イネ墨黒穂による玄米汚損軽減のための収穫・乾燥・調整作業

イネ墨黒穂病被害籾は、コンバイン収穫を籾が乾いた条件で行うとほ場発生被害籾の2割、籾すり前に風選作業を行うことで2割程度が除去されます。インペラ式籾すり機の使用は、イネ墨黒穂病による玄米汚損をロール式籾すり機の2~3割に軽減されます。

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イネ墨黒穂病の病原はティレティア・バクラヤナで、発病すると玄米内部に厚壁胞子を形成し、形成部位が黒く見える被害籾が発生します。
この被害籾が混入した状態で籾すりを行うと、健全な玄米に胞子が付着し汚損されます。

墨黒穂病はイネの穂だけに発生し、発病した籾では多数の厚壁胞子が作られます。
厚壁胞子はほ場に落下し、越冬して翌年の伝染源になる。厚壁胞子は発芽して「柄」の先に、針状の1次小生子を作ります。
さらに、この小生子が発芽して2次小生子を作ります。
これらの小生子が飛散して開花期頃の穂に感染します。
成熟期頃に発病が認められますが、ほ場では見つけにくいです。

農産物の被害粒等の取扱要領で、「イネ墨黒穂病等の損傷を受けていることが確認されたものについては規格外とする」と定められています。

墨黒穂病による損傷は、籾すり時に被害籾が砕け、籾内部に形成された厚壁胞子が一緒に籾すりされた健全籾由来の玄米に付着することにより生じます(図左)。
 また、軽度の被害籾は粒厚選別でも除去できない粒厚となり、玄米の一部に厚壁胞子を形成した状態(図右)で精玄米に混入し、規格外の原因となることがあります。

新潟県では、2008年に882tの規格外米が発生しました。
その後被害が集中する「わたぼうし」を中心に防除対策が行われていますが、毎年多くの規格外米が発生しています。

玄米の汚損は籾すり時に生じるため、ほ場で発病しても籾すり前までに被害籾を除去すれば、玄米汚損が軽減できます。
そこで、風選による選別が可能か判断するため,被害籾と粗籾の終端速度別の頻度分布を調査しました。
被害籾と粗籾における終端速度の分布は異なり、この違いを利用して被害籾を風選で除去できると考えられました。
(終端速度は、下から垂直方向に風が吹く風洞中で、籾が浮き上がり始める速度を測定した。)

コンバインの風選機能を利用した収穫時の被害籾除去について検討しました。
墨黒穂病の被害籾は、コンバイン収穫時にコンバインの選別機能でわらくずやしいなと一緒に排出され、籾が十分成熟した後にできる限り乾いた条件(籾水分24%程度)で収穫すると、被害籾の約2割が除去できます。
籾水分28%以上の高水分時には籾水分による除去率の変化はなく被害籾の除去率は約1割となります。

乾燥調製段階で使用できる風選の専用機はないため、ロール式籾すり機内のとうみを利用した被害籾の除去について検討しました。
被害籾混入割合の異なる乾燥後の粗籾を、籾すり機のロール開度を全開(非常時用など)にして籾すりせずに籾を通過させ、内部のとうみで選別しました。

歩留まりの低下は1%未満で収量への影響は無く(図左)、被害籾の2割程度が除去されました(図右)。

籾すり機をとうみとして使う場合、ロールを全開とするため籾すりは行われず、籾すり作業が別途必要となります。
そのため、通常の籾すり工程とは異なり、風選後の籾を乾燥機などに貯留し、改めて籾すり作業を行います。

籾すり前の被害籾混入割合が多くなるほど、ロール式、インペラ式籾すり機ともに精玄米への胞子付着数(=玄米汚損)が多くなります。
インペラ式はロール式に比べ玄米汚損が少なく、胞子付着数が1/3~1/5に軽減されます。

被害玄米の混入には籾すり方式による差はありません。
籾すり前の被害籾混入割合が高いと、胞子付着の少ないインペラ式でも、発病玄米の混入により規格外となる可能性があります。
したがって、インペラ式籾すり機を使用する場合でも、被害籾の混入割合を低く抑える必要があります。

ロール式籾すり機では、作業開始からの時間の経過とともに玄米への胞子付着数が多くなります。
インペラ式では、時間経過に伴う変化は少ないです。
ロール式では徐々に籾すり部のロールなどに厚壁胞子が付着・蓄積します、インペラ式では籾すり部に通風しながら作業を行うことに加え、籾すり部分の構造が比較的シンプルで、胞子が蓄積しにくいため、このような違いが生じたと推定されます。

籾すり機の2番口から排出される籾・玄米等は、籾すり前の粗籾に比べ、被害籾や発病玄米が多く含まれます。
再度籾すりすると玄米汚損の原因となるため、廃棄します。

今回説明した収穫以降の対策も、ほ場での発病が多すぎると十分に玄米汚損を軽減できない可能性があります。
そのため、耕種的防除、薬剤防除などを実施し、ほ場での発病を抑制しておく必要があります。