先月、次期学長が決まった東京大と筑波大で、その選考過程をめぐって疑義が出ている。
折しも日本学術会議の問題を機に、大学の自治や研究者の自律に注目が集まる。社会の信頼を失う行いをすれば、学問・研究の基盤を自ら掘り崩すことにもなりかねない。混乱の収拾を急ぐとともに、再発を防ぐ仕組みづくりを検討すべきだ。
東大では4学部長を含む教員らが、学内・学外者同数ずつで構成する「総長選考会議」に説明を求めた。問われたのは、1次候補10人が2次候補3人に絞り込まれた経緯だ。
学内の代議員による投票で上位だった候補が外される一方、工学部系の2人が残った。選考会議の議長を務めた工学部出身の小宮山宏・元総長が誘導したとの疑念が生じ、同氏はプロセスの検証を約束した。ところがその直後に選考会議の録音データが消去されたことが発覚し、第三者委員会を設けて調査する事態となった。
在任8年目に入った現学長が来春以降も続投することが決まった筑波大でも、選考会議が学長任期の制限を撤廃したことなどを批判して、一部の教職員が公開質問状を送るなどした。
学長選考での透明性確保は、他大学にも共通する課題だ。
以前は教員投票で決める大学が多かった。民主的な一方で派閥争いも起きた。国は04年に国立大を法人化した際、学内外を問わず経営能力のある人が学長に就くべきだとの考えから、選考会議で決める制度を導入。14年には、投票が行われても会議がそのまま結果に従うのは「不適切」とする通知を出した。
予算配分や人事など権限強化が進む学長と、意思表示がままならなくなった現場との間に距離ができ、不信や不安を抱える教員が増えている。だからこそ選考会議の運営は公正・透明でなければならないのに、内実を伴っていない例があることを、今回の混乱は示している。
正当性に疑念を持たれたまま学長に就任しても、指導力を発揮することはできない。
そうならないよう、選考会議の議事録を充実させるほか、例えば、選考途中でも情報開示や説明を求める権利を教員らに保障し、そのための要件や手続きを定める。選考会議におかしな振る舞いがあれば、リコールできるようにする――といったルールを大学自らが整え、チェック機能を高めてはどうか。
教員一人一人が関心を寄せ、必要とあれば声を上げられる仕組みにすることが、選考会議に緊張感を与える。組織を健全に維持するうえで相互の抑制と均衡が大切なことは、大学においても変わりはない。
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