天才人語

坂口恭平が明かす“天才”の奥義 「僕の教えを守って実践すれば、誰でも天才になれます」

坂口恭平のことを説明するのは非常に難しい。

早稲田大学の建築学科を卒業するも、図面を引かない建築家として、路上生活者の住居を撮影した写真集『0円ハウス』(リトルモア)や、2畳ほどの移動できる家「モバイルハウス」の快適さとノウハウをつづった新書を刊行するなど、その活動は型破りなものばかり。

さらに、小説『幻年時代』(幻冬舎)が第35回熊日出版文化賞を受賞、『徘徊タクシー』(新潮社)は第27回三島由紀夫賞候補となり、文芸の世界でも才能が高く評価されている。

震災後には、政府の原発対応に疑問を抱き、自ら“新政府初代内閣総理大臣”を名乗り、熊本に“新国家”の樹立を宣言。

アーティストとしても注目を集め、18年からは音楽活動を、最近ではパステルを使った絵画を描き始め、2カ月足らずで個展と画集の出版が決定。数々のジャンルを横断しながら、四方八方で才気を振りまいている。

「君はなんでそんなに天才なんだって、いろんな人から言われます(笑)」。本人はそう言って屈託なく笑うが、「自分はただの継続のプロ。僕と同じことをすれば、誰でも天才になれます」と断言する。キーワードは「確変」「超越」らしい。坂口恭平が考案した“天才の奥義”に迫る。

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「天才」とは、他人に見えない努力を積み重ねた人

坂口恭平が明かす“天才”の奥義 「僕の教えを守って実践すれば、誰でも天才になれます」

――坂口さんにとって「天才」とはどういう存在かを聞かせてください。とはいえ、ご自身が天才と言われることも多いそうですが。

坂口 めっちゃ言われますよ。僕からすると、単純に努力しかしてないのですが、その努力によってあるレベルを超越すると、人は「天才」って呼びたくなるんでしょうね。

最初に天才だと言われ始めたのは子供の時です。その頃僕は毎朝6時に起きて、7時までの1時間、誰にも邪魔されず集中して漫画を描いてました。6畳一間を3兄弟で使っているという劣悪な環境でしたが、自分が早起きして時間をずらすだけで、ほかの兄弟2人が寝ている子供部屋をアトリエに変えたんです。

一定のレベルを超越するためには、適した努力を続けられる環境を作ることが最初の一歩です。家族みんなが活動している騒がしい昼間の1時間と、みんなが寝ている朝の1時間では、環境に圧倒的な差があるのは当たり前。朝が努力に適しているのは、「朝のほうが頭が働くから」とよく言われますが、みんな寝てるから、というのも大きいはずです。

坂口恭平が明かす“天才”の奥義 「僕の教えを守って実践すれば、誰でも天才になれます」

これは家に限らず、会社でも同じでしょう。誰も出社していない朝のオフィスは、努力に適している環境です。誰かに話しかけられたりしないし、メールや電話で中断させられることもない。まぁ僕の場合は「いのっちの電話()」が1日中かかってくるので、ちょっと例外ですけどね。

*日本の自殺者数をゼロにするため、坂口は2012年に自らの携帯電話番号を公開。「いのっちの電話」と名付け、希死念慮に苦しむ人々との対話を続けている。

そうやって、まわりに活動している人間がいない時間帯を利用して努力を続けていると、誰にも知られないうちに力がついてくるわけですから、結果的に「天才ですね」って言われるようになる。長嶋茂雄もイチローも、結局は人が見ていないところで素振りしまくっていたってことですね。

ただ、努力というのは、好きなことしか続きません。そもそも好きなことをしている限りは、努力という概念もない。そしてやればやるだけ「推進力」が身につきます。何かをやり始めた最初の2日くらいは、ゼロの状態から前に進まないといけないので、けっこうな労力、つまり努力が必要ですが、3日目からは2日目までの蓄積を利用して、推進力で前に進めるわけです。1日目はよいしょ、2日目もよいしょ、それが3日目になるとす〜って感じ。4日目以降はす〜す〜が加速していくのみ。加速が始まったらどんどん進みまくりですよ。
 
やり始めた頃と比べて速度が上がっていますから、成長の度合いも違います。それまでは原稿用紙1枚分を書くのに1時間かかっていたのが、推進力によって50分で出来るようになり、40分になり、30分になる。「確変」に入ったときのスピードはとんでもないですよ。

坂口恭平が明かす“天才”の奥義 「僕の教えを守って実践すれば、誰でも天才になれます」

——その「確変」というのは、どういう状態のことを言うのでしょうか?

坂口 前へ進むのに、がんばって漕(こ)がなくてもよくなっている状態ですね。もう加速がついてるので、漕げばスピードが上がるだけで、漕がなくてもある程度は進む。なんでみんな推進力のこと考えないんですかね? いつでもゼロからの出発だと思い込んでるんですか? そんなわけないでしょう。

推進力プラス努力を継続していくことで、上り坂とか下り坂とかも見えるようになっちゃうんですよ。もうすぐ下り坂だからめっちゃスピード出ちゃうな〜とか、上り坂だからちょっとスピード落ちるな〜とか、もうガンガンわかるようになります。そうなればスピードのコントロールができるようになるので、楽しくなってますます成長しちゃう。成長の無限ループですよ。これが僕の言う「確変」ってやつですね。で、気づいたら一定のレベルを超越して、まわりから「天才」って言われるようになったっていう。

——誰でも「超越」することができるんですか?

坂口 どんな人だって、1日1時間でもいいから、365日継続すれば上達しますよ。ただ、続けるためには、やっぱり好きなことじゃないと絶対にダメです。

(……と、ここで坂口の電話が鳴る)「もしもし? 今ね、取材中なのよ。あ、でも、君がもう死ぬっていうなら取材なんて今すぐやめるけど、どうする? 取材の人たちに帰ってもらうのは簡単よ。俺だって取材より君の命のほうが大事だからね。うん、あとでもいい? わかった、じゃあ明日以降また電話して。必ず電話してね。よろしく」

(電話を切って)……ね、急にかかってくるでしょ。これも継続のなせる業で、かれこれ2万人以上の声を聞き続けていると、声を聞いた瞬間に、どういう心理状態にあるか、ある程度想像がつく。これは今すぐじっくり話さなきゃいけないとか、あとでかけ直してもらっても大丈夫そうだなとか。僕なりの使命感でやり続けてきたからこその蓄積です。

坂口恭平が明かす“天才”の奥義 「僕の教えを守って実践すれば、誰でも天才になれます」

さて、話の続き、いきますね。継続による推進力で、漕がなくても進むようになり、確変が起きてスピードが上がってくると、まわりに観客が集まり出します。「なんだあいつは」「すごいぞ」っていう、いわゆる称賛タイムですね。

天才って基本的には自称ではなく、他人からの目線があって初めて成立するもの。僕は5月にパステル画を描き始めて、2カ月後の7月に個展が決まり、10月には画集も出すことになりました。今は僕のパステル画に観客が集まりまくってる状態。ここまで来ると、まわりから「天才」って言われ始めます。

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坂口恭平さんのパステル画(提供=本人)【パステル画をもっとを見る】

過去の偉人を真似ることから始まる「天才道」

——坂口さんのパステル画はSNSでも話題になっています。上達の早さに驚かされますが、パステル画家として「天才」と言われるまでの経緯を聞かせてください。

坂口 まずは、なんとなくパステルのことが気になって、ちょっと色を塗ってみたらおもしろかった。ここが「好き」の始まり。それでパステルで絵を描き始めました。とりあえず1枚描く。この時点ではゼロから始めているので、努力が必要です。次に、2枚目を描く前に、先生を見つけます。天才になるには、自分にぴったりの先生を見つけないと無理です。オリンピックに出るようなアスリートには、必ずその人にふさわしいコーチがいますよね。これはものすごく大事。絶対に自分に合った先生やコーチを見つけてください。

僕の場合は、パステルを好きになり、オディロン・ルドンという画家の存在を知って、彼のパステル画の画集を見てみたら、すごく素敵だなと思った。それで、ルドンをパステル画の先生にしました。先生が見つかったら、模写ができますね。先生の真似(まね)をすることが次の段階です。先生の真似をすると、素人でも「いい感じ」になります。「いいもの」にはならなくても、なんとなく「いい感じ」にさえなれば、楽しくなる。楽しいから、続く。ほら、もう好きから継続のフェーズに入ってるでしょう?

坂口恭平が明かす“天才”の奥義 「僕の教えを守って実践すれば、誰でも天才になれます」

——先生の真似をしても「いい感じ」にならないときは、どうしたらいいですか?

坂口 それは先生が悪いか、本当に好きじゃないか、どっちかです。その先生本人はいいとしても、自分に合ってないと、いい感じにはならないですからね。すぐに別の先生を探しましょう。

僕のパステル画の先生であるルドンは、もう死んでいる人なので、流行に振り回されることもなく、表現が古くなることもない。さらに、ルドンは同じ時代を生きていないので、自分と比べて嫉妬もしない。これはテクニックとしては大事なこと。嫉妬は継続の妨げになるので。あと、何かを始めるときに「誰もやってないこと」っていうのは重要、というか大前提ですが、死んでる人ならOKです。もう死んでる人が昔やってたことなら、やっちゃってください。誰もやっていないこと、でも死んでる人ならOK、ここポイントです。

——好きなことを見つけて、継続する。理屈としては簡単に聞こえますが、実際はなかなか……。

坂口 みんな「好き」のハードルが高すぎるのと、好きなことをお金と結びつけすぎなんですよ。僕もいろいろやってますけど、好きになるハードルめっちゃ低いですからね。それと、「好きだしやりたいけど、お金にならないから」っていう考えは絶対にやめてください。お金にならないことをやったほうが確実に儲(もう)かります。意味わかります? わからないかもしれないけど、本当にそうなんです。だって僕がそうだから。

 

坂口恭平が明かす“天才”の奥義 「僕の教えを守って実践すれば、誰でも天才になれます」

 

僕のパステル画も、お金にならないところから出発して、2カ月で個展が決まって、画集の出版が決まって、最初は1円にもならなかった絵が今は高い値段でばんばん売れてるんですよ。

少しでも気になった、おもしろいなと思ったら、まず1日1時間だけやればいいんです。それでちょっとでも気が乗らなかったらすぐにやめて、次に行く。1日1時間やって嫌にならなかったら、2日目に先生を見つけて真似をする。いい感じにならなかったら、先生を代える。もしいい感じになったら、3日目は、2日目までに自分の中に沈殿したものを使って、気楽に好きにやってください。

「三日坊主」とかっていう言葉のせいで、みんな3日目に力が入りすぎてバテちゃうんですよ。3日目なんて、2日目までの推進力である程度は進めるので、むしろ力を抜いたほうがいい。継続させるためには、負荷をかけないこと。なるべく長時間やらない。つらくなるので。早起きして、最適な環境で1時間やる、これだけでいいです。それを続けていけば、推進力がついて、どんどん速度が上がって、3カ月もすれば観客が集まり出して、気づいたら「天才」って呼ばれるようになります。

——好きなことを見つけるコツみたいなものは、あるのでしょうか?

坂口 好きなことや、やりたいことが見つからないとか言ってる人は、一体どれだけのことを試したの? 人類の可能性、全部試したんですか? もしまだ見つかっていないなら、サイコロでも作って、見つかるまで振り続ければいいんです。絵だろうが音楽だろうが、手品でも盆栽でも何でもいい。思いつくままにいろんなサイコロの目を作って、ひたすら振って、出た目に書いてあることをやる。とりあえずやってみて、嫌だったらやめる。お金のために嫌な仕事やるのと、好きなことを見つけて儲かるの、どっちがいいのかって、それだけの話ですよ。

天才になると、お金だけじゃなく、人としてのマイレージとかポイントみたいなものがたまるので、周りが様々なお膳立てをしてくれる。それでいろいろな場に行けるようになるし、できることの可能性が広がります。どこでもドアを手に入れたみたいな感覚ですね。行きたくない会社に行って、やりたくないことを長時間やって、いろいろ抜かれて手取り18万円って、明らかにおかしいでしょ? だったら好きなこと見つけて、継続して、超越しましょうよ。

 

坂口恭平が明かす“天才”の奥義 「僕の教えを守って実践すれば、誰でも天才になれます」

今日ここで話したプロセスをきちんと守れば、誰でも天才になれます。継続さえすれば、あっという間ですよ。ほぼエスカレーターですからね。1歩1歩階段を上る必要なんてまったくなし。推進力のことを考えてください。たった2日続けるだけで、勝手に上へ行けるんだから。

なぜ僕がここまで「天才への道」の秘密を事細かに話しているかというと、社会のためですからね。社会をよくしたいっていう使命感。天才は常に民のために完全開放。ばっかばっか開いてますよ。

天才になったあと、次にどうしたらいいのかっていう話は、第2回のテーマですね。「坂口恭平の天才の奥義」。連載にしてくれたら、何でも話しますよ。書籍化した時には、帯に「誰でも天才になれます」って書きましょう。天才同士は言葉を交わさなくても、ウィンクだけで意思疎通できますから。そういう話いっぱいありますよ。じゃあ、そんな感じで。お疲れさまでした。

(取材/文:おぐらりゅうじ  撮影:南阿沙美)

 

プロフィール

坂口恭平が明かす“天才”の奥義 「僕の教えを守って実践すれば、誰でも天才になれます」

坂口恭平(さかぐち・きょうへい)
1978年、熊本県生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。2004年に写真集『0円ハウス』(リトルモア)を刊行。著作『ゼロから始める都市型狩猟採集生活』(太田出版)、『独立国家のつくりかた』(講談社現代新書)、『モバイルハウス 三万円で家をつくる』(集英社新書)、『家族の哲学』(毎日新聞出版)などを通じて、固定観念を破壊する快適な生活と政治を提案。小説家としては『幻年時代』(幻冬舎)、『徘徊タクシー』(新潮社)、『けものになること』(河出書房新社)を発表。ほか画集や音楽集、料理書など、作品多数。自ら躁鬱(そううつ)病であることを公言し、希死念慮に苦しむ人々との対話「いのっちの電話」を自身の携帯電話(090-8106-4666)で続けている。近刊は『まとまらない人』(リトルモア)、『自分の薬をつくる』(晶文社)、『苦しい時は電話して』(講談社現代新書)。9/9には音楽家として2年半ぶりのスタジオ・アルバム「永遠に頭上に」をリリース。10月末にはパステル画集『Pastel』(左右社)も刊行予定。

 

リリース情報

坂口恭平が明かす“天才”の奥義 「僕の教えを守って実践すれば、誰でも天才になれます」

New Album『永遠に頭上に』
2020.9.9 Release
PECF-1181
定価:2000円 (税別)

坂口恭平の2年半ぶり2枚目のスタジオ・アルバム「永遠に頭上に」。同郷、熊本出身の作家・詩人である石牟礼道子の詩を歌にした弾き語り音源「海底の修羅」をはじめ、生きる道を歌う6作品を収録。前作同様、寺尾紗穂、厚海義朗、菅沼雄太の3人が集結し、坂口から溢れる素直なメロディーをバンド・アンサンブルで奏でる。

ライブ情報

坂口恭平、ニューアルバム “永遠に頭上に” リリース記念ライブ

視聴URL
https://twitcasting.tv/loft_heaven/shopcart/26819

生配信日程
2020.10.22 (木) 20:00 START

【無観客・有料配信】
坂口恭平 “永遠に頭上に” 発売記念ライブ

【出演】
vo.,g. 坂口恭平 / p. 寺尾紗穂 / b. 厚海義朗 / dr. 菅沼雄太

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