学術会議問題 矛盾に満ちた首相答弁

2020年11月5日 07時56分
 日本学術会議が推薦した会員候補のうち六人の任命を拒否した問題。菅義偉首相の説明は説得力を欠くばかりか矛盾に満ちている。なぜ拒否したのか。引き続き国会の場で明らかにする必要がある。
 菅内閣発足後、初の本格論戦となった衆院予算委員会はきのう二日間の日程を終え、論戦の舞台はきょうから参院予算委に移る。野党側による追及が続くのが、学術会議の会員任命拒否問題だ。
 首相による学術会議会員の任命について、政府は一九八三年、当時の中曽根康弘首相が「形式的にすぎない」と答弁するなど裁量を認めてこなかったが、菅首相は一転「総合的、俯瞰(ふかん)的な観点から」六人の任命を拒否し、その違法性が問われている。
 政府は、学術会議の「推薦通りに任命しなければならないわけではない」とする内部文書を二〇一八年に作成して、こうした法解釈は一九八三年から「一貫した考え方」だと説明している。
 立憲民主党の枝野幸男代表はきのう、この法解釈が八三年から一貫していることを示す記録の提出を求めたが、政府側は示せなかった。恐らく存在しないのだろう。
 この内部文書が過去に国会で説明され、審議された形跡もない。国会審議を経て成立した法律の解釈を、政府部内の一片の文書で変更することは到底許されない。
 首相説明の矛盾はこれだけではない。首相は「私が判断した」と言いながら、拒否した六人のうち五人の名前や業績は「承知していなかった」と答えている。
 また首相は任命拒否の理由に、会員に旧七帝大などが多く、大学の偏り解消や若手起用など多様性の確保を挙げたが、六人の半数は私大教授で、一人も会員のいない大学の教授や五十代前半の教授、女性も含まれる。首相の任命拒否は結局、多様性を奪っている。
 そして最後は「公務員の人事に関わるので差し控える」と拒否の本当の理由を語ろうとしない。
 六人はいずれも安全保障関連法など安倍前政権の政策に反対しており、これが拒否理由だと勘繰られても仕方があるまい。
 学術会議の在り方検討を主張するのも論点のすり替えだ。六人の拒否ありきで、何を言っても後付けの説明にしか聞こえない。説明すればするほど矛盾が露呈する。
 首相は自らの非を認めた上で、あらためて六人を任命し、混乱を収拾するしか道はない。学術会議問題を通じて見え始めた強権的な体質も改めるべきである。

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