このページでは当院の代償性発汗の取り組みを記述します。
代償性発汗はETS術後の副作用です。手術を担当した主治医がフォローするべきものです。このページは当院で手術を受けた患者様に対してメッセージです。
これからETSを受ける患者様は、術後の代償性発汗のフォーローアップが受けられる施設を選ぶ必要があります。
現在本邦では、当クリニック以外で、代償性発汗に取り組んでいる施設は見当たりませんが、それでも他施設で手術を受けた患者様は、手術を受けた施設においてご相談ください。 当クリニックでは、他施設の副作用に対しての治療はご遠慮させていただいております。
当院はこれまでETS を1万1千件以上担当し代償性発汗の手術治療を
百件以上行ってきました。
代償性発汗はどの程度の量から病的というかで発現頻度は変化しま。
そのため報告する評価者により代償性発汗の数字は異なっています。
日常生活に不自然さを感じる発汗量の増加がみられた場合と日常生活が困難になる場合を代償性発汗と定義するとすれば、
初回手術で最高位(頭側程高いと定義する)の遮断がT2遮断では7-8%、T3とT4では3-5%程度出現します。
結論は、代償性発汗は治療して改善できます。
初回のETSにおいて、対策が可能です。現時点では、代償性発汗の発生原因が明らかとなっています。
ETSを考えている患者様で代償性発汗が心配な患者様は多汗症教室において詳しく説明しております。
当院における2012年以降
病的と言える代償性発汗の発生頻度は
3/1000です。
従来の成績に比べて格段に減少しました。
当院では病的な代償性発汗を抑えるいくつかの技術を手術に用いています。体表面の血液循環量をレーザードップラー法を用いて行う
skin vasucularityを手術に役立てます。
この技術は次の動画のように各交感神経が皮膚表面の血流を制御・管理している様子が観察できます。
video へのリンク
T4切除に続き右顔半分の血流が減少しています。
よく見ると右半分の鼻翼は血流が減少していません。
T3切除ではT4と同じように右顔半分の血液循環量が少なくなります。
さらにT4では変化がなかった右鼻翼にも変化が及びます。
この人では鼻翼はT3からの制御を受けていることが分かります。
このような皮膚血液循環量は交感神経によって支配されており、体中に各交感神経が制御しています。血液循環量と発汗の支配はおおむね重複しているため、どの交感神経がどの皮膚に関係しているかを手術中に観察して手術しなければ、多汗症手術はうまくいきません。このskin vasucularityにも個人差があり、手術を難しくしています。
個人差をしっかり把握したうえで手術を行うことが求められるのです。
したがって。T4で代償性発汗が抑えられるというものでもありません。要するにT3とほぼ同率です。T2よりは少ないといえますが、手の多汗などの改善が乏しく、おすすめの治療とはなりません。
T4 切除で代償性発汗が抑えられるという事はありません。
もしそうであれば、私を含め多くの医師がT4切除をしているでしょう。
T4は効果が乏しく、残念な結果になることが多くあります。代償性発汗もでると大変です。T2は効果は強くのですが、代償性発汗の頻度がT3・4より多いのが残念です。
手の汗を止める効果を強く望むと代償性発汗も強くなるという医師がいます。このような医師が、T4切除を進めることが多いようです。
代償性発汗と手の汗の減少効果と連動しているように説明されると納得しそうになりますが、そうではありません。独立事象と考えなければなりません。
T4切除を受けた後手の汗は半分も止まっていないのに、強い代償性発汗になった患者様が私のところに相談してきます。このような患者様は、前医に失望しているので手術を受けたところに行かないのが一般的のようです。手の汗が止まることと代償性発汗が現れることは別問題です。ETSでどの交感神経を手術するかで誘導される別の問題というべきです。
代償性発汗は以下の実証例に表れているように、手の汗が少なくなることと代償性発汗の状態は関係ありません。
代償性発汗に陥ったらもう最後と考えている医師や患者様も一部にはいるのですがそうでもありません。
(すでに生じた代償性発汗が改善しないと認識している医師は専門医としての技術・経験に不足しています。)
ETS後に生じる代償性発汗の程度はさまざまですが、
病的に多量の場合には治療を行っています。
たくさんのETSおよび代償性発汗の治療経験から
当院は独力で病態の解明を行ってきました。
代償性発汗は下の写真に見られる如く、発汗量の多い
皮膚部分の汗腺に多量の発汗信号が届けられた結果です。
(多量の発汗を促す神経伝達はやはり交感神経です。)
代償性発汗の原因を作っている交感神経の所在が
判明すればその遮断で代償性発汗も消失します。
この論理と実証は、2015年チリでの国際交感神経外科手術シンポジウムで発表しました。他2か国の演者も同様の発表がありました。
徐々に各国で普及していく期待が持てます。
追記:チリにおいてもそうですが、これまでの国際学会の発表では当院が最多手術例数であり、代償性発汗の治療件数も最大数をキープしています。
代償性発汗とは背中の広範囲に多量の汗が
出現し、日常生活に不便・不快をきたします。
このような体の多汗も改善が可能です。
(他施設でETSを受けた方は、手術を受けた施設において対応していただくようにお願いします。)
(患者様の同意を得て、写真の掲載をしております。)
体表温度を観察するサーモグラヒィで見ると
発汗部分に一致して皮膚温の低下を伴っています。
このように激しい代償性発汗が、ETSの術後に現れる確率は、T4あるいはT3単独切除で3~5%、T3とT4の二か所切除で6%程度あります。
(これでもT2の7-8%より少ない。)
この確率は、すべての人に一律の治療を行った場合ですが、どの部分の交感神経の手術がこのような代償性発汗を引き起こす原因かという事が分かれば、代償性発汗の治療と予防が可能です。
当院では、手術中の交感神経への電気刺激試験により、各交感神経節が制御する皮膚領域の確認をすることで、上記患者の代償性発汗に関与する交感神経の解剖学的所在を求めることに成功しております。
当院独自の技術ですが、上記患者様の代償性発汗の治療を行い右半身の代償性発汗の改善を得ています。
右の背部・胸部・腹部・腰の代償性発汗は改善しております。サーモグラヒィにおいても、右側の皮膚温度が正常皮膚温となっています。
当院では代償性発汗を治す技術として、術中交感神経の電気刺激試験に取り組んで来ました。
この技術があるかないかで代償性発汗の発現頻度も変わりますし、代償性発汗が出ても治せるかどうかに関わってきます。
代償性発汗を訴える患者様の多くは、上記患者様のような厳しい程度ではないことが多いのです。本人は苦痛・不快と思っていても、第三者からは病的と言う程度ではないことが多くあります。
それ故、ETSでどの交感神経を手術すると術後どの部分の汗が増えてくるのかが術中に判断できるこの技術が必要となります。
この技術を初回のETSにも用いて、厳しい代償性発汗が現れないETSに努めております。
患者様は背中・胸の広範囲の代償性発汗を特に不快と訴えますので、この部位の発汗の程度ならびに範囲を極力少なくするように、手術の交感神経の部位の選択を行っております。
代償性発汗はETSの副作用として知られていますが、治療者の技術の差でもあります。
代償性発汗にどのような取組を行ってきたかが治療者側の評価基準です。
これから、ETSを受けようとする患者様は治療施設選びに代償性発汗のフォローアップも検討項目に加えていただきたいと存じます。
過去に当院でETSを受け、代償性発汗でお困りの方には連絡を取っていただきたく思っております。
上記の患者様の左側の手術後(約1年後)の写真を追加します。術前と同じ運動を行っています。両側の代償性発汗が改善していることがわかります。
以下の文章は2015-8-30更新以前と同じです。
体験談
当院でのリバーサルを受けた方からのメール:
(術後7日)
こんにちは!
このところの汗の様子をお知らせします。
少しだけ気温が、下がってきたとは思いますが、
1.2週間前の外出や家での行動と同じ事をしてみて
汗の威力が、すこし衰えたように思え
すごく楽になってきました。
昨年の夏と比べれば もう雲泥の差が、
あり本当に嬉しいです。 ありがとうございます。
汗が多いのは 背中 膝からでる汗が、多いです。
ですが…汗が減ったと実感出来ることが
あれっという感じで差をここ2~3日? でしょうか
本当にありがとうございます。
先生が 難しい私の体質に付き合ってくださり
本当に感謝しています。
まだTシャツ 一枚は難しく
観察を続けて また相談させてください。
右側の手術も 時期をみてお願いしたいと考えています。
では また連絡します。
失礼いたします。
(術後一ヶ月)
山本先生 こんにちは 1ヶ月後の近況 お知らせします。
汗の量は 今の季節下では かなり減りました。
ありがとうございます。
特に 前面が上下半身共 減りました。
背中の汗は、思っていたより早い段階で かきはじめます。
しかし 量が今のところ少ないのとしっこさが軽くなって
助かっています。
エアコンの温度にすごく反応してくれるようにもなりました。
以前は 一度汗が出始めると…20分近く 流れ続けて
本当に困りましたが…今は 温度の上下に敏感になり
汗もひいていくようになりました。
汗の順番は背中-お腹膝下-お尻-
太もも後ろでしょうか?
本当に 熱さを感じると残念ながら全身
下半身からもすっごい汗を
かくのだなぁ~とも感じているので
これから夏に向けて どうなのかと
心配はすごくありますが… 今の段階では
あれこれ無理だと思っていた普通人が普通に
出来ている事が、出来る喜びを感じています。
今までは 一年中汗で悩まされていましたが
季節によっては 困らない時期が、できたように思います。
まだ自分の身体が、把握できていないため
不安は大きいですが 確実に楽になっています。
リバーサル手術を受ける事が出来て
本当によかったです。
ありがとうございました。
今後もよくよく観察しながら
また相談させていただきます。
よろしくお願いします。
リバーサル手術をお受けになった患者様の体験談(コメント)を一覧できるように致しました。
全ての患者さまは当院ではなく他の施設でETSをお受けになった方々です。
厳しい代償性発汗の患者さまに共通するものとして初回に両側のETSをなさっております。
当院の方針
今後はしばらくの間は代償性発汗の手術の最終的な説明の際には
複数の患者さまに立ち会っていただく事にしました。
手術をお受けになる患者さまの術前の状態と術後経過が明らかになり
当院で行う代償性発汗の治療成績が示されるようになります。
これからは、代償性発汗の治療経過が明示され、当院の治療の有効性が多くの人々により
証明されることになります。
( 代償性発汗の治療は保険診療ではなく自費診療です。)
Q and A
費用は前回手術のないようによって異なりますが、当院の方針として
全く効果が得られない場合には、全額返金します。
これまで当院で代償性発汗の治療を受けた患者様で効果が全くなかった方はおられません。
少しでも代償性発汗の改善を希望される方には、効果が期待できます。
●既に代償性発汗に困っている方々へ
ホットライン
お問い合わせ電話 090-2386-9313 山本英博
(当院の患者さまのみ対応します。)
この pageの目的
胸部交感神経遮断あるいは切除術(ETS)に伴う代償性(反射性)発汗
(sweating, 以下CSと略す)の発生予防・解決方法。
リバーサル手術に対する私の取り組みを述べ、代償性発汗の解決法と
今後の展望を述べて行きたいと思います。
現在、代償性発汗の治療で保険承認されている治療法はありませんが、
海外では遮断した部分を別の自家神経移植により再生を促すリバーサル手術が行われています。
海外のリバーサル手術では代償性発汗が改善するだけでなく、手の発汗が戻ってしまいます。
海外の手術のコンセプトを以下に示します。
- 下腿あるいは肋間神経を用いてETSにおいて切除したT2の部位に見合う長さだけ取り出す。
- T2の部位で神経の断端を露出し取り出してきた神経の自家神経移植を行う。
- 移植される神経片は縫合あるいはフィブリン糊などで愛護的に固定する。
このリバーサル手術はETSで切断した神経を完全に移植した神経で再生を図るものでした。
2004年の国際学会ではT2の再建に第二肋骨の肋間神経を約3センチ程度を剥離したのち
切断しT2の頭側の断端につき合わせて固定する手術がなされていました。
このリバーサル手術もT2の再建を図ることには変わりませんが、
移植神経片の吻合部分が1箇所ですむので再生する率が向上することが期待されます。
前者の手術成績では40%前後の有効性が報告されていますが、後者は術後成績の報告はまだされていません。
神経片の移植は、その他の領域で多く行われており、甲状腺がんや食道がんの手術で声帯にいく反回神経を切除した場合に神経片移植術が行われています。有効性は30-40%の報告が多く見られます。
しかしながら、自家神経片を下腿あるいは肋間神経を用いた場合にはとり出した神経がつかさどっていた領域の感覚障害が発生します。
CSが改善してもしなくても感覚障害は残ります。
小生が2000年7月に行ったのは、多汗症の患者ではなく交感神経の腫瘍の患者様です。
病歴・病態を略記します。
- 患者様の主症状は、背中の汗が増加して困るというものでした。
- 精密検査の後、前述の病変が発見されました。
- 第1から第2胸部交感神経節に発生した神経腫瘍のため交感神経が機能しなくなり
ETSを受けた状態と同様に体の汗が増加したと考えられました。
交感神経腫瘍ですから切除することになったわけですが、
単に交感神経腫瘍を切除したのでは背中の汗が減少することは期待できません。
以下に手術のコンセプトを示します。
- 腫瘍が大きさから判断してこの手術は内視鏡ではなく一般的な開胸術でおこないました。
- 開胸は第四肋間で行い、開胸部の肋間神経を3センチ採取しました。
- 腫瘍切除と同時に採取した肋間神経でリバーサル手術を行いました。
背中の発汗は術後まもなくから改善し、術後3カ月経過後には明確な改善がみられました。
小生は、この経過から神経片の再移植手術の有効性を実感しております。
現在の術式
現在は、ETSでは第3・4・5の交感神経幹の遮断を行っており、
T345のレベルから交感神経を取り出しT2へ自家神経移植を行います(図1・2・3)。
図1
通常T2を遮断された部分には胸膜肺癒着があり剥離に時間を要する。
図2
T3・4・5レベルには奇静脈など太い血管が存在し交感神経の摘出が不可能な場合もある。
この場合には手術は見合わせになる。
図3
T3・4・5レベルから神経を摘出できれば(図は4・5を摘出している)T2への神経移植が可能となる。
以上のように、手のひら多汗症で第二交感神経幹(T2)の切除のみが行われている患者様ではT3・4・5を採取しT2への再建は技術的に可能です。
2000年に小生が考案しました。
肋間神経を採取するのではないため、感覚障害はなくてすみかつ手の汗はリバーサル手術後も抑制された状態となります。
これまでに代償性発汗の解決を目指して13例に行いました。
代償性発汗の改善がおおむね有効性は40%にみられました。
ただ、このリバーサル手術はETS前の状態に体を戻す手術ではありません。
ETS術前の手のひら多汗症のときと比較すると手の汗は停止あるいは減少した状態です。
手の汗が出てくる手術ではありません。
そのため、良い点と悪い点について十分な理解ができてのち手術を検討してください。
2006年10月11日 21:37:11 掲載開始
2016年1月3日 更新
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