慢性腎臓病(CKD)の猫に対する5-アミノレブリン酸(5-ALA)の有用性について日本の西玲央、米澤智洋氏らは6頭のCKD猫を用いてプロスペクティブに研究を実施した。その結果、プラセボ群と比べて5-ALAを2か月間給与した群では尿蛋白/クレアチニン比(UPC)が有意に低下することが明らかになった。結果はALA-Porphyrin Science 2020年夏号に掲載された。
研究の背景
CKDは不可逆的かつ進行性に腎機能が低下する、猫に多く認められる疾患である。尿細管間質の炎症や腎組織の繊維化が観察され、蛋白尿や低酸素症、酸化ストレスなど様々な因子が関連する。これらの因子を標的とした新薬の開発が必要とされる。5-ALAは内因性の天然アミノ酸であり、ヘム合成のメディエーターとして作用し、腎疾患の進行抑制が期待される。5-ALAはモデル動物において腎臓における腎虚血-再還流障害やシスプラチン腎症に対してヘムオキシゲナーゼ-1発現を誘導することにより腎保護作用を示すことが報告されている。しかしながらCKD猫に対する効果についてはこれまでのところよく分かっていない。そこで著者らは、5-ALAの2か月間投与によるCKD猫への有効性を評価することを計画した。
本研究は2か月間にわたるプロスペクティブ、二重盲検、クロスオーバーにて実施した。組み入れ対象はIRISの基準に従ってCKDと診断された猫のうち、血中クレアチニン値(Cre)が2.0~5.0 mg/dLで、試験開始より1ヶ月前から投薬内容に変更のない症例とした。
プロトコール
組み入れられた症例に5-ALAを5 mg/頭、1日1回を2か月間投与し、その後2か月間プラセボを投与した。猫の飼い主ならびに獣医師は5-ALAかプラセボかは分からないようにした(二重盲検)。
評価
5-ALAの効果を評価するため、臨床活動性スコア、QoL評価、身体検査所見、血液生化学検査、尿検査を0, 1, 2, 3, 4か月後に評価した。
組み入れられた猫6頭はいずれも組み入れ2か月以上前にCKDと診断されており、試験開始時の平均Creは3.47 mg/dL、平均年齢は10.7歳であった。併用薬はACE阻害薬(2頭)、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(2頭)、ベラプロストナトリウム(1頭)などが少なくとも1か月以上前から投与されていた。これらの併用薬は試験期間中、用量などを変えずに継続した。
UPC
5-ALA, プラセボ群のUPCは下グラフのとおり。
5-ALA群では2か月で有意にUPCが低下(P=0.042)し、プラセボ群では有意にUPCが上昇し(P=0.036)、ベースラインに戻った。2群間でUPCに有意差が認められた(P=0.014)。
血液生化学検査
両群のBUN、Creは下グラフのとおり。
5-ALA投与期間中はフラットであるのに対し、プラセボ投与期間中は上昇傾向にあったが、群内および群間で有意差は認められなかった。
また、血清アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)は下グラフのとおり。
5-ALA投与期間中は増加傾向にあり。プラセボ投与期間中は減少傾向にあったが、群内、群間で有意差は認められなかった。なお、その他の生化学検査、全血球検査はいずれも有意差は認められなかった。
結論
これらの結果から著者らは、5-ALAの5 mg/頭, SID投与はCKDの猫の蛋白尿を低下させるのに有効である可能性があると報告している。副作用として嘔吐やALTの上昇は留意すべきであるが、猫のCKD進行抑制の新たな選択肢となるかもしれないと述べている。
- Highlights
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CKDの猫6頭を用いて5-ALAの有効性を評価
プロスペクティブ、二重盲検、クロスオーバー試験
5-ALA 5mg/頭, SIDの2か月間投与でUPCが有意に低下
BUNとCreは維持される傾向にあるが、プラセボと比較して有意差は認められず
ALTは有意差はないものの上昇傾向にあり
ご紹介いただいた論文の著者の一人である米澤です。5-ALAはアミノ酸の一種ながら、ポルフィリン前駆体であることから、ヘム合成、シトクロームC、ミトコンドリア活性に大きく影響を及ぼします。生体の根本的な機能に関わるため、その投与によって様々な効果を発揮することが知られています。なかでも酸化ストレスとの関連は盛んに研究されています。酸化ストレスと腎臓病の進行は密接な関係にあることから、5-ALAの投薬による腎臓病の治療が期待されています。急性腎障害モデルマウスを用いた研究では、5-ALAの経口投与によって糸球体の障害が緩和され、組織学的にも血液化学的にも改善が認められることがすでに示されています。
獣医療において慢性腎臓病は高齢の猫を中心に幅広く認められる疾患であり、 また治療に苦慮する病気の一つです。慢性的な経過によって硬化したネフロンを治療することは不可能に思いますが、慢性化した状況の腎臓においても酸化ストレスにより現在進行形で障害を受けている細胞は数多くあることから、これを改善することで腎臓病の進行を抑制することができるのではないかと考えて研究を始めました。
論文情報:
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