納豆菌が生きた大豆よりも枯死体の大豆を栄養源とする研究の成果(京都大学の発表より)

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 大豆を使った日本の伝統的な発酵食品、納豆。誕生から千年以上が経過した現代社会においては、大量生産と品質改良が進み、食卓に欠かせない人気の食材となっている。

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 そんな納豆に対し、食品科学の観点から研究を続ける京都大学大学院農学研究科のグループが、納豆菌が生きた大豆よりも枯死体の大豆を栄養源とする研究結果を明らかにした。本研究では大豆が納豆菌の増殖を抑制する抗菌物質の産生が示唆されており、研究グループは今後、抗菌活性の効能を調べるとともに、大豆抗菌物質への薬剤への応用に役立てる。

 京都大によると、細菌と植物との相互作用形式は、互いにメリットを保ちながら生存する共生、細菌が植物の栄養源に依存した状態になる感染、細菌が植物の成分を分解する腐生の3つがある。それぞれの相互作用形式でさまざまな物質が関わっているが、腐生の促進物質として機能しているのが、枯草菌の一種、納豆菌である。

 納豆菌は、1906年に農学博士の沢村真によって発見された。田んぼや畑、枯れ草などに存在し、蒸した大豆に加えると、大豆の発酵の過程でタンパク質を分解してアミノ酸を生成。アミノ酸により、大豆にもともとなかった粘り気が出るようになり、納豆になる。

 なぜ煮大豆に納豆菌を混入させると納豆が製造されるのか。蒸れた大豆は、納豆菌の増殖を抑制する本来の抗菌物質がないほか、発芽能を失って枯死体になっているからだ。先行研究では、蒸した大豆の表面で納豆菌が増殖する様子が確認されているが、大豆への納豆菌の分子応答には不明点が多いという。それらを踏まえ、今回の研究グループは、大豆と納豆菌の相互作用を分子レベルで明らかにすることにした。

 実験では、発芽能力がある生きた大豆と、常温保存で発芽能力が失われた死んだ大豆をそれぞれを吸水させた後、納豆菌を移植し、育った菌数を計測。すると、発芽能力がない死んだ大豆は菌が実験開始から48時間後に粘質成分を分泌するなど、良好に成長し、右肩上がりの曲線を描いた。

 一方、発芽能力がある生きた大豆は、死んだ大豆と比べ、納豆菌の増殖が顕著に少なく、大豆表面に粘質成分が見られなかった。これにより、研究グループは、「生きた大豆は、納豆菌の増殖を抑制する抗菌物質を分泌している」との結論を出している。

 納豆のおいしさは、納豆菌が大豆のタンパク質を分解することでできたグルタミン酸と、フラクタン(糖の一種)の含有量が左右しているとされる。蒸した死んだ大豆に対する納豆菌の生理作用の研究が進めば、それらのうまみ物質の発現量もコントロールできるようになり、より高品質な納豆の製造にもつながりそうだ。