電波法施行規則一部改正案と同規則第3条第1項第15号の規定に基づく告示案をみてみようと思います。あくまで私の個人的認識と意見です。
1 電波法施行規則一部改正案について
電波法施行規則一部改正案 (改正案) 十五 アマチユア業務 金銭上の利益のためでなく、もつぱら個人的な無線技術の興味によつて行う自己訓練、通信及び技術的研究その他総務大臣が別に告示する業務を行う無線通信業務をいう。 十六 簡易無線業務 簡易な業務のために行われる無線通信業務をいう。 (現 行) 十五 アマチユア業務 金銭上の利益のためでなく、もつぱら個人的な無線技術の興味によつて行う自己訓練、通信及び技術的研究の業務をいう。 十六 簡易無線業務 簡易な無線通信業務であつて前号に該当しないものをいう。 |
「もっぱら」は、通常「ひたすら」などの意味で利用されていますが、法令で使用される語としては「主として」の意で利用され、電波法施行規則に規定する「アマチュア業務」の中には、「個人的な無線技術の興味によつて行う業務」ではない業務が元々あり得ます。それが何であるかは従来示されていません。
なお、この「もっぱら」の語については、以下の疑問点があります。
電波法施行規則に規定するアマチュア業務の定義は以下のとおりです。
この定義は、昭和25年6月30日に施行された最初の電波法施行規則の規定から変わっておりません。このアマチュア業務の定義は、1947年にアトランティック・シティーで開催された会議で採択された「RADIO REGULATIONS」における以下の「Amateur Service」の定義を翻訳したものと思われます。
この「RADIO REGULATIONS」は、その翻訳が逓信省告示第489号(官報号外第48号昭和23年12月20日)にあり、以下のとおりです。
また、現在有効な「Radio Regulations」における「amateur service」は以下の様に定められています。
この現行の「amateur service」の定義は、1979年世界無線通信主管庁会議(WARC-79)の最終文書に記載された「Amateur Service」の定義から変わっておりません。WARC-79の最終文書の翻訳である郵政省告示第915号(官報号外第88号昭和55年12月26日)における「Amateur Service」の定義は以下のとおりです。
「solely」を「もっぱら(専ら)」と訳すことでは一貫していますが、「solely」の意は「主として」ではなく、「唯一」、「単に」、「完全に」、「のみ」など他を含まないことの意です。また、「with a personal aim」の意を表現するとともに、「solely」は「with a personal aim」のみにかかることを明確にした方がよいと思われます。これらを踏まえれば、現行「Radio Regulations」の「Amateur Service」の翻訳は以下の様になるのではないかと思われ、「もっぱら」の語による曖昧さはなくなり、「個人的な目的のみをもって無線技術に興味」をもって行う業務ではない業務はアマチュア業務ではないことになります。
現行「Radio Regulations」は、正式には「国際電気通信連合憲章に規定する無線通信規則」であり、「国際電気通信連合憲章」は条約です。電波法第3条には「電波に関し条約に別段の定があるときは、その規定による。」の規定があり、仮に電波法に基づく総務省令である電波法施行規則と「Radio Regulations」との間に齟齬を生じるのであれば、「Radio Regulations」の規定を優先する可能性はあります。 |
2 告示案全体について
総務省告示第 号 電波法施行規則(昭和二十五年電波監理委員会規則第十四号)第三条第一項第十五号の規定に基づき、総務大臣が別に告示する業務を次のように定める。 令和 年 月 日 総務大臣武田 良太 電波法施行規則第三条第一項第十五号に規定する、金銭上の利益のためでなく、もっぱら個人的な無線技術の興味によって行う総務大臣が別に告示する業務は、次の各号に掲げる業務とする。 一 特定非営利活動促進法(平成十年法律第七号)第二条第一項に定める特定非営利活動に該当する活動その他の社会貢献活動のために行う業務 二 国又は地方公共団体その他の公共団体が実施する事業に係る活動(これらに協力するものを含む。)であって、地域における活動又は当該活動を支援するために行うものであり、かつ、金銭上の利益を目的とする活動以外の活動のために行う業務 附 則 この告示は、公布の日から施行する。 |
(1)「個人的な無線技術の興味によって行う業務」ではない業務の追加
電波法施行規則のアマチュア業務の定義同様、「もっぱら」は、「主として」の意であり、70~80%以上の意味ですから、同告示案の「もっぱら個人的な無線技術の興味によって行う総務大臣が別に告示する業務」には、「個人的な無線技術の興味によって行う業務」ではない業務があり得ます。
今回の告示は、「個人的な無線技術の興味によって行う業務」ではない業務を含む業務を「アマチュア業務」追加したと思われます。実際、告示案に規定された業務の中には、「個人的な無線技術の興味によって行う業務」であるとは考えられないものがあります(例えば、消火活動中の消防団員が負傷者を発見しその救助活動を行うための通信を行うような場合)。この告示に規定される業務の少なくとも一部は「個人的な無線技術の興味によって行う業務」ではなく、これまで簡易無線業局、陸上移動業務の陸上移動局や基地局で行われているか行われるべきものと考えられます。このため「簡易無線業務」の定義から「前号に該当しないもの」を削除したと思われます。
(2)告示の規定は免許人自身の活動に対する条件
アマチュア局の運用については、「アマチユア局の送信する通報は、他人の依頼によるものであつてはならない(無線局運用規則第259条)」、アマチュア局の開設については、「免許人以外の者の使用に供するものでないこと(無線局(基幹放送局を除く。)の開設の根本的基準第6条の2第3号)」の規定がありますので、アマチュア局の開設や運用は免許人自身のためであることが前提であり、免許人が所属する法人や団体の活動、アマチュア局免許人が協力又は支援をする対象となる法人、団体、個人等の活動のためではないと考えられます。
告示に規定される業務は、免許人が自身の活動のために行う業務を規定するものであり、「金銭上の利益のためでなく」及び「金銭上の利益を目的とする活動以外の活動」も、免許人が所属する法人や団体の活動、免許人が協力又は支援をする対象となる法人、団体、個人等の活動に対する条件ではなく、免許人自身の活動に対する条件であると思われます。
(3)「金銭上の利益のためでなく」について
告示で規定される業務全体に対しては、「金銭上の利益のためでなく」が条件とされており、第2号に対してはさらに「金銭上の利益を目的とする活動以外の活動」が条件とされています。別添1の2ページ目の絵の中で、第2号の例示として、「有害鳥獣対策」の活動のためにハンター自身が免許人となるアマチュア局を運用するケースや「消防団活動」のために、消防団員自身が免許人となるアマチュア局を運用するケースが示されています。消防団員はその活動に対して報酬が支給され、害獣の駆除に対してもハンターには報酬が支給されますので、告示に規定する業務においては、無報酬が条件ではないことは明らかです。「金銭上の利益のためでなく」の条件が付されている以上、無制限ではないと思いますが、どのような報酬が可又は不可となるのかは明示的に示されていないのでわかりません。
(4)法人免許人の可否
無線局(基幹放送局を除く。)の開設の根本的基準には以下の規定があります。
(アマチユア局) 第六条の二 アマチユア局は、次の各号の条件を満たすものでなければならない。 一 その局の免許を受けようとする者は、次のいずれかに該当するものであること。 (1) アマチユア局の無線設備の操作を行うことができる無線従事者の資格を有する者 (2) 施行規則第三十四条の八の資格を有する者 (3) アマチユア業務の健全な普及発達を図ることを目的とする社団であつて、次の要件を満たすもの (一) 営利を目的とするものでないこと。 (二) 目的、名称、事務所、資産、理事の任免及び社員の資格の得喪に関する事項を明示した定款が作成され、適当と認められる代表者が選任されているものであること。 (三) (1)又は(2)に該当する者であつて、アマチユア業務に興味を有するものにより構成される社団であること。 二 その局の無線設備は、免許を受けようとする者が個人であるときはその者の操作することができるもの、社団であるときはそのすべての構成員がそのいずれかの無線設備につき操作をすることができるものであること。ただし、移動するアマチユア局の無線設備は、空中線電力が五〇ワツト以下のものであること。 三 その局は、免許人以外の者の使用に供するものでないこと。 四 その局を開設する目的、通信の相手方の選定及び通信事項が法令に違反せず、かつ、公共の福祉を害しないものであること。 五 その局を開設することが既設の無線局等の運用又は電波の監視に支障を与えないこと。 |
現在、法人であるアマチュア局免許人は一般社団法人であるJARLのみです。告示に規定された活動を行い、上記省令の規定を満たす法人であれば、アマチュア局の免許人となることは可能と思われます。
3 告示第1号について
「特定非営利活動促進法(平成十年法律第七号)第二条第一項に定める特定非営利活動」は以下の活動です。以下に示す活動に該当すればよく、特定非営利活動法人(NPO法人)が行う特定非営利活動である必要はないです。
特定非営利活動促進法第二条第一項 この法律において「特定非営利活動」とは、別表に掲げる活動に該当する活動であって、不特定かつ多数のものの利益の増進に寄与することを目的とするものをいう。 別表(第二条関係) 一 保健、医療又は福祉の増進を図る活動 二 社会教育の推進を図る活動 三 まちづくりの推進を図る活動 四 観光の振興を図る活動 六 学術、文化、芸術又はスポーツの振興を図る活動 七 環境の保全を図る活動 八 災害救援活動 九 地域安全活動 十 人権の擁護又は平和の推進を図る活動 十一 国際協力の活動 十二 男女共同参画社会の形成の促進を図る活動 十三 子どもの健全育成を図る活動 十四 情報化社会の発展を図る活動 十五 科学技術の振興を図る活動 十六 経済活動の活性化を図る活動 十七 職業能力の開発又は雇用機会の拡充を支援する活動 十八 消費者の保護を図る活動 十九 前各号に掲げる活動を行う団体の運営又は活動に関する連絡、助言又は援助の活動 二十 前各号に掲げる活動に準ずる活動として都道府県又は指定都市の条例で定める活動 |
「その他の社会貢献活動」ですが、「社会貢献活動」は、貢献の対象となる社会の範囲が様々であり、貢献にも直接的貢献、間接的貢献があり、活動にも個人から法人、団体まで各種活動がありますので、非常に多種多様の活動があると思われます。アマチュア局免許人の活動が、「特定非営利活動促進法(平成十年法律第七号)第二条第一項に定める特定非営利活動に該当する活動その他の社会貢献活動」であって、「金銭上の利益のためでなく」であれば、その活動のためにアマチュア局を運用できるということです。前述のとおり「金銭上の利益のためでなく」は、無報酬を意味するものではないということです。
なお、別添1の2ページ目の絵には、以下の活動が例示として示されています。
●災害ボランティアでの活用 情報伝達・災害救助活動の支援 避難所運営安否確認 自主防災活動 避難情報の収集・避難者の誘導 消防団活動の連絡補助 支援物資の運搬 避難所・ボランティアセンターの運営 がれきの撤去 倒壊家屋の片付け ●ボランティア活動での活用 マラソン大会・体育大会 祭り・地域行事 地域の清掃活動 地域の観光案内 |
上記の「災害ボランティアでの活用」における例示については、これまで目的外通信である電波法第52条第4号の非常通信として行われていたケースもあると思いますが、これらを「アマチュア業務」に含めたということです。
別添1の2ページ目の絵には「ボランティア」の語の記載があります。「ボランティア」は、通常自己の意思で無償の活動を行う人を意味しますが、告示第1号には「ボランティア」の語はありませんので、告示第1号に規定される活動を行う者がボランティアであるという条件はありません。
4 告示第2号について
「地域における活動」及び「金銭上の利益を目的とする活動以外の活動のために行う業務」は全体に対する条件です。別添1の2ページ目の絵には例示として、消防団活動及び有害鳥獣対策が示されています。第2号が示す活動には、この二つの条件の下で次の4通りのケースがあります。
なお、第2号には、第1号同様、ボランティアであるという条件はありません。
①国又は地方公共団体その他の公共団体が実施する事業に係る活動 ②国又は地方公共団体その他の公共団体が実施する事業に係る活動に協力する活動 ③国又は地方公共団体その他の公共団体が実施する事業に係る活動を支援するために行う活動 ④国又は地方公共団体その他の公共団体が実施する事業に係る活動に協力する活動を支援するために行う活動 |
(1)消防団活動
①に含まれると思われます。特別職の地方公務員である消防団員が、例えば消防組織法に基づく消防事務を行うために、その消防団員自身が免許人となるアマチュア局を運用するということと思われます。
(2)有害鳥獣対策
④に含まれると思われます。例えば地方公共団体の事業として行われる有害鳥獣対策に対して、猟友会(公益社団法人又は一般社団法人)が協力し、猟友会の社員(一般法人法で規定される社員)であるハンターが猟友会の活動を支援する活動のために自身が免許人となるアマチュア局を運用するということと思われます。
(3)「協力」、「支援」について
②~④には「協力」や「支援」の語が使用されています。④の例示からみて、「協力」や「支援」に無償であるという条件はありません。
(4)「金銭上の利益を目的とする活動以外の活動」
既に「金銭上の利益のためでなく」が条件とされている上に、「金銭上の利益を目的とする活動以外の活動」が条件として付されています。同じことを意味しているように見えますが、通常、同じ制約条件を二重にかけることはないので、この2つの違いは何でしょうか。
5 告示は従来のアマチュア無線の性格を大きく変更
告示案は、従来のアマチュア無線の性格を大きく変更するものであると考えられます。
- 「個人的な無線技術の興味によって行う業務」ではない業務がアマチュア業務に含むと規定され、「個人的な無線技術の興味によって行う業務」ではない業務のためのみに、アマチュア局を開設し運用できること
- 「個人的な無線技術の興味によって行う業務」ではない業務による通信と「個人的な無線技術の興味によつて行う自己訓練、通信及び技術的研究の業務」による通信が、同じ周波数帯において対等に行われること
- アマチュア局免許人自身が報酬を得る告示に規定された活動のために、アマチュア局を運用することができること
6 課題と思われる点
(1)「金銭上の利益のためでなく」に抵触する場合が不明である
無報酬が条件でないことは明らかですが、省令に規定する「金銭上の利益のためでなく」に抵触する場合がどのようなものであるのかが明らかになっていません。
(2)給与を得ている者は「金銭上の利益のためでなく」に抵触するのか
以下のような告示に規定する活動により生活の糧として給与を得ている社員や職員は、その活動のために、自身が免許人となるアマチュア局を運用できるのかということであり、生活の糧として得る給与の対象となる活動は、省令に規定する「金銭上の利益のためでなく」に抵触するのかどうかということです。
- 告示第1号に規定する社会貢献活動を事業として行う法人の職員がその事業に従事する活動のために、自身が免許を受けたアマチュア局を運用することができるのか。
- 告示第2号に規定する事業を行う国又は地方公共団体その他の公共団体の職員がその事業に従事する活動のために、自身が免許を受けたアマチュア局を運用することができるのか。
(3)公共事業に関わる者はその活動のためにアマチュア局を運用できるのか
国や地方公共団体の事業である公共事業を受注した企業の社員、受注した企業の下請けとなる企業の社員や個人事業者は、その公共事業に従事する活動のために自身が免許人となるアマチュア局を運用できるのかということです。
公共事業は国や地方公共団体の事業であり、元受け企業、下請け企業及び下請け個人事業者は営利目的でそれぞれ公共事業を受注していますが、元請け企業は国や地方公共団体に有償で協力していると言えますし、下請け企業及び下請け個人事業者は元請け企業に有償で支援しているともいえます。その社員は、給与を得てその事業に従事するという点では、上記(2)の社員や職員と何ら変わりません。
(4)2種類の無線通信が対等な立場での混在
「個人的な無線技術の興味によって行う業務」ではない業務による通信と「個人的な無線技術の興味によつて行う自己訓練、通信及び技術的研究の業務」による通信が同じ周波数帯で混在することになります。後者の業務は特定の時刻に特定の周波数で通信を行わねばならない必要性はあまり高くないと思いますが、前者の業務は、特定の地域で、特定の時間帯に特定の周波数を占有することが考えられます。消防団による人命の保全に関わる通信もありますので、干渉を可能な限り避けることが必要となる場合があるでしょう。
前者の業務は非常に多岐にわたり、土日祭日などに非常に多数のアマチュア局が多くの地域で運用される場合が考えられます。また、テンポラリに行われる活動では、通信はその活動が行われたときのみ行われますが、法人や団体が年間を通じて継続的に行っている活動では、常時継続的に行われる通信や周波数を定めて待ち受けが必要な通信もあり得ます。
前者の業務を確実かつ円滑に行うためには、両業務の周波数による住み分けが必要であると思われますが、これはJARLがバンドプランで定めるのでしょうか。法令に基かないルールに実効性があるでしょうか。一方で、前者の業務による通信と後者の業務による通信を周波数で住み分けてしまうと、事実上、後者の業務のための周波数帯の削減となりそうです。
「前者(新たに許可されようとしている簡易無線的な方)の業務による通信と後者(従来のアマチュア無線の方)の業務による通信を周波数で住み分けてしまうと、事実上、後者の業務のための周波数帯の削減となりそう」だからこそ、前者目的の通信には、アマチュアバンド内でも434.00MHzと439.00MHzの2周波数だけをバンドプランとして法制化するのが良いと思うのです(同様の考え方で、53MHz帯を割り当てる、などの工夫も否定しませんが、差し当たりわかりやすいところで、これら2周波数を例示しました。)。これら2つの「チャンネル」は、現行のアマチュア業務で事実上使用されていないカードバンドチャンネルであり、今日の技術における周波数安定度で考えれば、大きな支障なく使用できると考えられるからです。