そろそろ寒い時期になってきました。11月は紅茶の日と言われるイベントも各地で多いので是非一度お試しください。
『東方見聞録』 一度は聞いたことがある人はいるのではないだろうか。
あいにく歴史には詳しくないためあまり知らないが、アジアを旅した者の旅行記と聞いた事はある。なるほど、いわばシルクロードをイメージされて作られた紅茶かもしれない。自身が住んでいた日本もアジアに属していたが……海外旅行などは当然行った事も無いので全くイメージなどつかない。しかしながら旅行記とはとどのつまり冒険だ。未知を探求して何かを探し求めて旅をしていたのだろう。
思えばこの世界で冒険らしい冒険はあまりしていない、ドワーフの国に行った時位だろうか。しかしその分冒険者を『発見者』*1という形でサポートしている。特に以前、虹のモックナック達から考案されたハーブティはポーションとの相乗効果も十分に可能性があるとンフィーレヤが興奮した様子で語っていた。確かどこかのパーティに試験的に持たせたデータがあったと思ったが……ど忘れしてしまった……あとでまた書類を見返そう。
そう考えるとこの紅茶の過程やいきさつに興味が沸かないでもない。ただそれも
……こんなふとした事から自分自身について考え直すなど思ってもいなかった。そう自身……ん?
「如何なされたでしょうか、アインズ様」
リュミエールがいつの間にか立ち上がりこちらの様子を伺う。デクリメントは飲み終わった茶の片づけをしていた。――もうそんな時間が経っていたか。
不安そうな表情がますます強くなるリュミエール、護衛の八肢刀の暗殺蟲も雰囲気が変わり緊張感を持つ。
「いや……ちょっとそうだな、思い浮かぶ事があっただけだ。しばらくそのまま楽にしていろ」
そうアインズが命令を下し、部屋をゆっくりと歩く。
整理をしよう、今自分が悩んでいる事は何か?あのドライアドへの対応だ。軍勢を出し潰すのは容易い、だがそもそも自分があの場で敵対しなかったのは相手の行動に違和感を感じたためだ。何故違和感を感じたのか、あの場で無意味な挑発を行われたからだ。レベル100だから賢いという決まりは全く無いが愚か者ではない、と何となく直感はある。
では愚か者ではないNPCが何故こちらを挑発をしたか?攻撃させるため?カウンタータイプのスキルでもあったのか。……それも盾となるシモベがいれば問題ない、世界級アイテム以外でアインズが一撃で倒されるなど考えにくい。……攻撃の意思ではない?死ぬことが目的だったとでもいうのだろうか。確かに過去の情報を辿ると主を失ったNPCは暴走傾向にある事は間違いない。穏やかに生きているNPCが非常にレアなのだ。
「それだ!」
思わず叫んでしまいリュミエール、八肢刀の暗殺蟲のみならずデクリメントも慌てた様子で駆け寄ってくる。
何でも無いと手を振りシモベらを落ち着けさせる。……今の考えは恐らく鍵だ。穏やかなNPC、主人を失った状態で。従属神という言葉が残っているように過去のNPCも主人への忠誠心は篤かったと推測できる。問題はその理由、時間が経って落ち着くようになった?無くもない、時間が解決してくれるという言葉もあるのだから。だがやはりこれも同様の問題にぶち当たる。どうやって最も不安定な時期を乗り越えたかだ。ナザリックのシモベらを見ていると自分が死んだ後に殉死する者が出ても全くおかしくない。それは友人の子を預かっているアインズには到底我慢できない。
いくつもの案を考えるがどれも説得力に欠ける。こういう場合はいつもどうしていたか?簡単だ。調べて自分で考えて分からないのならばわかるものに聞けばいい。
「リュミエール、デクリメント」
『はい、アインズ様』
傍に控えていた二人がすぐに応える。こちらの考えを邪魔しないようにしていたがいつでも主人のために何かできないかと待機していたようだ。さっきまで自分が死んだらNPCがどうとか考えていた自分が少し情けなく思う。どうあれナザリックのNPCがやりたい事とは造物主に、ナザリックの主人に仕えたい事に他ならない。それをどうするか、考えるかは本人たちの問題だ。今は無理かもしれないが……いつかはそれぞれの生き方も見つけてほしいものだ。
「二人に質問がある、不快な事だが正直に答えてもらいたい」
畏まりました、勿論ですと返答が来て今からする質問が実に億劫に感じる。
「私が死んだ……そう、何者かの手によって滅ぼされたとしよう。その際にお前たちはどうする?」
「あってはならない事です。すぐにアルベド様、各階層守護者の方に報告しアインズ様の復活へと行動致します」
「許されない大罪です。私如きが門外漢の戦闘について語る事は許されませんが……その者のみならず一族郎党を凌遅刑にするべきでしょう」
……リュミエールの答えは予想に近かったがデクリメントは思ったよりも過激だった。凌遅刑とかどこで知ったんだよ……タブラさんか死獣天朱雀さんあたりも知っていたかもしれないが。まぁ表現はどうあれNPC達はアインズを害したものを許したりは決してしないだろう。それを言葉にするかしないか程度の差でしかない。しかし……復活、そう復活か。
「ふむ……そうか、ありがとう。実に参考になった」
滅相もございませんと頭を下げた二人を下がらせる。
なるほどいつの間にか自分の考えは少し凝り固まっていたようだ。確かにシャルティアの例を見るにNPCに関してはユグドラシル金貨さえあれば復活することはできるだろう。しかしアインズは?……残念だが過去のぷれいやーが表立って存在していない事を見るに復活は出来ない。もしくはレベルダウンを考慮するならば回数は有限で、というのが希望的な考えだろう。だがNPC達は理解しながらも目を背けている事がある、
恐らく過去のNPCも主人を復活させようとして失敗し、狂っていったのだろう。……少し考えが逸れた。針路を修正し改めて考える。ではその例に従って例のドライアドも狂ったとしよう。どうして戻れた?どうやって正気に戻れた?もしくは。
空っぽな頭蓋に電撃が走る。そうかそういうことかそれならば納得がいく。ドライアドは恐らく今でも正気なのだろう、NPCとしては正常だ。
「……この世に神がいるとするならば何と歪な形で願いを叶える事か」
思わずそうぼやいてしまう。あのクソ運営も大概だったがこれを狙ってやったというのならばあまりにも趣味が悪い。ひとまずこの案は自分の中でもう少し整理しておくとしよう、問題はその先だ。
先ほどから堂々巡りをしてしまっている気がするが結局のところただのこれに過ぎない。
ふむ、いやしかし会社員か。確かに考え方としては悪くない。スケールが大きすぎるから訳が分からなくなりすぎるのだ。魔導国の指針を決めた時と同じだ、自分が一人の会社、そこでただ一人の営業マンであることをイメージすればいい。相手はなかなか心を開かない顧客。しかし重要な情報を持っているかもしれない。何としてでも切欠を掴みたい、そんな状況だ。
「魔導国の素敵な統治」そういった商品を売り出す時にまず考えたのは誰が必要としているかだった。その一環として冒険者組合を取り込み冒険者からすれば非常に魅力的な条件をあの時は提供できた、いや出来ている。あれも最初はぼんやりとしたアイディアに過ぎなかった、まずはあの統治が誰が必要としているかという情報を冒険者組合で得ようとして行ってみたらあれこれはと思いプレゼンが上手くいったに過ぎない。
では、自分が今持っている情報を整理しよう。重要な情報を持っているNPCがいるが生半可な方法では説得が出来ない。説得をしようにもそのとっかかりが掴めていない状況だ。ではどうするか?①過去に同じケースは無かったか。妄信的な過去追従は愚かだが、そこから学べる事は多い。
このケースに最も近いのはあまり直視をしたくない現実だが自分だろう。言葉にはしたくないものばかりだが何となく思う事、伝えたい事は分かっているつもりだ。
次に②どうすればその考えを伝えられるか。アインズ自身が克服などとは思わない、前向きにこの世界で生きていられるのはとどのつまりナザリックがあるからだ。自分と同じように残された存在……いや遺された被造物達。かつての仲間を恨む事は最早筋違いだ、彼らにも大事なものがあってそちらを優先したに過ぎない。……つまり例のドライアドに必要なものは生きる目的、だろう。
……ダメだな、考えがぐちゃぐちゃしてきた。こんな時は……。
「リュミエール」
「はい、アインズ様」
「アストリアのところへ向かう」
そう伝え扉へ歩を進める。いつのまにか部屋付きのデクリメントが扉の前でスタンバっていた。……早いな。
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本日のアインズ様当番である私は朝から緊張と喜びで胸がいっぱいだった。もちろん今までもアインズ様当番を務めた事はあるがいつだって前日は楽しみでしかたなく、どのような事を行えば満足頂けるかを常に考えてしまっていた。休息を十分に取れと言われているにも関わらず切り替える事が上手くいっていない自分を恥じる。
とはいえ、最近では同僚のアストリア主催による紅茶の勉強会もなかなか楽しい。先ほどデクリメントも話していた勉強会だが当然私も参加経験がある。今ではアインズ様が紅茶を嗜んでいる事はナザリック内では当然の認識だ。であれば今まで通りのレベルで満足していては私たちを創造して下さった至高の御方々に合わせる顔が無い。
私の時には第1、第2、第3階層守護者のシャルティア様もちょうど参加されていた。何でも季節によって違う紅茶が手に入ったという事に興味を示されたとのことだ。シャルティア様も以前から紅茶を嗜まれるという、きっと創造されたペロロンチーノ様がとても高尚なご趣味を持っていたのは想像に難くない。シャルティア様は普段ストレートを好まれるようだが、最近アインズ様がミルクティにも目を向けられているという事で興味を持ったそうだ。シャルティア様も深い知識がおありだろうに慢心されずさらなる知識を求められる姿勢はまさに見習うべきものだ。
その時の勉強会では私もフレーバードティについて学んでいた。正直フレーバードティは一段下に見ていた事は事実でもある。というのも紅茶単体であれほど素晴らしい香りを楽しめる。それをあえて人工的な香りで着香することは無粋極まるのではないかと思ったためだ。しかしそんなそんな考えはまさに浅慮だったと言わざるを得ない。私がその時飲んだ紅茶はアールグレイだった、というのもやはり最も有名なフレーバードティと思ったためだ。
まさか同じアールグレイでも香りの強弱であれほど変わるとは……、
そのアストリアのところへ今からアインズ様は向かわれるという。主に満足できる紅茶を提供出来ないことは不甲斐ない事この上ないが、同時にアストリアがどうアインズ様が求められる紅茶を出すのか同僚としてとても興味深い。ただの模倣をするつもりなど毛頭無い、より素晴らしい紅茶をアインズ様が求めらているのならば烏滸がましい事ではあるがアインズ様の想像以上だと仰って頂ける紅茶を目指すべきだ。それこそがメイドとして当然の心構えだろう。
そんな事を思いながら私はナザリック第九階層 喫茶店のドアを開いた……。
最近昔の話を読み返しながら紅茶の好みリストとか作っています。
例えばアインズはヌワラエリヤ、ディンヴラが好きだけど朝はミルクティー向けの茶葉を好きとか。
オリジナル設定ながら楽しいですね。オリジナル小説とかってこういうところからも始まるのかなとぼんやり考えました。
次回またなるべく早めに投稿いたしますのでよろしければ紅茶に対してどういったイメージ等感想頂けますと励みになります。
よろしくお願いいたします。