・IF設定が更に独自の進化を遂げた世界を舞台にお送りしております。
・キャラ崩壊注意です。
・二つ目の話は原作オバロ、くがね先生と異なる文体を使用しております。【アンチ・ヘイト】のつもりで書いていませんが、そんなの無理という方はバックしてください。
「シズ先輩! アインズ様の事で間違いがあったなら言ってくださいと、あれほど言ったではありませんか!!」
「…………間違いではない。ただ〝あまり気分は良くない〟と仰っていた。必要な事だとは理解されている。」
「アインズ様の気分を害するなど、極刑同然の不敬です!何故もっと早く……ああ、アインズ様。わたくしはなんてことを。同志の皆に通達して船を早急に解体する準備と謝罪へ赴く旨を!」
「…………早まらない。間違ったことはしていないと仰っていた。」
「アインズ様の配下であられる方も不愉快に思っていたのでしたら、なおのことです!」
「…………アインズ様が不愉快に思われたのは、ネイアのやっている事じゃなくて。…………人間がどうということでない。らしい。…………ダメ。とても説明が難しい。失言。どうしよう。」
事の発端は、湾岸都市リムンの係留施設に、100日の航海を終えた巨大な工船が凱旋した時だった。……【航船】ではなく、【工船】である。
【航船】ではないのだからローブル聖王国における航海法・海里法は適用されず、陸の【工場】ではないのだから、工業法・武器製造法は適用されない。ヤルダバオト襲来まで徴兵制度を行っていたローブル聖王国において、武具の作成や魔化作業は――おそらくどの国もだろうが――法で定められた一定数を超えて生産する場合、聖王室の認可が必要になる。
今や20万を超える同志が集った魔導王陛下へ感謝を送る会(仮)。それだけの人数に武具や防具をいきわたらせる事は資源・財源・人員共に生半可な労力でなく、専従の武器職人や魔化を施せる
とはいえ、資源・財源・人員の三役全てを簡単に揃えられるのが(仮)の恐ろしいところ。問題は如何にしてローブル聖王国の法を潜り抜けるかだった。
流石のカスポンド聖王猊下も、20万以上もの聖王室に確かな忠誠を誓わない人間に、大量の武具・防具の作成を認めることは許可出来なかったらしく、ネイアは20万の親衛隊全員に満足な武具がいきわたらないという難題に直面した。
確かにネイアは、偉大なるアインズ様の慈悲深き御手にローブル聖王国を抱擁していただこうと活動しているが、祖国への愛国心を捨てた訳ではない。今や碌に機能していない錆びついた代物とはいえ、法は法。魔導王陛下の名を冠して活動している以上、自分たちが母国の法を犯しては、アインズ様の御名に泥を塗ってしまう。
とはいえ、御身のため、爪と牙を研ぐ活動を止める選択肢など最初からない。そのため最初は正規の武器制作の工場以外にも、〝金属加工工場〟〝猟弓作成所〟を各地に作成して法を犯さず武具作成に励んでいたが、やはり効率は悪い。
そこで文官たちが提案してきたのは、この【武器工船】の造設だった。正確に言うと【合法】ではなく、【脱法】なのだが、聖王室からは何も言ってこない。工船の作成以降、武具・防具の品質は格段に向上し、量産も可能となった。
ネイアとしても自らの力量不足からこのような脱法行為を行うのは不本意であったが、【弱きは悪であり、脱さぬ努力をしない者は更なる悪】と常々説いている以上、口だけではなく具体的な方法を明示し、所属する同志には万全の設備を整えるべきだ。
そんな苦肉の策のひとつがこの【工船造設】だったのだが、工船で作成された弓や剣、鎧や迷彩服、マジック・アイテムをシズ先輩に見ていただいた際、衝撃的な爆弾発言が発せられたのだ。
〝…………うん。人間の作った量産型にしてはまぁまぁな出来。缶詰にして専従させるのも効率が良い。アインズ様とデミ…は〝あまり良い気分はしない〟と仰っていたけれど〟
ネイアはその発言を聞き、頭部を巨岩で殴られた錯覚を覚えた。アインズ様のみならず、恐らくは配下であろうどなたかの名前を聞き逃すほどネイアは
やはりアインズ様の名を冠しておきながら脱法行為に手を染めている自分たちに不愉快を感じられているのか、はたまた【海上での武器作成】という危険を同志に行わせていることをお嘆きになっているのか。
……もちろんそんな訳がなく、アインズが不愉快と思ったのは、【逃げ場のない工房で働かされる】という鈴木悟の残滓であるし、ついでにデミウルゴスが【工船】に対し、セバスにも似た不快感を覚えたのは造物主たるウルベルトの影響だ。
とはいえ、(仮)の場合、全員が喜々として働いているという意味で、アインズの想像と全く異なる似て非なるモノなのだが、人間の事情などどうでもよい二人は、【海上の工船という逃げ場のない労働社会構造】そのものに不快感を覚えた訳である。
かくしてシズとネイアは、初となるかもしれない不毛な口論を行う羽目となった。
「…………アインズ様はネイアの活動をお認めになっている。今回の事も気にしないよう仰っている。」
「それはアインズ様の御慈悲に甘える事ではありませんか!」
「…………先輩を信じられないなんて生意気。」
「信じていますとも!シズ先輩の言った、アインズ様がご不快に思われた御言葉を信じたわたしの決断です!」
「…………むぅ。わたしだってアインズ様がただ不快に思われたならば中止させる。でも違う。」
「何が違うのですか!アインズ様を不快にさせるなど……わたしはどうすれば。」
「…………話を聞く。ネイアの分からず屋。」
「シズ先輩はアインズ様がご不快に思われたことを何とも思わないのですか!」
「…………思うに決まっている。でもアインズ様のご判断に勝手な異を唱えているのはネイア。」
「御慈悲に甘えることを御赦しとは思いません!」
最初はネイアを諭そうとしていたシズも、無表情に強い怒りを宿し、口論が白熱していく。シズとネイアはそのまま互いに譲らず一晩じゅうケンカした。
そして朝になって頭が冷えてくると、勢いで口走ったセリフの数々に、後悔がじわじわとこみあげ───
「…………。」
「…………。」
お互い顔を背け、表情こそ怒りを取り繕っているが、ネイアは完全に謝るタイミングを逃してしまいシズ先輩にどのように声を掛けようかと頭をフル回転させていた。朝日が昇ってかれこれ1時間は無言のままでいる。
「……「……ごめ」」
シズとネイアの声が重なり、二人は1時間ぶりにお互いの視線を合わせる。
「シズ先輩に、アインズ様の忠誠を疑うかのような発言をするなんて……。本当にごめんなさい。わたしは未だアインズ様の偉大さや慈悲深さに無知であったようです。精進が足りません。」
「…………こっちも。ネイアがどれほどアインズ様の素晴らしさを知っているか解っていたはずなのに。」
「アインズ様が感情ではなく、王として叡智を以って決定した結論をわたし如きが否定するなど、冷静に考えれば間違っていました。」
「…………わたしも。〝常に盲目的に従属するのではなく自分で考える〟よう言われているのに、ネイアのように出来なかった。」
「今回はアインズ様の御慈悲を賜る形で、工船での武器造設を続行させます。しかし、いずれは必ずこんな情けないことにならないよう精進いたしますので!」
「…………その意気。こんなに話したのは久々。喉が渇いた?」
「いえ……まぁ……。はい。」
シズ先輩は虚空から〝ちょこれーと味〟を取り出してその蓋を取った。そしてストローを二つ差す。
「…………1個しかない。忘れてきた。半分こ。」
シズ先輩はそう言って自分で一口すすり、ネイアにもうひとつのストローを向けてきた。気恥ずかしそうに目を背けている姿を見るに、絶対嘘だろう。〝仲直りの印〟としたいのだろうか。そんなシズ先輩をみて、ネイアは微笑みを浮かべてしまう。
「なら仕方がありませんね。半分こです。」
議論が白熱して、身体が疲れたからだろうか。甘くて苦いちょこれーと味は、何故かいつもよりも甘さが増しているような気がした。
●
××月××日 晴れ 総本部にて
本日も偉大なりし魔導王陛下の御慈悲により、平穏な一日を終えられた事に感謝の祈りを捧げます。
思い出す……否、脳裏に蘇るも
深夜、狂人のように暴れ狂い、哭き喚びながら目を覚ます機会も少なくなってまいりました。
しかし未だあの身体と魂を根源から滅ぼすような悪魔たちが忍び込んでくるのではないか……。そんな恐懼の念が、魔導王陛下の代弁者にして絶対指導者バラハ様御付きの女中という光栄極まる立場にありながら、男性を遠ざけているのでしょう。
バラハ様はそんなわたくしを今も重宝してくださいます。これに勝る喜びはございません。当会代表にして魔導王陛下の代弁者、絶対なる指導者の御付きがわたくしだけというのは、何度も問題として立ち上がりましたが、他ならぬバラハ様が、他の専従メイドや執事を頑なにお認めになられません。
同志の中には、わたくしよりも接遇に長けた、元貴族はおろか、聖王室で執事やメイドをされていた方も多くいらっしゃいるのですが……。バラハ様の慎み深さは、時にわたくしたちを困惑させます。
バラハ様が聖地アインズ・ウール・ゴウン魔導国を巡礼されて以来、魔導王陛下の御啓示を代弁される者として更なる御力を身に着けられた様に思われます。
ですが、同時に極度の疲労からか、はたまた未だ魔導王陛下の偉大さを理解されぬ無知蒙昧な輩の所為か、バラハ様の憂顔が多くなっている事もわたくしは知っております。
常に限界まで引き絞った弓の弦を思わせるバラハ様にわたくし如きが出来ることは、少しでもお疲れの出ません様、従者としての役割を全うする以外に御座いません。
明日もまた、魔導王陛下のお導きが御座いますように。
※ ※ ※
××月××日 晴れ時々曇り カリンシャ支部にて
本日も偉大なりし魔導王陛下の御慈悲により、平穏な一日を終えられた事に感謝の祈りを捧げます。
バラハ様は3日に一度は必ず昼餐に、碌に脱穀すらしていない劣悪な麦に温めた牛乳を染み込ませただけの、粗悪で粗末なポリッジを召し上がられます。
バラハ様が魔導王陛下から下賜されたという、聖地における軍事知識が纏められた聖典によって、同志たる軍士たちと、食料支援同盟の同志たちが研究を重ね、親衛隊に配られる食料品や軍事食は味も保存期間も栄養価も格段に向上しております。
なにより、慈悲深き魔導王陛下の治めたる魔導国より豊饒な食物が支援物資として送っていただける中、こんなもの――未だ自給自足の目途さえ立っていないローブル聖王国の一員として恥ずべき表現でしょうが――を当会で召し上がっているのはバラハ様くらいです。
〝同志が気に病むだろうから秘密にするように〟とも命令されております。理由を問うと、バラハ様は〝彼の戦いを忘れないために〟と仰っておりました。【彼の戦い】とは恐らく、人伝にしか聞いておりませんが、ヤルダバオト襲来でも屈指の激戦……生存者がバラハ様お一人、――それも魔導王陛下による救援により――だったという西門市城における防衛戦でしょう。
偉大なる魔導王陛下の御力と御慈悲によって悪魔の収容所からの絶望に救わるる身であり、人の世に戻ることの叶ったわたくしがこのように考えることは不敬でしょうが、バラハ様が〝魔導王陛下を正義と確信した戦い〟と仰る場にわたくしも居合わせられたならば……と、羨望ともつかない隠微な気持ちが宿ってしまうのです。
粗末な昼餐を終えたバラハ様は、そのまま演説へ向かわれました。カリンシャは、元々当会の前身〝魔導王陛下救出部隊〟の勢力地であり、同志の多い中行われる演説会は、喝采が大地へ轟き天空へ達するが如しです。
当会にもバラハ様以外に、魔導王陛下の偉大さを説く弁の立つ者はおりますが、やはり別格……いえ、比べることさえおこがましい、凛とされた御姿は、正しく魔導王陛下の代弁者で御座います。
同じように魔導王陛下の素晴らしさを説いているにも関わらず、何故バラハ様のお声とは、こうも心を打たれるのでしょうか? 熱の籠ったお声? 先行きの見えない不安に光明を導き説く思想? 未だに答えは出ません。
それでも〝自分の代わりはいくらでもいる〟など心臓に悪い笑えない冗談を仰るのです。
機知・真摯・激情・情熱……正しく指導者としての全てを兼ね備えたバラハ様ですが、ユーモアのセンスは残念ながら無いようです。
明日もまた、魔導王陛下のお導きが御座いますように。
※ ※ ※
××月××日 晴れ 総本部にて
本日も偉大なりし魔導王陛下の御慈悲により、平穏な一日を終えられた事に感謝の祈りを捧げます。
本日は総本部にシズ様がご来訪されました。忌まわしきヤルダバオトの眷属ともいえるメイド悪魔がいると初めて聞いた際は、殺されてでも八つ裂きにしてやりたい気持ちを覚えたものですが、実際に御姿を見て肩透かしを食らった思い出は未だに忘れられません。
やはり魔導王陛下の偉大さに触れることで、悪魔も改心するのでしょうか。それとも元来善良な悪魔――正直者な法螺吹きくらい意味の解らない表現ですが――であったから魔導王陛下は配下となさったのでしょうか。
どの道ただの人間たる我々が、魔導王陛下の深淵なる叡智になど及ぶはずが御座いません。
シズ様のご来訪はいつも突然で、歓迎の準備も何もさせていただけません。そしてシズ様がいらっしゃる時間は、わたくし個人……御付きの女中として喜ばしいことでもあります。何故ならば、バラハ様が年相応の少女に戻る希少な時間でもあるためです。
本日も普段近衛を行っている親衛隊を下がらせ――本来なら危険であると止めるべきかもしれませんが、当会にシズ様以上の強者はおりませんので我々はバラハ様に何も言えません――お二人で楽しく歓談されておりました。
本日は本部で過ごされましたが、時折バラハ様はシズ様へ招かれ聖地に赴くこともございます、羨望の念を抱かずにはおられません。
いずれローブル聖王国の復興が終われば、我々も聖地へ赴くことが出来るとバラハ様は仰っておりました。何よりも、我が祖国が魔導王陛下の御慈悲に溢れる統治を受けられるのであれば、これに勝る喜びは御座いません。
シズ様のいらっしゃった後のお部屋はまるで高級な茶葉を使った紅茶にも似た良い香りがいたします。悪魔に香水を嗜む文化があるかわかりませんが、おそらくはシズ様が元来持たれる香りなのでしょう。
シズ様がいらした日、バラハ様からもシズ様と同じ紅茶のような香りが強く残っていることが御座います。本日もそうでしたが、わたくしは何もいいません。
大抵バラハ様は幸せそうなお顔をされておりますので、〝お二人の様子を覗いてみたい〟という悪魔の
バラハ様という常人を超越された指導者に、我々が出来ることは御座いません。だとすればバラハ様はあの御年で茨の道を救国のため邁進される孤高なる存在です。でしたらバラハ様の孤独を埋めることができるのは、シズ様だけなのかもしれません。
明日もまた、魔導王陛下のお導きが御座いますように。
そして、バラハ様とシズ様の結ばれたる友誼が陰ることの御座いませんように。