女川再稼働判断 県民の不安置き去りか

2020年11月2日 07時35分
 東日本大震災でダメージを受けた東北電力女川原発の再稼働へのプロセスが最終段階。地元宮城県知事の判断を待つだけだ。被災からやがて十年。まだ癒えぬ県民の心のいたみは、置き去りなのか。
 仙台市に本社を置く河北新報がことし三月、宮城県内の有権者を対象に実施した世論調査では、女川原発2号機の再稼働に「反対」という回答が61・5%に上っている。女川町と石巻市を合わせた立地自治体でも、60・8%と過半数を占めている。
 原発の安全性に関しては「不安」とした県民が74・0%。石巻市では84・8%だった。
 福島第一同様、女川原発も東日本大震災の被災原発だ。十三メートルの大津波に襲われた。
 海面から約十五メートルの高台にあるとはいうものの、2号機の原子炉建屋に浸水があり、1号機では火災が起きた。一系統だけ生き残った外部電源で何とか原子炉を冷やし続けることができ、辛うじて事なきを得たにすぎない。建屋には無数のひび割れができていた。
 東北電は、堤防のかさ上げや耐震補強といった対策を施して、原子力規制委員会の審査をクリアした。しかし、規制基準に「適合」したというだけで、安全を保証するものではない。
 仙台高裁は十月二十三日、石巻市の市民グループが県と石巻市が再稼働に同意しないよう求めた仮処分申請を棄却した。
 ところが、事故に備えて国が策定を求めた避難計画の実効性について裁判長は「現状では相当な課題が残されていることは認めざるを得ない」との指摘を添えた。
 このような状況下で、再稼働の手続きは最終段階を迎えている。「安心しろ」という方が、そもそも無理な話ではないか。
 一般に原発の再稼働に関しては、規制委の審査を経て、県を含む立地自治体の同意を得ることが条件とされている。周辺自治体の“同意権”を認めているのは、首都圏の一角に位置する茨城県の日本原電東海第二原発だけだ。
 福島に隣接する宮城県民の多くが、やり場のない不安を抱えていることは、河北新報の世論調査結果からも読み取れる。
 原発マネーに依存する立地自治体の中にも、目の前にある原発への不信を押し殺して暮らす住民は少なくないようだ。
 いくつもの疑問や課題、そして不安や不信を置き去りにしたままで、なぜ再稼働を急ぐのか。
 強行は許されない。

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