隔てただけの所にとどまるのも見つかった場合を考えると恥ずかしい。後ろ髪を引かれる思いで――むろんアインズに頭髪はないが――アインズは指輪を起動させた。




1.でアインズさんが思いついたのがこの方法なのですが、果たしてうまくいくのか。
このアインズ様のお話でデミウルゴスの深読みは炸裂するのか?
デミウルゴス好きですが難しいです。

タイトルはどうしたらいいでしょうか

  • 今のタイトルの(仮題)を外す
  • 一瞬だけ使用した「感謝と慰労」にする
  • まだ(仮題)のままにしておく

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