バイデン氏が勝利 米国の再生が託された

2020年11月10日 07時12分
 トランプ氏が破壊した米国の良さを修復し、輝きを取り戻してほしい。大統領選を制したバイデン前副大統領の課題は、米国の再生である。
 大統領選は四年間のトランプ政治への信任投票だった。有権者はバイデン氏を支持したというよりは、トランプ大統領にノーを突きつけた。新型コロナウイルス対策の失敗が主たる敗因である。

◆対決から対話の政治へ

 しかし、負けを認めないトランプ氏は法廷闘争に持ち込み、徹底抗戦の構えもみせる。
 この事態にも象徴されるような物情騒然とした中での選挙だった。デモと暴動、投票妨害、はては過激派による州知事拉致未遂事件−。社会不安を高じさせる事件や出来事が続発した。
 そんな殺伐とした風景の底には、南北戦争以来の状態とすらいわれる社会分断が横たわる。その責任の多くはトランプ氏にある。憎悪と対立、偏見をあおり国民統合を壊した。
 民主党やエリート、移民−。敵と見なす者を攻撃してつぶそうとするのがトランプ氏の流儀だ。顔を向けるのは自分の支持者だけ。万人の大統領になる気は端(はな)からなかった。
 一方、バイデン氏は勝利宣言で「私に投票しなかった人のためにも懸命に働く」と表明した。その決意を忘れず、トランプ支持層にも手を差し伸べてほしい。
 米社会は傷つき、ささくれ立っている。バイデン氏も「米国に癒やしをもたらす時だ」と強調した。トランプ流のとげとげしい対決の政治から、対話の政治へ転換してほしい。
 それに社会分断は米国の弱点である。そこを突いてくる勢力が国内外で出てくるだろう。
 喫緊の課題は感染者が約一千万人を数えるコロナ禍の克服である。沈静化させないと経済再建の道筋も描けない。
 コロナ禍は格差社会の歪(ゆが)みも浮き彫りにした。低所得者が多い黒人やヒスパニック(中南米系)が満足な医療を受けられなかったり、現業部門の労働者が多くて在宅勤務もできない。
 連邦準備制度のデータでは、全米上位1%の最富裕層が全世帯の総資産の30%を占める。これは下位半分が保有する全資産の十五倍に相当する。
 気が遠くなるような貧富の格差は、米資本主義のひずみだ。社会の平等性や公正性を損ねる。人々の不満が爆発すれば社会不安が高じる。民主党のリベラル派は格差問題を重視している。バイデン氏は格差問題に率先して切り込んでほしい。

◆民主主義の立て直しを

 社会分断に加え、米国の民主主義も損なわれた。トランプ氏は周辺をイエスマンで固めた。暴走を止めるべき議会の共和党も、党支持層内の圧倒的なトランプ人気に恐れをなして沈黙状態だった。
 チェック機能の低下が民主政治の劣化を招くことは、日本を含めた民主国家への教訓である。
 世界では権威主義が幅を利かせている。これに対処するためにもバイデン氏はむしばまれた民主主義を修復する責任を負っている。
 米国が主導した戦後の世界秩序。トランプ氏の破壊はここにも及んだ。「米国第一主義」と言いながら、実際は国益を損ない、米国の財産である他国との同盟関係を害した。
 首尾一貫性に欠け、気まぐれで目先の損得にこだわったトランプ外交は、米国の国際的な信用を失墜させた。
 オバマ前政権が成し遂げた気候変動に関するパリ協定や環太平洋連携協定(TPP)から脱退し、イラン核合意からも離脱した。
 民主党支持層は気候変動問題への関心が高い。バイデン氏もパリ協定復帰を公約している。期待したい。
 バイデン氏は米外交専門誌への寄稿で、米国の名声と信頼を取り戻し、米国主導の世界の再建に取り組むとした。同盟関係の修復にも意欲的だ。
 米国が国際舞台の中央に復帰することは歓迎できる。だが、米国が国際秩序維持のためにかつてのような指導力を発揮することは期待できない。内向きになった米世論は国際問題へ積極的に関与していくことを許さないだろう。

◆重くなる同盟国の役割

 その分、米国は同盟国・友好国に役割を肩代わりさせるのは間違いない。
 実際、バイデン氏は寄稿で、気候変動や感染症などの「新たな課題に素早く対処するために同盟諸国を動員する」と表明した。日本をはじめ同盟国は相応の負担を覚悟しなくてはなるまい。
 バイデン氏の言動からは自分も政権に参画したオバマ時代へのノスタルジーが漂う。それでも時は歩みをやめない。過去には戻れない。前を向いて進んでほしい。

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