明王寺「風の郵便ポスト」(静岡市葵区) 亡くなった人に思い
2020年10月22日 10時39分 (10月22日 11時19分更新)
静岡市葵区竜南にある明王寺。境内に不釣り合いな郵便ポストがある。名前は「風の郵便ポスト」。もう会えない大切な人や、ご先祖様に手紙をしたため、思いを伝える。
設置したのは住職の宗栄(そうえい)さん(57)。広島県で会社員として働いていたが、前住職の父親が亡くなり、二〇一七年秋から住職に。「お参りする人の姿を目にするうちに気付くことがあった」と話す。
足洗不動尊を祭る不動堂の前で、涙を流しながら懸命にお参りする人。墓石をさすり、何かを呼び掛けている人。「亡くなった人や仏様に、自分の気持ちを吐露したい思いがあるのでは」と考えたという。「思いをしたためた紙を手紙と捉えて、お焚(た)き上げで供養することで配達できるのではないか」。一七年暮れに簡易なポストを設置した。
東日本大震災後に岩手県大槌町に設置された、大切な人に思いを伝える「風の電話」の存在は知っていたが、命名の理由は知らず、自然と「風の」という言葉が浮かんだ。
「印象的な言葉だと思った」と振り返る。人の手でなく、風に乗せて手紙を届ける。風に逆らうのではなく、風に吹かれるように積もり積もった気持ちをしたためる。そんな思いを込めた。
これまでに約三十通が投函(とうかん)され、お焚き上げも十八回を数えた。中身は読まないが、「亡くなった旦那に元気でやっているよと伝えた」と話してくれた檀家(だんか)の人も。宛名の筆跡が子どもの手紙もあった。
「敷居の高いお寺を、地域の人が、生活の中で必要とする存在にしたい」。風の郵便ポストを「第一歩」と捉え、「喜びも、悲しみも、苦しみもひっくるめて、自分の心に素直に生きていける一つのきっかけになれば」と話す。(高橋貴仁)
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