新型コロナウイルスを中心に、感染症対策について国内外の専門家が話し合う「第7回日経・FT感染症会議」(主催・日本経済新聞社、共催・英フィナンシャル・タイムズ)の2日目が7日、横浜市で始まった。同日午前に開かれた討論会では、治療薬やワクチンの開発や承認に関わる専門家らが集まり、新型コロナ対応を振り返った。迅速な研究開発や承認、普及のための体制作りが急務との指摘が相次いだ。
冬を目前に欧州などで感染者が増加する中、ワクチンは新型コロナを克服する切り札だ、先行する英アストラゼネカの臨床試験について、動画出演したオックスフォード大学教授のジョン・ベル氏は「21年初めの実用化目標にむけ、そう遠くないうちに評価が出せるだろう」との見方を示した。
一方で、国内の開発状況には厳しい意見が相次いだ。討論会のモデレーターを務めた医薬基盤・健康・栄養研究所霊長類医科学研究センター長の保富康宏氏は「日本のワクチン開発は遅かった」と指摘。医薬品医療機器総合機構理事長の藤原康弘氏は「大規模な臨床試験をできない日本の弱点が新型コロナで明らかになった」と振り返った。
日本企業もワクチン開発を進めているが、海外製が先行して国内で使われる可能性が高い。今後の影響について日本ワクチン産業協会理事長の今川昌之氏は「ファイザーやアストラゼネカなど海外のワクチンが日本で使われれば、国内企業の進める治験にはいい影響はでないだろう」との懸念を示した。今川氏は「平時の対応は緊急時の対応につながる」とし、危機管理の一環として国内でワクチン開発を進める体制を確保する必要性を訴えた。
国内では研究開発だけでなく、全国の感染者の経過を軽症者も含めて大規模に追跡する仕組みも不足し、実態把握が遅れた。政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会会長を務める尾身茂氏も、対策を進言する上で新しい知見が集まりにくい日本の状況が「最大のフラストレーションだった」と振り返った。医療現場から距離をおいた専門家などのグループが研究のプロトコルを組み、全ての医療機関に研究参加を呼びかけられる体制構築が必要だと訴えた。
ワクチン開発が成功した場合、どのように各国に行き渡らせるかも問題になる。動画出演した官民連携団体Gavi(ワクチンと予防接種のための世界同盟)最高経営責任者(CEO)のセス・バークレー氏は「ワクチン開発の大部分は成功しない。裕福な国でもワクチンが入手できる保証はない」とした上で、ワクチン分配の国際的な枠組みの重要性を訴えた。
治療薬や検査薬などの開発状況も議題に挙がった。世界保健機関(WHO)などは安全性が確認されている既存薬の臨床試験を進めてきたが、レムデシビルやヒドロキシクロロキンなど、複数の薬で入院患者に対しては効果が乏しいとの報告が相次いだ。これを受けてWHOシニアアドバイザーの進藤奈邦子氏は「これから新規で開発されてくる薬への期待が高まっている」との認識を示した。