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 5年前に続く、市民からの2度目の「ノー」である。維新は推進してきた構想を断念し、現行制度を前提に課題の解決に取り組まなければならない。

 大阪市を廃止し、東京23区のような特別区を四つ設ける大阪の都構想は、住民投票で再び反対多数となった。維新が看板政策に掲げて10年。5年前の住民投票で一度否決されたが、昨春の知事と市長の「クロスダブル選」での勝利をてこに、再び今回の投票にこぎつけた。

 しかし結果は変わらず、「大阪市をなくすな」という反対派の訴えが支持された。

 大阪市が担う施策のうち、大型のインフラ整備など広域にわたるものを大阪府に移し、特別区は教育や福祉など身近な行政に集中する。そうして、過去に見られた府と市による二重行政や主導権争いを防ぐ。これが都構想のねらいだった。

 だが市民の間には、特別区に移行した後、行政サービスはどう変わり、どれだけの負担を求められるのか、疑問と不安があった。再編後の財政見通しについて試算が乱立したこともあって、「説明が不十分」との声は最後まで消えなかった。

 都構想の実現を待たずに府と市の間で類似施設の統合が進むなど、二重行政の解消で一定の成果が見られることも、市民の判断に影響を与えたようだ。

 残念だったのは、これだけの労力と費用をかけながら、地方自治の本質に迫る議論が深まらなかったことだ。行政への参加を住民にどう促し、地域の特性に応じた街づくりを、いかに進めるかという課題である。

 人口270万人余の大阪市に対し、新設予定だった四つの特別区は約60万~75万人。区長と区議会議員は選挙で決まり、独自の制度を設けたり、施策を講じたりできるようになることが利点の一つとされていた。

 きめ細かく施策を展開するという考えも、都構想とともにお蔵入りということではあるまい。「大阪市」の下でどう工夫を凝らすか。引き続き検討してもらいたい。

 都構想が浮かびあがらせた課題は大阪特有のものではない。

 14年の地方自治法改正で、指定市と道府県の連携強化や、指定市内での分権による住民自治の拡充が図られたが、部分的な手直しにとどまった。愛知や新潟で県と指定市の再編構想が浮かんだり、横浜市などのグループが県からの独立をめざす「特別自治市」を唱えたりしたが、進展は見られない。

 地方制度の中で指定市をどう位置づけ、将来の姿を描くか。10年に及んだ大阪での試行錯誤の成果と限界を踏まえながら、議論を深めていきたい。

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