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COVID-19の重症化を予測する液性因子の同定
-血液検査によるCOVID-19の重症化の早期診断をめざして-

2020年9月24日
国立研究開発法人 国立国際医療研究センター

発表者

  • 杉山真也(国立国際医療研究センター 研究所 ゲノム医科学プロジェクト 副プロジェクト長)
  • 木下典子(国立国際医療研究センター病院 国際感染症センター医師)
  • 大曲貴夫(国立国際医療研究センター病院 国際感染症センター長)
  • 溝上雅史(国立国際医療研究センター 研究所 ゲノム医科学プロジェクト プロジェクト長)

発表のポイント

  • COVID-19の重症・重篤化へ至る患者は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染した初期から、血液中のCCL17※1濃度が基準値以下になることがわかりました。
  • 重症・重篤化する患者は、その重症化の数日前に、インターフェロンラムダ3(IFN-λ3※2)、CXCL9※3、IP-10※4、IL-6※5が高値を示すことが明らかになりました。
  • 感染初期にCCL17値で重症・重篤化しうる患者を囲い込み、その後の重症化発症のタイミングをIFN-λ3、CXCL9、IP-10、IL-6で検出することで的確な治療を施しうると考えられます。

発表概要

COVID-19は、SARS-CoV-2に感染することで発症しますが、その病態は約8割が軽症とされており、約2割は重症化するとされています。軽症の患者はそのまま回復しますが、重症となる患者は、感染後すぐに重症化するよりも、軽症から急激に重症化するという経過をとることが知られています。つまり、重症・重篤化するヒトは、初期の症状が軽症者と同じであるため、COVID-19初期では、重症化するヒトと、しないヒトを区別することが困難でした。そのため、有症状者をホテル等への隔離をすることで感染拡大防止をしつつ、日々の観察で経過を慎重に診る必要がありました。

国立国際医療研究センター研究所 ゲノム医科学プロジェクトの杉山真也 副プロジェクト長、センター病院国際感染症センター 木下典子医師、国際感染症センター 大曲貴夫 センター長、研究所ゲノム医科学プロジェクト溝上雅史 プロジェクト長の研究グループは、COVID-19患者の血液を経時的に収集し、病態の経過に沿った形で血中の液性因子の網羅的解析を行いました。その結果、COVID-19で重症化するヒトは、SARS-CoV-2に感染した初期から、血液中のCCL17の濃度が基準値よりも低いことを発見しました。また、IFN-λ3、CXCL9、IP-10、IL-6は、重症となる数日前から血液中で急激に高い値を示すことがわかりました。

これらのことから、COVID-19患者の感染初期には、CCL17を測定することで、将来の重症化予備群を囲い込むことが可能であると考えられ、その集団に対して、さらにIFN-λ3、CXCL9、IP-10、IL-6を測定することで、重症化発症のタイミングを事前に察知することができ、適切な治療を施すことが可能であると考えられました。また、これらの検査は血液検査として実施可能で、侵襲性が低く、簡便かつ迅速に結果が得られるため、臨床の現場で利用しやすい検査マーカーとなりえます。
本研究成果は、日本時間2020年9月14日、Gene(オンライン版)にonline in pressされました。

本研究は、日本医療研究開発機構(AMED) 新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業「COVID-19の予後予測因子の開発とその臨床応用に向けた研究(代表:杉山真也)」による支援を受けて行われました。

発表内容

  1. 研究の背景
    2019年末より、SARS-CoV-2の感染が世界的に拡大しており、COVID-19患者が爆発的に増加し、その診断や治療に各国が苦慮しているところです。2020年8月末現在では、国内での感染は一旦落ち着きつつありますが、世界的には継続的に新規感染者が毎日20万人を超え、死亡者が5千人前後発生しています。
    これまでのところ、COVID-19患者の約8割が軽症のまま回復し、残りの約2割が重症もしくは重篤化することがわかっています。特に、重症・重篤化する患者では、感染初期は、軽症と見られる症状で、そこから急激な悪化が見られ、酸素吸入や人工呼吸器(もしくはECMO)が必要な状態へ移行するという特徴な臨床経過があります。
    現在のところ、この重症・重篤化する患者を予測する有効な手段がないので、COVID-19患者の全員を隔離もしくは入院させるなどして症状の経過を観察する必要があります。患者が爆発的に増加するステージおいては、医療資源が圧迫される原因となり、医療崩壊が危惧される状態になりえます。
    COVID-19患者のほとんどは軽症で収束するので、重症・重篤化を事前に予測できる診断マーカーがあれば、比較的割合の少ない重症・重篤予備群に注力した経過観察が可能となり、限られた医療資源の有効活用が可能となるといえます。また、診断の迅速性を考えると血液等を使った臨床検査で短時間での結果判定が望ましいといえます。
    本研究では、COVID-19患者から得られた経時的な採血検体(血清)を用いて、COVID-19患者の予後予測が可能となる分子マーカーの探索を進めました。軽症化と重症・重篤化の事前の予測が可能となれば、医療資源の適切な分配が可能となり、集中的な治療を必要とする患者に最大限に注力することができ、救命することにつながるといえます。
  2. 研究の内容
    まず、28名のCOVID-19患者の血清を使い、液性因子の網羅的解析を実施しました。各患者で3ポイント以上の採血がある方を選び、病態の経過に沿った液性因子の変化を追いました。その結果、軽症回復者と重症化患者を分けることが可能な因子として、CCL17、IFN-λ3、CXCL9、IP-10、IL-6を同定しました。これらの因子は、その病態の経過に合わせた特徴から2つに分けられることがわかりました。まずCCL17は、COVID-19感染初期から軽症者と将来の重症者の間で、血液中の濃度に差が認められました。具体的には、将来の重症者では、感染初期の軽症時から基準値よりも低い値を示し、そのまま重症化まで低い値が続きました。一方で、軽症者は健常人とほぼ同じ値を取ることがわかりました。残りの4因子は、感染初期では軽症者と将来の重症者に違いはないものの、重症化した患者では、その重症化が認められる数日前に急激に血液中の値が上昇することがわかりました。
    続いて、これらの5因子がCOVID-19重症化に特異的なものかを、他の疾患群から得られた血液で確認しました。使用した疾患群は、C型慢性肝炎、児童精神疾患、2型糖尿病、慢性腎不全、慢性心不全、間質性肺炎、関節リウマチです。その結果、CCL17が低い値を取るのは、COVID-19重症化のみでした。IFN-λ3は、C型慢性肝炎で一部高い値を示しましたが、COVID-19重症化患者で統計的に有意に高い値を示しました。CXCL9とIP-10は、COVID-19重症者で特徴的に高い値を示しました。IL-6は関節リウマチで高い値を示すことがありましたが、COVID-19重症者で統計的に有意に高い値を示しました。
    これらのことから、上記5因子はCOVID-19重症化患者を早期に発見し、囲い込むことに有用である可能性が示されました。

社会的意義・今後の予定

これらの結果は、5因子を適切なタイミングで測定することで、COVID-19重症化患者を早期に発見し、治療することが可能となりえます。今後、実臨床での有用性が示されれば、軽症患者と重症患者を適切に入院やホテル待機の可否を判断でき、医療資源の適切な配分が出来るようになると考えられます。
今後は、国内で多施設共同での前向き試験の準備を進めています。賛同を得られた共同研究施設と協力して、今回の5因子の実臨床での真の有効性について検証を行います。

COVID-19の重症化を予測する液性因子の同定

用語解説

※1:CCL17
特定の細胞を呼び寄せる作用を持つケモカインの一種です。喘息やアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患の場合にこの値が高くなることが知られています。

※2:IFN-λ3(インターフェロンラムダ3)
ウイルスに感染した際に、それに対抗するために細胞が産生する分子です。インターフェロンには、複数の種類がありますが、ラムダ3はそのうちの1つです。

※3:CXCL9
特定の細胞を活性化させるケモカインの一種です。CXCL9は、特にTh1細胞の活性化を誘導することで細胞性免疫を誘導することが知られています。

※4:IP-10
インターフェロンの刺激を受けた細胞が産生する分子で、主にTh1細胞やNK細胞を呼び寄せる作用を持つケモカインの一種です。

※5:IL-6
炎症を伴うような様々な疾患で高値を示す分子です。炎症部位の細胞から産生され、各種免疫反応を媒介しており、主に抗体の産生を誘導するとされています。

研究に関するお問い合わせ先

国立国際医療研究センター 研究所
ゲノム医科学プロジェクト 副プロジェクト長
杉山 真也
TEL:047-372-3501
E-mail:msugiyama@hosp.ncgm.go.jp

取材に関するお問合せ先

国立国際医療研究センター 企画戦略局 広報企画室
広報係長:西澤 樹生(にしざわ たつき)
電話:03-3202-7181(代表) <9:00~17:00>
E-mail:press@hosp.ncgm.go.jp