- ヨーロッパの新型コロナウイルス新規感染例の多くがスペインからの旅行者によって広まった変異種によるものとする報告書が公開された。
- 新型コロナウイルスの変異種は6月にスペイン北東部で初めて確認され、観光客などの旅行者によって国外へ広まったと研究者はみている。
- スイスのバーゼル大学、チューリッヒ工科大学、そしてスペインのSeqCOVIDからなる研究チームによると、「20A.EU1」と呼ばれるこの変異種が、従来の新型コロナウイルスに比べて致死性が高いことを示すデータはないという。
- 変異種はヨーロッパの12カ国に加えて、香港やニュージーランドでも確認されている。
ヨーロッパでの多くの新型コロナウイルス発症例が、スペインで発生した変異種によるもので、旅行者によって夏の間に大陸全土へと広がったとする報告書が10月29日に発表された。
この変異種は、最初に確認された場所であるスペイン北東部の農業従事者に端を発している可能性が高いと研究者は考えている。
スイスのバーゼル大学、チューリッヒ工科大学、そしてスペインのSeqCOVIDからなる研究者チームは、ウイルス拡散の原因となった「スーパー・スプレッド現象」は、観光客や旅行者によるものとみている。さらに、変異種は10月までにヨーロッパ12カ国、そして香港とニュージーランドでも確認されていると研究者チームは明かした。また、この変異型が従来のウイルスよりも致死性が高いというデータは得られていないという。
「20A.EU1」と呼ばれる新型コロナウイルスの変異種は、7月下旬までに少なくともヨーロッパの6カ国に拡散していたという。何百種もの新型コロナウイルスの変異型がヨーロッパで確認されているが、「20A.EU1」のように、広く拡散したものは少ないと研究者は説明している。
「この変異種、20A.EU1ともう一つの変異種、20A.EU2が、最近のほとんどの発症例の原因となっている」と研究者は明かした。
スペインから各国へ帰国した観光客がこの変異種の拡散の重要な役割を担ったという。イギリスでは、症例の80%以上がこの変異型によるものであり、研究者はこれを7月から8月の間に国外へ渡航した約250人と関連があるとしている。一方、香港での感染経路は感染源が1人に特定されており、ニュージーランドの感染源もヨーロッパからやってきた3人に絞られている。
パンデミックによって大陸間の移動が制限されていたため、この変異種のほとんどがヨーロッパにとどまっていると研究者はみている。各国政府は夏の一時期、大陸内の旅行に対する検疫を免除していた。
ヨーロッパ内での20A.EU1の症例増加は「夏季の旅行に関するガイドラインと規制が、感染拡大を防ぐには不十分であったことを示している」と研究者はいう。この変異種は通常のSARS-CoV-2に比べて感染力が高い可能性もあるが、これほどまでに早く拡散した原因を特定するのは「とても難しい」と研究チームは付け加えた。
研究者たちは、データが不足していることから変異種がより高い致死性を持つかは判断できないとも話している。病原体の遺伝子検査によってこの変異型によるクラスターを見つけて追跡することは可能だとする一方で、「ヨーロッパ全土で継続性と一貫性を持つ検査が行われていないことで、我々の研究は制限されている」とも話した。各国政府がヨーロッパ内の移動再開を計画しているのであれば、このデータを考慮するべきだと研究者チームは述べている。
今回の報告はフランスとドイツがさらなる厳戒なロックダウンを発表した翌日に発表された。フランスとドイツはバーやレストランの営業を再度禁止する1カ月間のロックダウンを行っている。フランスでは生活必需品を扱う店以外は営業できず、ドイツはホテルに対して旅行客の宿泊を禁止し、ジムや劇場も営業禁止とした。
(翻訳:忍足亜輝、編集:Toshihiko Inoue)