小森敦司(こもり・あつし) 朝日新聞経済部記者(エネルギー・環境担当)
東京都出身。1987年入社。千葉、静岡両支局を経て、名古屋や東京の経済部に勤務、金融や経済産業省を担当。ロンドン特派員も経験し、社内シンクタンク「アジアネットワーク」では地域のエネルギー協力策を研究。現在、エネルギー・環境分野を担当、とくに原発関連の執筆に力を入れている。著書に「資源争奪戦を超えて」「日本はなぜ脱原発できないのか」、共著に「失われた〈20年〉」、「エコ・ウオーズ~低炭素社会への挑戦」。
もう一度、原発事故を起こしたら、日本は「消滅」してしまうのではないか。
いま、もしくは近い将来、日本のどこかで、福島第一原発事故クラスの「大規模事故が起きる」というのは、想像もしたくない話だ。
だが、野田政権は関西電力の大飯原発3、4号機(福井県)をはじめ、定期検査で停止中の原発の再稼働に向けた動きを速めている。いまこの時、もう一度、日本経済や社会が抱えこむリスクを考えないわけにはいかない。
あくまで仮定だが再び原発の大事故が起きれば、日本株や日本円は、すぐさま投げ売りされるだろう。一度ならず二度目なのだ。世界のマーケットに与える衝撃は、とてつもなく大きい。安くなった円では、海外から食料や物資を買うのも大変になる。
その地の一次産業は、放射性物質のおかげで、大きな被害を受ける。周辺地域の観光業は海外から人を呼び込むどころか、壊滅してしまうのではないか。交通、物流の混乱もまぬがれない。
製造業にも影響する。スズキの鈴木修会長は福島の事故のあと、静岡県西部に集中している国内生産・開発拠点について、再配置を検討していることを明らかにした。地震災害や近くにある浜岡原発(静岡県)の事故のリスクを避けるためという。二度目の事故となれば、国内生産を見限るメーカーも出てくるのではないか。
こうして働く場は少なくなる。若い世代は海外脱出を急ぐだろう。福島の事故で明らかになったように、賠償費用や除染、廃炉のための費用もまた重くのしかかる。財源や年金、社会保障など国の基本的な仕組みさえ保てなくなるのではないか、と怖くなる。
福島の人々はいま、懸命に復興、再生へと努力しているが、それでも多くの人が、とてつもない、苦しさやつらさに耐えている。事故が起きれば、その地の人々は、そうしたお金に換算できないものも背負うことになる。
つまり、この国の経済・社会は、もはや立ち直れないようなダメージを負うのだ。
野田首相が、原発の再稼働を急ぐ理由は、
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